あれから東條くんとは一度も顔を合わせていない。学年が違うのだから当然といえば当然だ。
そもそも彼は不登校気味らしい。そんなことを教科担当の先生から聞いたのは、ノート運びの件のあとだった。
あの日、一緒にノートを運んでから先生は私たちの仲がいいと勘違いしたらしく、「東條をよろしく頼む」とまで言われてしまった。頼まれる筋合いはないと思いながらも曖昧に頷き、その場を凌いだ。
できることならこのまま会うことなく、いつも通りの生活を過ごしたい。
そう願いながら迎えた昼休み。
――なぜか私の隣には彼が座っている。
「先輩も体育祭実行委員なんですか? 奇遇ですね」
東條くんの顔には、相変わらずの偽りの笑みが貼り付けられていた。周りに人がいるからか、敬語まで使っている。今の東條くんは、どこにでもいるような高校生に見えた。
でも今はそれ以上に気になることがあった。
「何でいるの?」
今日、この教室では体育祭実行委員の一回目の会議が行われる。三年生は受験で忙しいので、ここに集まっているのは一・二年生だけ。
体育祭実行委員はとにかく仕事量が多いことで有名で、誰もやりたがらない。
本当は私だって来たくなかった。けれど、普段からみんなに優しく接してるせいで、こういう時だけ頼りにされてしまう。
そんな委員に東條くんが自分から進んで入るなんて、どうしても思えなかった。
「学校休んでたら押し付けられちゃって。友達もいないから誰も反対してくれなかったんですよ」
「それは……災難だったね」
まるで他人事のように話す彼に、かける言葉がそれ以外に見つからなかった。
「先輩こそ、なんでここに?」
さらっと話をふられ、言葉に詰まる。
「……断れなかっただけ」
「へえ、お人好しなんですね」
その口調は私を面白がっているようだった。口には出さないが「キャラ作りも大変ですね」とでも言いたげな視線をこっちに送ってくる。
目は口ほどに物を言うとはまさにこのこと。
秘密を知られているせいか、彼に視線を向けられると本心までも見透かされているような気がしてならない。
それが嫌で、わざと反対側に顔を向けた。その直後、先生が教室の前方で手を叩いた。騒がしかった教室内は静まり返り、視線が一箇所に集まる。
「みんな集まったようだな。じゃあこれから第一回目の会議を始めようと思う。さっそくだが君たちには二人組みを作ってもらいたい。この委員会では毎年、二人一組で各役割にあたってもらっているからな」
その場にいた人達が、静かに顔を見合わせる。みんな誰かが動き出すのを待っているようだった。けれど、動き出すどころか口を開けようとする人さえいない。
「……と言っても顔を合わせたことのない人がほとんどな様だし、すぐにペアを作るのは難しいか」
先生は腕を組み、少し考える素振りを見せる。
「そうだな。ひとまずは隣の席の人とペアを組んでくれ。学年を跨ぐペアもあるだろうが、これもいい経験だろう」
隣の席の人。それは私が一番組みたくない人だった。首をゆっくり隣の方に向ける。
目が合った東條くんはにっこりと笑っていた。
「僕たちきっと上手くやれますよ。先輩もそう思いますよね?」
「そう、かもね」
私はそれに苦笑いで返す。
どうしてこんなにも悪いことばかり起きるんだ。なにか神様に嫌われるようなことでもしてしまったのだろうか。
しばらくの間、そんなことを一人で悶々と考えていたけど、考えたところで状況が変わるわけでもなく、起きてしまったことは仕方がないと割り切ることにした。
その後の会議ではそれぞれの組に役が割り振られた。黒板に書かれた役割リストを眺める。どうやら私たちの担当は『借り物競争』らしい。他のペアと一緒にやるみたいだが、東條くんと一緒ってだけで気が重い。
「一通りの役割は決められたから今日はここまで。次の会議日はまた連絡する」
