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9月4日(火)午後11時52分

 選別ゲーム2日目が終了するまで10分を切り、集会場の前には続々と村人が集まって来ていた。
 掲示板に集まるように書かれていたのだが、それを見たのだろう。他にも手錠を外すこと、宝箱を開封することなどが書かれていた。

 私と奈緒は、街灯の真下にいた。宝箱を取るために街灯の円筒を破壊したので、電球は剥き出しだ。
 遮るものが無くなった街灯は、いつもより明るく集会場の前を照らしている。

 あの後、宝箱は集会場の奥の部屋にいた政府の織田に預けた。肌身離さず持ったまま行動するには少し邪魔になるからだ。
 それにゲーム主催者である政府が細工をするとは思えない。不正ありきだとゲームが成り立たなくなるからそこは安心できる。
 他のペアも織田に預けているみたいだし。

 集会場に集まってからというもの、みんな手錠や宝箱の中身について話していた。
 みんなと言っても昨日に比べて生き残っている人は少ないのだが。

 まず克也と小町の家族が4人。奈緒の家族が3人。私の家が3人。大吾と大吾の母親の恭子。清と健三、それから奈美恵と由貴の合計16人だ。

 年寄りが奈美恵と由貴に集中的に狙われて亡くなってしまったので、村民の平均年齢がぐっと下がった。それを知るのは私と奈緒だけ。

 ベンチの前に集まった人々の間では、どこで宝箱を見つけたか、誰が死んだか、ゲーム続行不可能とは何か? などについて話題がどんどん移り変わっていってる。
 ちょうど今はゲーム続行不可能とは何かについて話し合っているようだ。

 その様子を少し離れた所から奈美恵と由貴が見ていた。自分たちが引き起こしたことだから話に入れないのは当然か。それともただ単に会話に入るのが面倒くさいのか。私の予想だと恐らく後者だ。

 その他にも会話に混ざっていないペアがもう1つ存在した。
 清と健三だ。タバコを口に咥えた清が遠くを見つめ、時より健三に何か話しかけていた。遠いので会話までは聞こえなかった。

「凛花、宝箱見つけたんだってな。よかったよ」

 克也と小町が話し合いの輪から抜けて声を掛けてきた。

「うん。まさか街灯の中にあるなんて思わなかったよ」

 私がそう言い、奈緒が街灯を見上げた。

「昼間だと、街灯なんて見ないもん。気付かなくて当たり前だよ」

 小町の言うように日中に街灯の中まで意識を向けることはなかった。向けようとも思わなかった。
 世の中にある大抵の物は、使う時にしか目を向けないものだ。

「他の人は、宝箱どこで見つけたって言ってたの?」

 最初から会話の輪の中に入っていた克也と小町なら知っていると思い、訊いてみた。

「えっと、大吾と恭子さんは、凛花の家の近くにある掲示板の下で見つけたんだって。パパとママは、木の上に引っ掛かってたのを長い棒で取ったみたい。凛花のパパとママは、学校のグラウンドで見つけたって言ってたよ。みんな銀色だってさ」

「隠されてる難易度によって色が違うのかな?」

「そうかもね」

 小町が頷いた。同じことを考えていたみたいだ。
 掲示板の下も木の上もグラウンドもすぐに目に付く。

 それに比べて奈緒の両親は、奈美恵のポストの中って言ってたし、私と奈緒は街灯の中だ。一見しただけでは分からないようになっている。
 他の人にも聞いてみないと分からないけど、難易度が高い方が金色のようだ。

「それと、話変わって悪いんだけど殺人鬼は見つけることが出来なかった。奈美恵先生と由貴さんにも訊いたけど、それらしい人はいなかったとよ。茂夫さんも死んじまったし、どうするんだか」

