「ざ、財王……さん……?」

 今しがたまで感じていた殺意は途端に消え失せ、目の前の状況を理解しようと必死になる。

 俺は確かに、財王さんを殺すつもりで攻撃を仕掛けた。
 実際あの一撃が当たっていれば致命傷になっていただろうし、そうでなくとも大きなダメージを与えることは確実だったはずだ。

 けれど、俺の振り下ろした机は”当たっていなかった”。

 財王さんの頭に当たる前に、彼の頭が弾け飛んだのだ。まるで見えない力によって握り潰されたかのように。

「呪い、なのか……? トゴウ様の……?」

 明らかに人間の仕業ではない。それは目の前で見ていた俺が、一番よくわかっている。

 この教室には俺と財王さんしかいなかったし、第三者がいたとしても彼の頭を弾けさせるだなんて芸当は不可能だろう。

 財王さんは最終的には人形探しよりも、俺を殺すことだけが目的となっていた。それならば、人形探しを放棄したとしてルール違反と見なされたのだろうか?

 振り下ろしかけて行き場の無くなった机を、俺は脇に放り投げる。
 頭を失って倒れた財王さんの胴体はビクビクと痙攣し、首元の断面から噴き出す血で辺りは染まりつつあった。

「とうとう、俺一人になったのか……」

 人形探しも手詰まりで、残り時間ももう無い。
 結局誰の願いも叶うことなく、メンバー全員がトゴウ様によって呪い殺されることになってしまったのだ。

 目的を失った俺はその場に座り込み、ただ死を待つだけの屍のようだった。

 そのはずなのだが。

「ユージさんっ!?」

 教室に響いた声に、俺はとうとう幻聴まで聞こえるようになったのかと己の耳を疑う。けれど、そんな俺の元に一人の人物が駆け寄ってきたのだ。

「な……んで……」

「良かった、無事だったんですね!」

 そこに現れたのは、死んだはずのカルアちゃんだった。俺は目の前の光景が信じられずに、ただ呆然と彼女の顔を見上げる。

「ユージさん、大丈夫ですか? 酷い怪我……! 財王さんにやられたんですか?」

 だが、財王さんに殴られた俺の頬に触れる温もりは確かに現実のもので、放棄しかけた意識が一気に呼び戻された気がした。

「きゃっ……! ユージさん!?」

 俺は思わず、彼女の身体を強く抱き締めていた。幻覚などではない。本物のカルアちゃんが目の前にいるのだと、確かめたかったのだ。

 驚いていた彼女だが、俺が嗚咽を漏らしていることに気づくとおずおずと抱き締め返してくれた。

「カルアちゃん……! 良かった……っ、無事で……」

「ユージさんこそ、無事で良かったです。私、ユージさんにもしものことがあったらどうしようって……」

「俺も、カルアちゃんを守ることができなかったって、スゲー後悔してた。カルアちゃん、俺……っ」

 これが最後かもしれない。
 一度は彼女を失ったと思って、俺は本気で後悔した。その後悔を、もう二度と繰り返すことなんてしたくない。

 だから、人形を渡して今度こそ気持ちをはっきり伝えよう。そう思って彼女から身体を離そうとした時、俺はあることに気がついた。

(何で……)

 抱き締める腕を離そうとして偶然触れたコートのポケットに、小さな膨らみがある。そこで、隠しカメラに映っていた人形の行方を思い出した。

 俺の勘違いでなければ、ここにあるのは、俺の人形なのではないだろうか?

「ユージさん?」

 それに、俺はさらなる違和感に気がつく。
 カルアちゃんが生きていたのは嬉しいが、目の前の彼女の首元には、傷跡など一切見当たらないのだ。

 薄暗かったので別の人物と見間違えていたのかとも思ったが、トイレの個室で目にしたのは、間違いなくカルアちゃんの遺体だった。

 血糊を使って、死んだふりをしていたのか? だが、俺を相手にそんなことをする理由がない。身体だって冷たかった。

 第一あれだけ大量に出血していたのに、彼女の服は全然汚れていないではないか。

「……!!」

 そこで俺は、ようやくあの時感じた違和感の正体を理解することができた。
 薄暗くてはっきりとは見えなかったが、遺体となっていたカルアちゃんと、今日一日行動を共にしていたカルアちゃん。