先生がそう言ったとき、既に時計の針は一時を示していた。昼休みが終わるまであと二十分しかない。
急いで教室に戻って、ご飯を食べようと椅子から立ち上がったとき、後ろから声をかけられた。
「あの、借り物競争の担当者ですよね?」
「はい、そうですけど」
そこにいたのは同じ借り物競争の担当者だった。どちらも可愛い女の子だ。私たちが応じると、その人たちは顔をぱっと輝かせた。
「よかった! 今から細かい役割分担について話しませんか? こういうのって早めにしといた方がいいと思うんで」
「……今から?」
「はい!」
元気のいい返事に耳が痛くなる。正直、今すぐ教室に戻りたい。だけど悪気があって言っているわけじゃないのが伝わってくるから、断りずらい。
ばれないように小さくため息をつき、覚悟を決める。
「そうですね。ぜひお願いします」
私がそう言うと、二人はペンと紙を取りに行ってしまった。結局断わることができなくて、静かに肩を落とした。ああ、本当に面倒くさい。
さすがに東條くんを巻き込むのは良くないなと思い、こっそりと彼の方を窺う。
「東條くんは先に戻っといていいよ。私話しとくから」
「……いや、いいですよ。僕も残ります。どうせ戻っても暇ですし」
その返事に思わず目を見張る。こういうとき東條くんはさっさと帰るイメージがあったからだ。最低な男のはずなのに、その本心は違う気がしてならない。
思い出して見れば、一週間前もノートを運ぶのを手伝ってくれた。でもあのときは取り引きだと言っていたし、純粋な善意からしたことだとは思えないけど。
考えれば考えるほど東條くんがよくわからなくなる。
チラッと彼の横顔を盗み見た。東條くんは呑気に伸びなんてしている。
「何ですか? そんなに見られると照れちゃいますよ」
その口元は控えめに弧を描いていた。私に少し見られただけで照れるような初心な男の子には到底見えない。
彼の人をからかうような笑顔に、さっきの考えが馬鹿に思えてきた。やっぱり東條くんのことは考えるだけ無駄だ。
「別になんでも」
「まあ、いいですけど」
納得はしていないようだったが、それ以上は何も言ってこなかった。
話が一区切りついたちょうどそのとき、二人がバタバタと音を立てながら戻ってきた。
「お待たせしました! では始めましょう」
それから細かい役割分担についての話し合いが始まった。東條くんも相槌をうちながら、しっかりと話し合いに参加している。
さっきも今も彼は同じ敬語を使っているはずなのに、今は妙にしっくり来る。穏やかに話を聞いている今の東條くんは好青年にしか見えない。
真面目にメモをとっている姿なんて普段の飄々とした態度とかけ離れすぎて、違和感を覚えるくらいだ。
ふと東條くんと目が合った。すると彼は少し微笑んでから、私にしかわからないほど小さな声で耳打ちしてきた。
「ぼーっとしてないでちゃんと話聞いてよ、先輩」
――やっぱりこいつは油断ならない。
熱がこもって赤くなった頬が他の二人にばれないように俯く。こんなにも初心な自分を呪ったことはない。
その後の話は全く頭に入ってこなかった。最後にやっと自分たちの役割を理解したくらいだ。気づけば買い出しは二人が行ってくれることになっていて、私たちはお題を考えるだけでいいらしい。
ふと時計を見ると昼休みは残り五分をきろうとしていた。これでご飯はお預けだ。私と東條くんはそれぞれの教室に戻るために並んで廊下を歩く。
彼との距離をできるだけ空けるために歩幅を緩めてみる。けれど、そんな私の努力を気にもとめず、東條くんは歩幅を合わせると口を開いた。
「そういえば先輩の名前ってなんですか?」
予想の斜め上をいく質問に開いた口が塞がらない。
「えっ、嘘でしょ。あんた今まで知らなかったの? 先輩ってことは最初から知ってたのに?」