 克也が不安を漏らす。

「実は私と奈緒は、山の中で茂夫さんの死体を見つけたんだ」

「マジか!」

「左胸の辺りを斧で切られたみたい」

「ってことは、茂夫さんも殺人鬼に殺されたのか」

 克也と小町には、殺人鬼の正体を伝えなかった。
 2人を信じていない訳ではないけれど、こんな場所じゃ誰が聞いているか分からない。

「どうした奈緒、眠そうだな」

 隣に立っている奈緒の目がとろんとしている。今にも寝てしまいそうだ。

「この時間はいつもなら布団の中だからね。もう眠いよ。ふぁーあ」

 奈緒の大きなあくびにつられて私まであくびが出た。
 私も普段ならもう布団に入っている頃だ。本の続きが気になって仕方ない時はもう少し夜更かししちゃうけど。

「お待たせしました。時間になりましたので、2日目のゲームは只今を持ちまして終了になります」

 政府の織田が集会場の中から出てきた。部下の清水も一緒だ。
 2人を取り囲むように武装した選別ゲームの関係者が大勢出てきた。さながらVIPゲストを護衛するSPのようだ。
 織田の後から出てきた清水は、全員分の宝箱が乗せられた台車を押している。

「まずは皆様お疲れ様でした。初めに手錠の方を外させていただきます」

 手錠の鍵を持ったスーツ姿の男がみんなの手錠を外して回る。
 約12時間振りに自由になった。これで奈緒が暴れても腕が痛くならない。他の人も腕を伸ばしたり、肩を回したり体をほぐしている。

「それでは、宝箱の中身を皆様にお渡ししたいと思います」

 手錠を外している間に長机が用意され、その上に宝箱が並べられた。
 織田が1ペアずつ名前を呼び、宝箱を開いていく。

「早坂奈緒さん、万丈目凛花さん」

「はい」

 私たちが見つけた金色の宝箱。中身は一体何なのか?
 宝箱に鍵を差し込みロックを解除した織田が、もったいぶる様にゆっくりと宝箱を開いた。

「んっ?」

「サイコロ?」

 どんな宝物が入っているのかと目を輝かせていた奈緒が、期待外れとばかりに首を傾げた。
 宝箱の中に入っていたのは、赤色のサイコロが2つだけだった。

「1人1つ無くさずにお持ちください。いずれ使うことになりますので」

 織田にそう言われ、私と奈緒は1つずつ赤色のサイコロを手に取った。
 無くさずにと言われても、こんなに小さいんじゃ気が付いたらどこかにいってしまいそうだ。
 無くならないように私はポケットにしまった。

「何だった?」

 私たちより前に宝箱の中身を受け取っていた小町が歩み寄ってきた。克也も一緒だ。手錠で繋がれていなくてもこの兄妹は一緒にいることが多い。仲が良いのだ。

「赤いサイコロだった。ね、奈緒」

「うん」

「そっか。私は青色のサイコロだった」

「青?」

「銀色の宝箱の人はみんなそうだったみたい」

 いずれ使うことになる色分けされたサイコロ、か。うーん、分からない。
 金色の宝箱を見つけた清と健三のペアも中身は赤色のサイコロだったようだ。清がサイコロをコイントスのようにしていたのが見えた。

「全員終わったっぽいな」

 克也が呟くと、政府の織田が分かりやすく咳払いをした。

「ええ、さて3日目のゲームについてですが、開始時刻は正午を予定しております。時間までにまたここにお集まりください。1秒でも遅れたら即脱落にいたしますので、余裕を持って行動することをオススメします。それでは失礼します」

 織田が軽く頭を下げ、清水と共に集会場の中に入って行った。その際にも武装した選別ゲームの関係者は2人を護衛していた。

 次はどんなゲームが待っているのか?
 最後まで何人生き残ることが出来るのか?

 久し振りに訪れた選別ゲームのことを考えなくてもいい時間。
 しかし、誰しもが今後のことを考え、恐怖や不安に押しつぶされそうになっていた。

 ついこの間まで希望に満ちた明るい未来が待っていると思っていたのに。今は絶望でしかない。長い長い先の見えないトンネルの中を歩いているみたいだ。
 せめてトンネルの先に光が見えてくれればいいのに。どれだけ小さな光でもいい。見えるか見えないかとでは大きな違いだ。