 よく似てはいるが、改めて見ると身に着けている服装が違っていたのだ。

「ユージさん、どうしちゃったんですか? もしかして、他にも怪我をしたり……」

「カルアちゃん……俺さ、三階のトイレで死んでるキミのことを見つけたんだ。だから、俺は財王さんかトゴウ様にカルアちゃんが殺されてしまったんだと思ったんだよ」

「…………」

「なあ、答えてくれよ。あそこで死んでるカルアちゃんは誰なんだ? 俺の人形を持ってるキミは……一体誰なんだ?」

 彼女のポケットから抜き取った人形は、やはり俺のものだった。

 何か理由があるのかもしれない。あの遺体はトゴウ様による妨害の一種で、本物のように見せた幻だった可能性だってある。

 そう自分に思い込ませようとしたのだが、それはすぐに意味を成さなくなる。先ほどまで”カルアちゃんだった”彼女が、ゾッとするほど表情を失っていたからだ。

「そっか、見つけちゃったんだあ。上手に隠したと思ってたのに」

「隠したって……じゃあ、あれはキミの仕業なのか……?」

「そうだよ。でも、全部ぜーんぶユージくんのためにやったんだからね?」

「俺のためって……どういう意味だよ? そもそも、何でカルアちゃんが二人いるんだ!?」

 彼女の言っていることは、何もかもわけがわからない。

 カルアちゃんが自分を殺して、それが俺のため? 俺はカルアちゃんの死なんて望んでないし、目の前の彼女が誰なのかわからない。

 メンバーの誰もが配信者としての顔を持っているが、これがカルアちゃんの本当の顔だとでもいうのか。

 しかし、彼女の言葉は俺の想像のずっと上をいくものだった。

「ユージくん、まだ気づかない? 私、カルアじゃなくてマロだよ」

「マロ……って、え、もしかして……ゆきまろ……?」

「ピンポーン! ユージくんなら気づいてくれるかなって思ってたんだけど、マロの演技力が高すぎたかなあ?」

「いや、ちょっと待てよ……意味がわからない。カルアちゃんがゆきまろって……俺のリスナーのゆきまろとして書き込んでたのが、カルアちゃんだったってことなのか? けど、それじゃあ向こうのカルアちゃんは……」

「もー、ユージくんってば鈍感だなあ。そんなトコも好きなんだけど。コメントを書き込んでたマロは、カルアじゃなくてちゃんとマロだよ」

 彼女が何を言っているのかわからない。
 どう見たって、トイレで見たカルアちゃんの遺体と、目の前のゆきまろを名乗るカルアちゃんは瓜二つだ。

 二人は一卵性の双子だったのだろうか? それならばまだ、理解できるのかもしれない。

 だがニコニコとした笑顔を浮かべる彼女の顔は、確かにカルアちゃんだというのにまるで別人のように見える。
 どうしてこんなにも、彼女が見知らぬ人に思えてならないのだろうか?

「マロはね、トゴウ様にお願いしたんだよ。”カルアにしてください”って」

 ああ、今度こそ。
 俺は考えることを放棄してしまいたくなった。
「カルアちゃんにしてくださいって……何だよそれ? だって、トゴウ様の儀式はまだ終わってないだろ。願いを叶えるためには、自分の人形を燃やさないといけないんだから」

 そうだ、俺のコートのポケットにはまだ彼女の……カルアちゃんの人形が入っている。
 願いを叶えてもらったというのなら、この人形は彼女の手によって燃やされていなければおかしいはずなのだ。

「ユージくんたちの儀式はまだ終わってないよ。だけどマロの儀式はマロが成功させたの。だから、トゴウ様はマロのお願いを叶えてくれたんだよ!」

「ゆきまろの、儀式……?」

 彼女はまるで、今行われている儀式は自分には関係がないものであるかのような口ぶりで話す。
 それを聞いた俺はますます混乱しかけたが、ふと、視聴覚室で目にした光景が脳裏を過ぎる。

 自分たち以外にも、トゴウ様の儀式を行ったグループは過去に存在していた。

 彼女の言うことが事実なのであれば、俺たちがこの儀式を行う前に、ゆきまろはトゴウ様の儀式を成功させていたということなのか?