「知るわけないですよ。先輩ってわかったのは僕と靴の色が違うからです」
東條くんは「ほら」と言いながら自分の靴を指さした。確か靴の色は学年ごとに違っている。そのことを今の今まですっかり忘れていた。
「で、名前なんなんですか?」
「今さら?」
「今さらでもなんでも知っといた方がいいと思ったんで」
東條くんは歩きながら横目でこっちを見た。確かにこれから一緒に作業していくなら名前を知らないと不便かも知れない。
「……斎森奈緒」
渋々口を開き、名前を口にする。すると東條くんは何やら満足気に頷いた。
「斎森奈緒、ですか」
「何?」
含みのある物言いに、私はつい聞き返してしまう。
「なんか先輩っぽい名前だなと思って」
「そりゃ、私の名前だからね」
何を当たり前のことを言っているのかと思ったが、東條くんは首を横に振った。
「いや、そういうのじゃなくて」
「じゃあ何が私っぽいの?」
東條くんはどう表現するべきか迷っているように見えた。そこまで考えられると、逆に気になってしまう。
「んー、お人好しな感じとか?」
「あんた私のこと馬鹿にしてるでしよ」
あれだけ真剣に考えていたくせに、返ってきたのはあまりにも軽い言葉だった。東條くんは悪びれる様子もなく笑っている。
「そんなことないですよ」
「……ふーん」
やっぱり彼の言うことを真に受けてはいけない。そう思って適当に話を流すことにした。
そんな会話をしていると、いつの間にか廊下の角にさしかかっていた。自分の教室に行く為には、階段を上らなくちゃいけない。
「じゃあね」
軽く手を振って階段を上ろうとしたとき、背後から東條くんに「奈緒先輩」と呼び止められた。
「お互い名前知ってると、なんだか親しくなった気がしません?」
「そんなことあってたまるか」
笑みを浮かべる彼にそう言い放ち、踵を返す。その言葉は間違いなく私の本心だ。でもなぜか、その日は一日中、東條くんが最後に言った言葉を忘れられずにいた。
そもそも彼は不登校気味らしい。そんなことを教科担当の先生から聞いたのは、ノート運びの件のあとだった。
あの日、一緒にノートを運んでから先生は私たちの仲がいいと勘違いしたらしく、「東條をよろしく頼む」とまで言われてしまった。頼まれる筋合いはないと思いながらも曖昧に頷き、その場を凌いだ。
できることならこのまま会うことなく、いつも通りの生活を過ごしたい。
そう願いながら迎えた昼休み。
――なぜか私の隣には彼が座っている。
「先輩も体育祭実行委員なんですか? 奇遇ですね」
東條くんの顔には、相変わらずの偽りの笑みが貼り付けられていた。周りに人がいるからか、敬語まで使っている。今の東條くんは、どこにでもいるような高校生に見えた。
でも今はそれ以上に気になることがあった。
「何でいるの?」
今日、この教室では体育祭実行委員の一回目の会議が行われる。三年生は受験で忙しいので、ここに集まっているのは一・二年生だけ。
体育祭実行委員はとにかく仕事量が多いことで有名で、誰もやりたがらない。
本当は私だって来たくなかった。けれど、普段からみんなに優しく接してるせいで、こういう時だけ頼りにされてしまう。
そんな委員に東條くんが自分から進んで入るなんて、どうしても思えなかった。
「学校休んでたら押し付けられちゃって。友達もいないから誰も反対してくれなかったんですよ」
「それは……災難だったね」
まるで他人事のように話す彼に、かける言葉がそれ以外に見つからなかった。
「先輩こそ、なんでここに?」
さらっと話をふられ、言葉に詰まる。
「……断れなかっただけ」
「へえ、お人好しなんですね」
その口調は私を面白がっているようだった。口には出さないが「キャラ作りも大変ですね」とでも言いたげな視線をこっちに送ってくる。
目は口ほどに物を言うとはまさにこのこと。
