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9月5日(水)午後12時55分

 泥棒チームの清と健三は、ペナルティーとして牢屋からのスタートになる。2人は集会場を出てすぐに武装した政府の集団に連れられ、学校の方へ歩いて行った。

 逃走している泥棒は私を含めて6人。10分という時間はあまりにも短い。私たちは、作戦を話し合う余裕もなく、散り散りになってしまった。
 はずだったのだが、

「お兄ちゃん」

 小麦色に肌が焼けたポニーテールの美少女、阿部小町が私の背後で不安そうな声を漏らす。
 普段、可愛いゴムで髪を縛っているが、今は政府の清水から渡された黒色のバンダナで髪の毛をまとめている。

 白いショートパンツの下からは、見るからに健康的な筋肉質の足が覗いている。高校でソフトテニス部に入っている小町は、運動神経が良い。
 靴も水色のスニーカーと走りやすそうだ。

 ファッションに疎い私でも小町の着ている服が可愛いということが分かる。小町自身が可愛いということもあって本当によく似合っている。
 高校に入ってから何度も告白をされているらしいし。納得だ。

「はぁ」

 そんな小町が大きなため息をついた。
 いつも兄にべったりだった小町だが、今回その兄の克也は警察チームだ。
 自分が生き残ってしまったら兄の克也が脱落してしまう。かといって、自分が脱落する訳にもいかない。

 そういった葛藤からなのか、小町は先程からずっとこの調子なのだ。

「小町ちゃん、誰かと合流しようか」

「いい。私はここに残る。ここから動かない」

 私と小町は、集会場から距離を取るべく無我夢中で走り続けていたらいつの間にか山の中に来ていた。
 泥棒に許された逃走範囲は、集会場の周りの家がある居住エリア。バリケードで囲われている山の中。学校の敷地内。
 大きく分けてこの3つだ。

 その中でも1番面積の広い、山を選択したのだが、味方も敵の姿も見えない。
 ひょっとしたら警察側はまだ追ってきていないのかもしれない。牢屋の防衛もしなくてはいけないから、作戦を立てているのだろうか。

「ずっと同じ場所に残るのは危ないと思うよ」

 いくら山の中が広いといっても、同じ場所にとどまり続けていたら遅かれ早かれ見つかってしまう。
 ルールを読む限り、ドロケイは鬼ごっこのようなものだから、敵の背後を取って行動し続ければ捕まらないと思うのだけど。
 でも、鬼が多人数だから別な鬼に見つかる可能性もあるのか。ドロケイに必勝法は無いのかもしれない。

「ありがと。でも凛花だけ行っていいよ」

「う、うん」

 小町の意志は固いようだ。
 まあ、隠れていることが一概に悪いとは言えないからここは別々で行動してみるか。

 そう自分に言い聞かせ、小町に背を向け10歩ぐらい進むと、斜面の下から声が掛けられた。

「凛花ちゃん、そっちにいるのは小町か?」

「はい」

「パパ!」

 声を掛けてきたのは、小町の父、阿部太郎だった。娘の姿を見つけ、斜面を駆け上がってきた。

「他の人とは会ってないか?」

「ううん、凛花としか会ってないよ」

 さっきまで塞ぎ込んでいた小町も父親と再会することが出来て、少し落ち着きを取り戻したようだ。

「そうか。でも6人中3人が集まることが出来たのは大きいな」

「太郎さん、泥棒側の作戦として何か考えてることってありますか?」

「ああ、あと1人か2人集めて清と健三を助けに行こうと思ってる」

 残る泥棒チームは奈緒の母親、早坂拓海。私の母、万丈目真登香。矢吹由貴の3人だ。
 太郎以外は全員女性ということになる。足の速さや体力面を考えると、太郎の言うようにあと2人は欲しいところだ。

 しかし、この広い月柳村の中で出会える確率はそこまで高くないだろう。
 それに、助けに行くということは、捕まる確立がぐっと上がることになる。
 牢屋として使われている体育館を防衛している警察チームの包囲を突破しなくてはならないのだ。

 全員がこの作戦に乗るとは考えにくい。特に由貴は参加しないだろう。

「ねぇパパ、どうやって残りの人を探すの?」

「それは地道に探すしかないだろうな。でもなるべく早い時間に仕掛けたいんだ。時間が経つと捕まる人も出てくると思うし、警察側も守りに慣れるはずだからな」

「そうですね。誰か捕まってからだと手遅れですね」

 泥棒側のルールの最後に記載されていた【4、ゲーム終了時点に捕らえられていた者を脱落とする。また、最後まで捕らえられていた人数だけ生き残った者にも罰を与える】という文章。

 この罰が何を指しているのかが分からない。
 ここにきて初めて登場した罰という単語。考えられるのはやはり脱落だろうか。だとしたら、最後まで捕らえられていた人数の数だけ生存者も脱落することになる。

 3人捕まっていたらその3人プラス3人の合計6人が脱落してしまう。
 だから、すでにペナルティーで捕まっている清と健三は早い段階で助けなくてはならないのだ。

「最低でもあと誰か1人見つけたら体育館に行こうと思ってるんだが、凛花ちゃんもいいかな?」

「はい、私も行きます」

 例え生き残ったとしても脱落してしまう可能性があるのなら、その可能性を少しでも取り除いておきたい。

「小町はどうだ?」

「みんな行くなら私も行く。牢屋に行けばお兄ちゃんに会えるかもしれないし」

 語尾になるにつれてボリュームを下げていった小町だが、救出作戦には参加するようだ。

「小町、克也は一応警察なんだぞ。まぁいいか。そうと決まれば他に牢屋に行ってくれる人を探そう」

 私と小町と太郎による救出作戦の協力者探しが始まった。
 どこにいるか分からない警察の目を掻い潜って味方を見つけることができるのだろうか? いや、見つけなくてはならないのだ。