「マロの仲間はみんな呪いで死んじゃったけど、マロが最初に人形を燃やしたからお願いが叶ったんだ。本当はユージくんと結ばれるってお願いにしたかったんだけど……それじゃあダメだと思ったから」

「俺と結ばれる……?」

「ユージくんはカルアのことが好きだったでしょ? マロ、すごく悔しかったけど……自分の顔が嫌いだったし、可愛くなってユージくんとも結ばれたら一石二鳥! だから、カルアにしてってお願いしたんだよ」

 酸素が薄いわけでもないのに、自然と呼吸が浅くなっていくのを感じる。彼女の説明している内容はわかる。わかるのだが、理解することを頭が拒んでいるのだ。

「でもね、マロはカルアになれたけど、本物のカルアがいなくなるわけじゃなかった。だから、まずはカルアを殺すことにしたんだあ」

「殺すって……じゃあ、あのカルアちゃんの遺体はまさか……!」

「大変だったけど、マスクを被ってダミーちゃんのフリをしたらあっさり引っ掛かってくれたよ。もっと時間があったら、絶対見つからないように土にでも埋められたんだけど。ユージくんが思ったより早く来ちゃったから」

 あんな場所に隠して、誰かが見つける可能性の方が高かったのではないだろうか?

 ……いや、人形の隠し場所を探す上で、苦労してまで開かない扉を開けようとは考えなかったのかもしれない。
 現に俺だって、流れ出した血が無ければ気づかずに素通りしていただろう。

「でもね、それだけじゃないよ。ホラ」

「……!!?」

 カルアちゃんの姿をしたゆきまろが取り出したのは、財王さんの人形だった。人形の頭はクシャリと歪んでいて、まるで握り潰された後のようだ。

 さらに、ダミーちゃんの人形まで持っている。こちらは胴体部分が刃物で斜めに切り裂かれているようだった。

 その二つの人形を見て、俺はとてつもない恐怖を感じた。

 そんなことはあり得ないと思うのに、信じたくない事実が確信に近づいていく気がする。
 恐る恐る自身の手元にある自分の人形を見下ろしてから、震える声で彼女に問いを向けた。

「まさか、この分身人形って……持ち主の命と繋がってるのか?」

「大正解~!!!! あ、ねりの人形もね。見つけて頭を一回転させといたんだけど、暗くて気がつかなかったでしょ? アレ見つかった時、マロは内心ヒヤっとしたんだあ!」

 楽しげに語るゆきまろの感覚が、俺には到底理解できない。

 分身人形は持ち主と繋がっていて、その人形に危害を加えれば持ち主も同様に傷つけられることになる。それを理解した上で、ゆきまろは人形に手を下した。

 それはつまり、明確な殺意を持ってメンバーを殺していったということだ。

「トゴウ様の呪いじゃ……なかったのか……」

「ん~、ルール違反になったのは牛タルだけだったね。みんなより先に人形見つけるの、すっごく大変だったんだよ?」

「何で……どうしてみんなを殺す必要があったんだ? お前の願いはもう叶えてもらったんだろ。だったら、そもそもこの儀式に参加する必要だってなかったじゃないか」

「マロはね、参加しないとダメだったんだよ。だって、ユージくんを独り占めにしたかったから」

 ゆきまろは、自分の人形を持つ俺の手を取る。
 他のメンバーのように殺されるかもしれないと恐怖が走ったが、彼女は笑みを浮かべるとその人形に口付けた。

「牛タル、ねり、財王、ダミー……それと、カルア。ユージくん、個人配信以外はいつもこのメンバーと遊んでたよね」

 彼女の言う通り、俺が配信をする際に集まるメンバーはいつもこの五人だった。
 配信上にしか親しい者のいない俺にとって、彼らは仲間であり大切な友人でもあったのだ。

「だからね、トゴウ様の儀式をやるならユージくんはこの五人を集めると思ったの。全員いなくなれば、ユージくんにはもうマロしかいないでしょ? だからね、ユージくんが生き残れるようにマロ頑張ったんだよ」

 その言葉を聞いた俺はとてつもない嫌悪感を堪えきれず、彼女から離れて胃の内容物をすべて吐き出してしまった。

「オエッ……! ゲェッ!!」

「ユージくん、大丈夫? ここ、ちょっと臭うもんね。マロも気持ち悪くなるのわかるよ」

 狂ってる。
 この女は、狂っている。

 俺を独占するというただその目的のためだけに、五人もの人間を殺したというのか。
 五人だけじゃない。トゴウ様の儀式をしたというなら、そのメンバーの命をも奪っているのだ。

 だというのに、まるで無邪気な子どものように彼女は笑っている。

 もしかしたら、あの視聴覚室で映し出された儀式は、ゆきまろが行ったものだったんじゃないだろうか?

