■調査報告書
 以下は、端末Aに記録されていた映像データの文字起こしである。映像には被害者と被害者を突き落とした犯人と思しき人物が橋の上で言い合いをしている場面が記録されている。

【端末A:映像記録(6月6日)】
映像開始(胸元からのアングルのため、人物の顔はあまり映らないが、声ははっきりと収録)
[足音が響く。川のせせらぎが近い。]
被害者:「……ここなら人も来なさそうだし、ゆっくり話せるよね」
犯人:「……じゃ、ここでいいかな。」
被害者:「あ、ちょ、ちょっと待って。なんかすぐ後ろは川だし…ここ、足場危なくない?柵も低いし…」
犯人:「大丈夫だよ。そんなことより、ねもちゃん何か言いたいことあるんでしょ? 私も聞きたいことあるんだ。」
被害者:「……うん。あのさ、ななみん、ハイキングの前くらいから私を避けてる感じだし、最近すごくピリピリしてる気がして…心配なんだ。なんかあったなら言ってほしい。私、また昔みたいに仲良くしたいの。」
犯人:「仲良くしたい? そんなの嘘だよね。裏で私のこと“ウザい”って言ってたくせに。」
被害者:「ウザい…って……たしかにさえがそう言ってたことはあるし、私も少し同調しちゃったのは悪いと思う。でも、それは…」
犯人:「やっぱり認めるんだ。嘘ついて、家族のことなんか話して、私を騙してた。全部嘘だったんでしょ?アイちゃんの言った通りだ。結局、私を突き落とす気なんでしょ? ここ人通り少ないしね。」
被害者:「突き落とす? そんなわけないじゃん! なに言ってるの…っていうか本当に勘違いだよ。両親のことも本当だよ!あれが嘘なわけないじゃん!」
被害者:「実は両親は離婚したの。もう手続きも済んで別居もしてて。本当は名字も変わったんだけど、あまり触れられたくないから学校ではそのままにしてるけど…。もうこれ以上ななみんを心配させるのも嫌だから、全部解決したって言ったの!」
[スマホの持ち主が身体が揺れ、それに合わせて映像が揺れる。]
犯人:「はあ…そうやって私を油断させるんだね。信じられないよ。結局、さえちゃんとグルになって私をハメたいんでしょ? 知ってるんだからね。裏垢で私の悪口書いてるのも。わざわざこんなとこに呼び出して、二人きりになって…!」
被害者:「違うってば! 聞いて…。さえの言葉に乗ってたのはごめんって思うけど…。ホントはななみんを嫌ったりしてないよ。戻りたいんだよ、昔みたいに……。
って、なにしてんの、そのスマホ。もしかして撮ってる?」
[画面に根本さんの手が映る。根本さんがnanamiの胸ポケットを見つけて、驚いた声を上げる。]
被害者:「……ね、これ撮影してるの? スマホ、光ってるんだけど……なんでそんなことしてるの!?
真面目に話してるときにやめてよ!カメラをこっちに向けないでよ!」
犯人:「べ、別にいいでしょ!悪気がないんだったら!」
被害者:「そういう問題じゃないでしょ!?ななみん、やっぱり変だよ。
やめてよ、そんなの――」
(被害者が手を伸ばし、スマホを取ろうとする動作が映る。)
犯人:「ちょ、触らないで……!やめてっ!」
(被害者がスマホを取り上げ、カメラが激しく動き続ける。)
被害者:「わ、わかったよ!返す、返すからそんなに押さないで!危ないから!」
(ガタン、という大きな揺れの後、被害者が橋の上から落下する)
(短い悲鳴をあげながら落下する被害者の姿を、落下し続けるスマホが断片的に捉えている)
(ドサッ、という落下音が近くから聞こえ、スマホが地面に叩きつけられる。)
映像が乱れ、音声が途切れる。ここで記録が終わる。