秘密を知られているせいか、彼に視線を向けられると本心までも見透かされているような気がしてならない。
それが嫌で、わざと反対側に顔を向けた。その直後、先生が教室の前方で手を叩いた。騒がしかった教室内は静まり返り、視線が一箇所に集まる。
「みんな集まったようだな。じゃあこれから第一回目の会議を始めようと思う。さっそくだが君たちには二人組みを作ってもらいたい。この委員会では毎年、二人一組で各役割にあたってもらっているからな」
その場にいた人達が、静かに顔を見合わせる。みんな誰かが動き出すのを待っているようだった。けれど、動き出すどころか口を開けようとする人さえいない。
「……と言っても顔を合わせたことのない人がほとんどな様だし、すぐにペアを作るのは難しいか」
先生は腕を組み、少し考える素振りを見せる。
「そうだな。ひとまずは隣の席の人とペアを組んでくれ。学年を跨ぐペアもあるだろうが、これもいい経験だろう」
隣の席の人。それは私が一番組みたくない人だった。首をゆっくり隣の方に向ける。
目が合った東條くんはにっこりと笑っていた。
「僕たちきっと上手くやれますよ。先輩もそう思いますよね?」
「そう、かもね」
私はそれに苦笑いで返す。
どうしてこんなにも悪いことばかり起きるんだ。なにか神様に嫌われるようなことでもしてしまったのだろうか。
しばらくの間、そんなことを一人で悶々と考えていたけど、考えたところで状況が変わるわけでもなく、起きてしまったことは仕方がないと割り切ることにした。
その後の会議ではそれぞれの組に役が割り振られた。黒板に書かれた役割リストを眺める。どうやら私たちの担当は『借り物競争』らしい。他のペアと一緒にやるみたいだが、東條くんと一緒ってだけで気が重い。
「一通りの役割は決められたから今日はここまで。次の会議日はまた連絡する」
先生がそう言ったとき、既に時計の針は一時を示していた。昼休みが終わるまであと二十分しかない。
急いで教室に戻って、ご飯を食べようと椅子から立ち上がったとき、後ろから声をかけられた。
「あの、借り物競争の担当者ですよね?」
「はい、そうですけど」
そこにいたのは同じ借り物競争の担当者だった。どちらも可愛い女の子だ。私たちが応じると、その人たちは顔をぱっと輝かせた。
「よかった! 今から細かい役割分担について話しませんか? こういうのって早めにしといた方がいいと思うんで」
「……今から?」
「はい!」
元気のいい返事に耳が痛くなる。正直、今すぐ教室に戻りたい。だけど悪気があって言っているわけじゃないのが伝わってくるから、断りずらい。
ばれないように小さくため息をつき、覚悟を決める。
「そうですね。ぜひお願いします」
私がそう言うと、二人はペンと紙を取りに行ってしまった。結局断わることができなくて、静かに肩を落とした。ああ、本当に面倒くさい。
さすがに東條くんを巻き込むのは良くないなと思い、こっそりと彼の方を窺う。
「東條くんは先に戻っといていいよ。私話しとくから」
「……いや、いいですよ。僕も残ります。どうせ戻っても暇ですし」
その返事に思わず目を見張る。こういうとき東條くんはさっさと帰るイメージがあったからだ。最低な男のはずなのに、その本心は違う気がしてならない。
思い出して見れば、一週間前もノートを運ぶのを手伝ってくれた。でもあのときは取り引きだと言っていたし、純粋な善意からしたことだとは思えないけど。
考えれば考えるほど東條くんがよくわからなくなる。
チラッと彼の横顔を盗み見た。東條くんは呑気に伸びなんてしている。
「何ですか? そんなに見られると照れちゃいますよ」
その口元は控えめに弧を描いていた。私に少し見られただけで照れるような初心な男の子には到底見えない。