 だとすれば、こちらを睨みつけていた三人は……願いを叶えて生き残ったゆきまろのことを睨んでいたのではないのだろうか?

「そんな目的のために……俺に、トゴウ様の儀式をやるように連絡してきたのか」

「そんなって酷いなあ。マロとユージくんの将来のためだもん。ほら、時間が無いよ! 早くお願いしないと、”動画がめちゃくちゃバズりますように”って!」

「……そんな話を聞かされて、俺が本当に動画をバズらせるなんて願いを叶えてもらうと思ってるのか? 俺の願いは、みんなが生きてる儀式の前に戻ることだ」

 動画なんかどうだっていい。儀式の前に戻れるのなら、それだけで十分だ。
 そう思って人形をロウソクの火へと近づけたのだが、ゆきまろが俺の腕を掴んで制止してくる。

「離せよ、お前の指図は受けない……! 俺の願いを決められるのは俺だけだ!」

「いいよ、ユージくんの好きにして。だけどイイコト、教えてあげようと思って」

 時間稼ぎのつもりかと思ったが、俺が願いを叶える前にロウソクが燃え尽きてしまえば、俺は死ぬことになる。

 彼女の言うことが事実なのだとすれば、ここで俺が命を落とすことは望んでいないだろう。

 これがダミーちゃんのような人物だったなら、死後の世界で俺と永久に一緒にいたいなんて言い出すのかもしれないが。それなら最初の儀式で、彼女はそう願っていただろう。

「トゴウ様はね、死んだ人を生き返らせてはくれないよ」

「何言って……ハッ! そんなデタラメ、はいそうですかって信じると思うのか?」

「信じなくてもいいけど、事実なんだもん。トゴウ様がどんなお願いでも叶えてくれるっていうのは、儀式をさせるための方便だよ。何でもかんでも叶えてくれるなら、何回だってやり直しができちゃうよね。だから、トゴウ様には裏ルールが存在してるんだよ」

「裏ルール?」

「そう。知らなくても問題ないけど、知らないと損する裏ルール。……聞いとかないときっと、ユージくんは後悔すると思うけどなあ」

 そう言って可愛らしく微笑む彼女の顔は、俺にはまるで悪魔のように見えた。
「その裏ルールってやつ、お前が嘘を言わないって保証はないだろ。本当のことなのかどうか、俺には確かめる方法が無いんだから」

 裏ルールなんてものを後から持ち出すあたりが、まずは信用ならない。
 知らないと損するだなんてルールを教えるつもりがあるなら、そもそも最初から伝えておくべきだろう。

 俺に正体がバレたから適当に都合のいいルールをでっちあげて、ゆきまろの思い通りの願いを叶えさせられることになるのではないか。

 そう疑うのは当然のことだと思うのだが、彼女はすぐに俺の信用を得られないであろうことを、理解している風だった。

「保証はないけど、全部バレたのに今さらマロは嘘をつかないよ。それに、聞くだけならユージくんの不利にはならないでしょ? タイムリミットまで、もう少しだけ残ってるし」

「……聞くだけ、聞いてやる。信用するかは別問題だけどな」

「うん、それでいいよ。ありがと」

 裏ルールがどのようなものかはわからないが、それが信用できるかどうかは俺自身が判断すればいい。

 少なくとも、聞いて損をするようなことにはならないだろう。最後の悪足掻きに時間を稼ごうとしているようにも見えない。
 一応ロウソクの残量を確認できるよう、傍からは離れないようにしておく。

「裏ルールその1。死んだ人間を生き返らせることはできない。トゴウ様は呪いによって命を奪うことができるけど、命を与えることはできないんだって。これは過去に、死んだ友達を生き返らせようとした人がいたみたい」

「……なら、俺が儀式の前に戻りたいって願った場合は?」

「多分、戻ること自体できないんだろうね。だから、生き返らせることもできない」

 もしも俺がゆきまろの正体に気がつかずに、願いを実行していたとしたら。彼女は素知らぬ顔で、何も起こらなかったことに驚くふりをしたのだろうか?

