戦隊、メジャーな戦隊モノは昔から存在しているがそれらだけでなく各地のご当地戦隊やテレビ企画から生まれたもの、またアイドルが戦隊になるなどいろんな戦隊が日本だけに限らず全世界にいる。

 それは世の中に欲にまみれて怪人になってしまったものが増えてきたという証拠である。物価高、就業難、だけでなく物欲食欲性欲はもちろんのこと進化するSNSと共に自己顕示欲や承認欲求……さまざまな欲望を抑えられない人たちが増えてきたのだ。

 それはあの2年前の地球滅亡のアナウンスの時から急激し、怪人は多発的に増え地球が滅亡するならと自己中に欲望を満たそうとするものが増えた。
 それには流石にメジャーな戦隊たちだけでは対応できなくなり急遽政府は戦隊を募ることになった。

 ただの要請ではない。戦隊になると『戦隊手当』がもらえて怪人を倒すたびに報酬が与えられるだけでなく、怪我をしても治療費、出動で公共交通機関や車などを利用したら交通費などが与えられた。

 すると各地にいろんな団体や個人が手当や名誉を得たいがためだったり、子供の頃からの夢を叶えるために戦隊になり怪人たちをやっつけていった。
 もちろんこの高校の戦隊部たちもエントリーして地域の怪人たちを倒すことに貢献、あとは隕石衝突回避に向けての訓練も重ねていった。

 しかし地球滅亡まであと半年になると怪人よりも戦隊が増えてしまい戦隊飽和時代に突入、政府は財源に底をつかしたのかいきなり戦隊認定制にして認定戦隊飲みにしか手当を全額支給しないとなったところで全国で大騒ぎしたところで地球滅亡回避である。

 回避してもなお政府も政府で認定制をやめないこともあってそれと共に戦隊は減っていき、この田舎の高校にある伝統的な戦隊部も認定が降りなかったことと地球滅亡回避も伴い部員も減っていった。

 蘭は三年生だが中学から大学までエスカレーター式の学校のため翌年の三月までこの部に在籍することになっているが地球滅亡回避はできても戦隊部滅亡回避の危機に悪戦苦闘しているのだ。

「しかもこないだ戦隊部花形エースの伊集院家三男、ゴーゴーブルー伊集院圭佑《いじゅういんけいすけ》が戦隊部活動中に大怪我……下半身付随のため活動停止。それに伴ってファンクラブも解体……相棒のゴーゴーピンクの城真吾《じょうしんご》は悪党部に鞍替え。子供の頃は悪党になりたかったって……はぁどういうことかしら」

 圭佑も幼馴染で太郎の同学年だがおぼっちゃまの彼とは格差がありクラスも違った。彼がイケメンということもって人気者であったし、恋人の真吾とゴーゴーダブルという名で戦隊をやっていたことも、先日の事故の件も知ってはいた太郎はザマアミロしか思っていなかった。

「同じ3年の山部長はどちらかといえばプロデューサー志向で一年生の時に戦隊になってしまったし……唯一一年生で1人入ってくれたけどその子はメジャー戦隊の素面戦士ファンってことだけで入部してきただけだし……顧問の高橋に関してもアイドルと戦隊オタクでバスケ部との兼任……機能はしていないし」

 メジャー戦隊になることは俳優の登竜門でもあるし、戦隊になることで知名度を上げて起業したり政界入りしたり……ある意味踏み台的なもの。戦隊を心底からなりたい人は減っている、だからこそ一時期質の悪い戦隊も増えたのもあって戦隊は認定制になったのは否めない。
 

「私とその子の女子だけの戦隊も需要はあるんだけども……強い怪人には挑むことはできない。怪人以外にも困ったおタクたちも付き纏う危険性もあるしアイドル戦隊という方向性は私もその子も嫌だから……男子が必要なの。それにこのままでは認定戦隊になるのも難しいのよ」

 目の前で苦悩する幼馴染を前に太郎はどうすればいいのだろうか、ここでカッコよく自分も戦隊になる、入部すると言ってもそう簡単なことではない。
 認定戦隊ではないと手当も十分に貰えない、履歴書に書いても認定戦隊じゃないから効力が効かない、圭佑みたいに怪我をしても圭佑は金持ちだったからこそであって田舎者の一般庶民の太郎の家庭では治療費などが重くのしかかる。
 それにあの仮面、コスチュームは冷静になって考えるとダサい。
 それは太郎だけでなく他の者たちも口を揃えて言う。
 だから太郎はすぐに言えない。

 だがいきなり蘭は太郎の手を握った。とても暖かい蘭の手。

「だからこそ精力漲って有り余っている太郎、あなたしかいないの。戦隊部に入って!」
「えっ!?」

 確かに太郎は蘭に手を握られただけで自分の大切な所に血流が集中していくのがわかる。それを隠すかのように蘭に背ける。
「お願い、よく一緒に子供の頃戦隊ごっこしたじゃない」
 太郎は気を紛らわすために過去を思い出した。幼稚園の頃、公園でよく蘭が戦隊に、なぜか太郎が怪人になって遊んでいたことを。
 蘭の夢は女性初メジャー戦隊のセンターになること。それは高校3年生になっても変わらないようだ。

 しかしその夢に付き合わされ何度も怪人になり馬乗りになった蘭にボコボコにされ泣かされた太郎……。

「馬乗りっ……がふっ!」
 騎乗位と連想してしまった太郎は赤面し、鼻血が……。

 ピピーピピー
 蘭の腕時計が鳴った。

「……いけない、学校に怪人があらわれたわ。太郎、今すぐきてちょうだい」
 と持っていたティッシュを太郎の鼻に詰める蘭。そして手を引っ張る。
「怪人?! いきなり?」