彼の人をからかうような笑顔に、さっきの考えが馬鹿に思えてきた。やっぱり東條くんのことは考えるだけ無駄だ。
「別になんでも」
「まあ、いいですけど」
納得はしていないようだったが、それ以上は何も言ってこなかった。
話が一区切りついたちょうどそのとき、二人がバタバタと音を立てながら戻ってきた。
「お待たせしました! では始めましょう」
それから細かい役割分担についての話し合いが始まった。東條くんも相槌をうちながら、しっかりと話し合いに参加している。
さっきも今も彼は同じ敬語を使っているはずなのに、今は妙にしっくり来る。穏やかに話を聞いている今の東條くんは好青年にしか見えない。
真面目にメモをとっている姿なんて普段の飄々とした態度とかけ離れすぎて、違和感を覚えるくらいだ。
ふと東條くんと目が合った。すると彼は少し微笑んでから、私にしかわからないほど小さな声で耳打ちしてきた。
「ぼーっとしてないでちゃんと話聞いてよ、先輩」
――やっぱりこいつは油断ならない。
熱がこもって赤くなった頬が他の二人にばれないように俯く。こんなにも初心な自分を呪ったことはない。
その後の話は全く頭に入ってこなかった。最後にやっと自分たちの役割を理解したくらいだ。気づけば買い出しは二人が行ってくれることになっていて、私たちはお題を考えるだけでいいらしい。
ふと時計を見ると昼休みは残り五分をきろうとしていた。これでご飯はお預けだ。私と東條くんはそれぞれの教室に戻るために並んで廊下を歩く。
彼との距離をできるだけ空けるために歩幅を緩めてみる。けれど、そんな私の努力を気にもとめず、東條くんは歩幅を合わせると口を開いた。
「そういえば先輩の名前ってなんですか?」
予想の斜め上をいく質問に開いた口が塞がらない。
「えっ、嘘でしょ。あんた今まで知らなかったの? 先輩ってことは最初から知ってたのに?」
「知るわけないですよ。先輩ってわかったのは僕と靴の色が違うからです」
東條くんは「ほら」と言いながら自分の靴を指さした。確か靴の色は学年ごとに違っている。そのことを今の今まですっかり忘れていた。
「で、名前なんなんですか?」
「今さら?」
「今さらでもなんでも知っといた方がいいと思ったんで」
東條くんは歩きながら横目でこっちを見た。確かにこれから一緒に作業していくなら名前を知らないと不便かも知れない。
「……斎森奈緒」
渋々口を開き、名前を口にする。すると東條くんは何やら満足気に頷いた。
「斎森奈緒、ですか」
「何?」
含みのある物言いに、私はつい聞き返してしまう。
「なんか先輩っぽい名前だなと思って」
「そりゃ、私の名前だからね」
何を当たり前のことを言っているのかと思ったが、東條くんは首を横に振った。
「いや、そういうのじゃなくて」
「じゃあ何が私っぽいの?」
東條くんはどう表現するべきか迷っているように見えた。そこまで考えられると、逆に気になってしまう。
「んー、お人好しな感じとか?」
「あんた私のこと馬鹿にしてるでしよ」
あれだけ真剣に考えていたくせに、返ってきたのはあまりにも軽い言葉だった。東條くんは悪びれる様子もなく笑っている。
「そんなことないですよ」
「……ふーん」
やっぱり彼の言うことを真に受けてはいけない。そう思って適当に話を流すことにした。
そんな会話をしていると、いつの間にか廊下の角にさしかかっていた。自分の教室に行く為には、階段を上らなくちゃいけない。
「じゃあね」
軽く手を振って階段を上ろうとしたとき、背後から東條くんに「奈緒先輩」と呼び止められた。
「お互い名前知ってると、なんだか親しくなった気がしません?」
「そんなことあってたまるか」
笑みを浮かべる彼にそう言い放ち、踵を返す。その言葉は間違いなく私の本心だ。でもなぜか、その日は一日中、東條くんが最後に言った言葉を忘れられずにいた。