「戻ること自体できないって、どうしてわかるんだよ? お前だって、試したわけじゃないだろ」

「そうだけど……まあ、もし戻れたとしても普通はやらないと思うけどね」

「何でだよ? みんなが生き返る可能性があるなら、やらないなんて選択肢はないだろ」

「それはどうかなあ。ってことで、裏ルールその2。トゴウ様の呪いを無効にすることはできない」

 ゆきまろは俺の疑問を無視して、次のルール説明へと進んでいく。
 都合の悪い部分をスルーするあたり、やはり彼女は嘘をついているのではないだろうか?

 そう疑いはしたのだが、二つ目のルールに俺は自然と眉間に皺が寄るのがわかった。

「無効にできないって……じゃあ、ここまで全員が生き残ってたとして……全員を生きたまま帰らせてくれって願いをしたとしても、叶えてもらえないってことか?」

「そう。儀式を行った時点で、マロたちはトゴウ様と契約を交わしてる。一人は願いを叶えてもらえる代わりに、それ以外の人間の命は捧げますよって」

「そんなの……」

「トゴウ様だって、タダ働きをしてやる義理はないってことなんじゃない? ハイリスク・ハイリターンってやつ」

 命のリスクがあるとわかっていたら、そもそも挑戦する人間の方が少ない。
 そこまでして叶えたい願いなんて無いし、これが本物の呪いだなんて考えるはずがないのだ。

「……けど、俺が願いを叶えたらお前も呪い殺されるんじゃないのか?」

 ふと、ゆきまろはずっと俺に願いを叶えさせようとしていたことを思い出す。
 彼女の言うことが正しいのなら、生き残れるのは一人だけ。俺がこの人形を燃やせば、自動的に彼女は呪いを受けることになるのだ。

 俺と結ばれることが彼女の願いだとするなら、この儀式に参加をしたことはやはり矛盾だと言わざるを得ない。
 それを知った上で参加をしたのなら、そんなのは単なる自殺行為ではないか。

「言ったでしょ、マロの儀式はもう終わってるって。トゴウ様の儀式ができるのは、一人一回だけ。だからユージくんたちの儀式では、マロは人数にカウントされてないんだよ」

「じゃあ……誰が願いを叶えたとしても、お前は生き残れてたってことなのか?」

 そうか。だからゆきまろは、俺に願いを叶えさせたかったのだ。俺を生き残らせなければ、彼女の望みは叶わない。

 ニコリと笑って近づいてきた彼女は、(おもむろ)に俺のコートのポケットに手を伸ばす。
 そこから取り出した自分の人形を、彼女は俺の目の前で引きちぎって見せた。

「っ……!!」

 瞬間、彼女の頭と胴体が引きちぎれるのではないかと案じたのだが。人形がちぎれても中身の綿が舞うだけで、ゆきまろの身体には何の異変も現れることはなかった。

 彼女の言う通り、ゆきまろはこの儀式の人数にカウントされていないのだ。

「裏ルールその3。願いを叶えてもらった人間は、代償を支払わなければならない」

「代償……?」

「そう、代償。これが、トゴウ様にお願いを叶えてもらう怖いところなんだよね」

 他のメンバーはもれなく呪い殺される。それを思うと命の危険を伴う代償なのでは、との可能性が脳裏を過ぎる。
 けれど、命を奪われるようなものではないのだろう。

 なぜならトゴウ様に願いを叶えてもらった彼女が、こうして生きているからだ。

「代償って、どうなるんだよ?」

「代償は、お願いの内容によって異なるみたい。きっと欲張りな人ほど、支払う代償も大きいんだろうね」

「ゆきまろ……お前の代償は、何だったんだよ?」

 彼女は、自分ではない別の人間になるという願いを叶えてもらったのだ。
 普通の人間では、到底叶えることのできない大きな願いといえるだろう。それも十分、欲張りな願いなのではないだろうか?

「マロの代償は……カルアになれた代わりに、すべてを失うこと。家族も友達も住む場所も戸籍も、ゆきまろが生きてきたことを証明するものぜーんぶ!」

「全部って……そんなことが……」

「だって、トゴウ様はマロのお願いを叶えてくれたんだよ? 嘘だと思うなら、ここを出てから全部調べてくれたっていいし」

 すべてを失ったにも関わらず、彼女からは悲壮感を微塵も感じられない。むしろ今にも踊り出しそうなほどに、キラキラと輝いて見えた。

 ゆきまろは元々こんなにも狂った人間だったのだろうか? 失うものが無くなったことで、簡単に人殺しさえできるようになってしまったというのか。

 それとも、トゴウ様によってすべてを奪われたことで、狂ってしまったのだろうか?

 動画のコメントや文字の上での彼女しか知らない俺には、それを判断する術はない。

「どんなお願いをするのも自由だけど、願い事をするなら覚えておいてね。代償は必ず支払わなきゃならないものだから」

 願いを叶えるために、代償があるなんて知らなかった。
 誰も生き返らせることができないなんて、知りたくなかった。

 それなら俺は……トゴウ様に何を願えばいい?


「ほら、時間だよ。ユージくん」
 時間を戻すことも、誰かを生き返らせることもできない。
 願いはその大きさに比例して、代償が伴うことになる。

(それなら俺は……何を願えばいいっていうんだ……?)

 裏ルールなんて聞くべきではなかったと後悔するが、聞いていなければ俺だってどうなっていたかわからない。
 そこでふと、俺は彼女の説明の中にある疑問を抱く。

「……友達を生き返らせようとした奴がいたって言ったよな?」

「ん? うん、言ったね。それがどうかした?」

「生き返らせることができないっていうなら、その願いは無効になるんじゃないのか? だったら、代償だって受けずに済むんだよな?」

「そうだね。ただし、お願いをしたことに変わりはないから、もう二度とトゴウ様に願いを叶えてもらうことはできなくなるけど」

 やっぱり、思った通りだ。
 トゴウ様に叶えることのできないお願いをすれば、少なくともこれ以上何かを失う事態は免れることができる。

 ここまできて願うようなことでもないが、動画をバズらせるという願いだって、どの程度の代償が伴うのかわからないのだ。

 そもそもこんな動画をアップしたところで、すぐに運営から削除されてしまう。仲間の死をネタにだってしたくはない。

 これだけの犠牲を出して成果無しというのは悔しいが、やはり無事に生還することが最優先事項だろう。

「願いなんて叶わなくていい。代償のリスクを背負ってまで叶えたい願いなんかもう無いからな」

 俺にはメンバーの命を犠牲にしてしまったという責任がある。
 彼らを生き返らせることができるのであれば、甘んじて代償を受け入れることも考えたかもしれない。

 だが、その可能性すらも断たれた今となっては、俺はもう自分が生き残ることしかできないのだ。

「……ゆきまろ。お前は、時間を戻したいって俺の願いが叶わないことをわかってたから、それを願わせようとしたんだよな?」

「そうだよ。そうすればユージくんは無事に生き延びられるし、マロはずっとユージくんと一緒にいられるからね!」

 当然のように腕を絡めてくるゆきまろに、俺は言い表しようのないほどの嫌悪感から再び吐いてしまいそうになる。

 俺の好きな人を、大事な仲間を。その手で奪っておきながら、当たり前のように俺と一緒にいられると思っているのか。

 俺は彼女を殺すべきなのではないだろうか?
 みんなを生き返らせることができないのなら、代償を伴うとしても、代わりにみんなの仇を討つべきなのではないだろうか?

 人の命を奪う願いの代償は、きっと自分の命だ。

「ユージくん、もしかしてマロのこと殺そうとしてる?」

「えっ!?」

 そんな俺の思考を見透かしたかのように、ゆきまろはそう言い当ててくる。彼女を見る目に殺意が滲んでしまっていたのかもしれない。

 動揺を見れば明らかだろうが、彼女はそんな俺に怒るわけでもなく、むしろ人形を持つ俺の手をロウソクの方へ近づけさせようとしてきた。

「なっ、何を……!?」

「いいよ、マロのこと殺しても。ユージくんに殺されるなら本望だもん。……でも、本当にそれでいいのかな?」

 見上げてくる顔は俺の好きだったカルアちゃんそのもので、でも彼女はカルアちゃんではなくて。……頭がおかしくなりそうだ。

「財王は自分のことだけでユージくんのこと殺そうとしてきたし、ダミーは共犯。牛タルも、自分が死ぬってわかったらみんなを道連れにしようとしたよね」

「それは……」

 ゆきまろの言う通り、彼らは極限状態で本性を現したといってもいい。

 誰だって、自分の死が迫っていると感じれば正常な判断なんてできなくなるものなのだろう。本能や欲望を優先したとしても不思議ではない。

「でも、カルアちゃんとねりちゃんは……!」

「あの二人だって、わかんないよ? 食物連鎖はカップルで参加してたんだから、呪いが本物だってわかった時点でお互いを優先してただろうし。それにね……マロ、見ちゃったんだあ」

「見たって、何をだよ……?」

「カルアってね、パパ活でお金稼いでたんだよ? それも、本番アリの」

「な、何を……そんないい加減な話俺が信じると思ってんのか!?」

 思いもよらない話に、さすがにそれはゆきまろが作り上げた嘘だろうと判断する。カルアちゃんは清楚で可愛くて、間違ってもそんなことをするような女性ではない。

 だが、俺が信じないことも予想済みだったらしいゆきまろはスマホを操作すると、表示した画面を俺の方へと向けてきた。

「…………え……」

 そこに映し出されていたのは、あられもない姿でベッドに横になるカルアちゃんの画像だった。

 ウィッグを被っているのか髪型は異なるが、間違いなく本人だと確信できる。ゆきまろが画面をスライドさせると、次々に似たような写真が表示されていく。

 中には大きく開いた胸元にお札を挟んで、見知らぬ四十代くらいの男性に胸を鷲掴みにされているようなものも見られた。

「マロが使ってたの、カルアのスマホなんだけど。中身見てマロもさすがにビックリだったよね。LIMEの履歴も見たけど、魔が差したって感じじゃなかったよ。かなり稼いでたみたい」

「うそ……嘘だ……カルアちゃんが、こんな……」

 口からは否定の言葉が漏れていくが、それが作られた偽物だとは思えなかった。
 俺の知っているカルアちゃんは清楚で、女の子らしくて、可愛くて優しくてポジティブで。理想の女性だったのだ。

 けれどそれは所詮MyTube上で作り上げられた、”カルア”というキャラクターだったのか。

 俺が、”ユージ”を演じているのと同じように。

「ねえ、ユージくん。本当にマロを殺したい? 取り返しがつかないくらい大きい代償を払ってでも、カルアたちの復讐をする価値ってあるの?」

「俺……俺は……ッ」

 俺の中にあったはずの、揺るぎない”正しかった”もの。

 それが音を立てて崩れ落ちていく。もう、どうするのが正しいのかなんて、俺にはわからない。そうしている間にも、ロウソクの火は燃え尽きようとしている。

「可哀想なユージくん。ねえ、もうひとつだけ教えてあげる」

 動くこともできずに呆然としている俺の耳元に、ゆきまろが囁きかける。
 その言葉を聞いた俺は、人間はこんなにも絶望できるものなのかと思い知らされたような気がした。

 コップに溜まる赤い血は溢れ出して机の周りを汚していき、塩は焼け焦げたように黒い塊になっている。

 俺が掴み取って財王さんに投げつけたはずのうじ虫は、減るどころか椀の中で数を増やしていた。

「どんな決断でも、マロは受け入れるよ。ユージくん」

 多分、俺の頭はもうまともに働いてなどいない。
 尽きかけている火の上に人形をかざすと、燃え上がった炎が瞬く間に人形を焼き尽くしていった。
「……な? 言った通り、凄い動画だっただろ。編集してるって思った人は、もう一度ちゃんと観てくれたらそうじゃないってわかると思うよ」

 撮影していた動画をすべて流し終えると、画面を切り替えて再び俺の顔が映るようにする。

 最後まで動画を観てくれたリスナーに向けて、その内容は紛れもない本物であったことを改めて主張する。

 満足げな俺の様子とは正反対に、コメント欄の流れは異様なまでに早く、みんなが動揺していることが見て取れた。


『いやいや、冗談でしょ?』

『マジだったら通報モンじゃん、ヤラセだよ』

『でも参加メンバー誰もTmitter呟いてない』

『演出に合わせてるんでしょ』

『気持ち悪くなってきた』

『え、生きてるよね……?』


 こうなることは予想済みだ。
 オフコラボで撮影してきたという動画だったのに、最終的には死体だらけの映像になっていたのだから。

 まだ作り物だと信じているリスナーも多いようだが、これが偽物でないことは俺自身が一番よくわかっている。

「きっと信じてくれない人もいるよね。通報した人もいるだろうし、すぐにあの廃校に死体があるってニュースになるとは思うけど」

 俺が何もしなくたって、時間が経てば嫌でもこの動画が本物だという証明はされる。テレビでもネットニュースでも、大々的に取り上げられることだろう。

 だがそれよりも、トゴウ様の呪いが本物だという証拠を見せるのが一番手っ取り早い。

「これを見せたら、もっと信じてくれる人も増えるかな」

 そう言って、俺は顔の下半分を覆っていた黒いマスクを外していく。
 これまで一度もマスクを外しての動画撮影をしたことはなかったので、リスナーたちはすぐに食いついてきた。


『えっ!? ユージまさかの顔出し!?』

『マジでマスク外すの?』

『あーわかった。今回の企画って顔出しの盛大な前フリだ』

『ユージも遂に顔出しMyTuberの仲間入りか』


 ここまできてもまだ、俺の話が嘘だと考えている人間も少なくない。

 だが一度盛り上がったその空気は、俺の顔からマスクが外されたことによって一変する。


『え?』

『えっ?』

『何それ』

『え、怖い怖い』

『特殊メイク?』

『笑えないって』


 外したマスクをゴミ箱に投げ捨てると、俺は解放された口元を片手で撫でつける。

 そこに”唇が無い”という違和感を拭いきることはできないのだが。

「ハハ、びっくりした? 残念ながら特殊メイクじゃないんだよね。ほら、擦っても変わらないし。被り物じゃないのもわかるでしょ」

 俺は試しに手の甲で口元を思い切り擦って見せるが、当然剥がれ落ちるような特殊メイクは張り付いてない。

 ただ本来唇があるはずの箇所は、強く擦りすぎたせいで赤くなっているらしい。コメント欄からの複数の指摘を見れば、鏡で確認するまでもない。

 被り物ではない証拠に、シャツの襟元を大きく広げて見せたり、目元や頬など顔中を弄り回す。


『何でそんなことになってるの?』

『特殊メイクの技術も進んだんだな』

『CGとかうまいこと合成してるんじゃない?』

『それが代償なの?』


 コメント数はどんどん増えていき、視聴者数も激増しているのがわかる。それが面白くて笑うのだが、口角も無い俺の顔では伝わらないだろう。

「気づいた人もいるだろうね。そう、これが俺の受けた代償。配信者にとって、口は必須だからダメージはでかかったよ。だけど、お陰でこの動画はスゲー勢いでバズってるはずだから」

 そう。俺が願ったのは、最初の希望通りこの動画がバズることだ。最後まで、どちらを選択すべきか迷いはしていたのだが。

「ユージくんは最後まで、マロのことを殺そうとしてたんだよね!」


『えっ、カルアちゃん!?』

『うそ、本物?』

『ゆきまろって人なんじゃないの?』

『オフパコ失望しました』


 画面の横から割り込んできたのは、ゆきまろだった。
 カメラに映り込まない位置にいただけで、彼女は最初からここにいたので俺が驚くことはない。

 本当なら、彼女を殺してしまいたかった。

 メンバーの本性がどうであれ、身勝手な理由で多くの命を奪った上に、俺と共に人生を歩んでいこうとしていたのだから。

 けれど、最後の最後で思い直した。なぜなら、最初から最後まで彼女は俺のことだけを見てくれていたからだ。

「俺がゆきまろを殺さなかったのは、彼女だけはずっと、俺の味方でいてくれたことに気がつけたからだ。彼女がしてくれたことは全部、俺のためだった。もう配信者としてはやってけないけど、配信はしなくても生きてはいけるからね」

 あれほど望んでいた配信者としての未来も、自分の命には代えられない。

 これからは馬鹿げたことに手を出さず、平穏に生きていければそれでいいだろう。それに俺は、本当にかけがえのない大切な人を見つけることができたのだから。

「あ、ちなみにコレ録音なんだけど、今はまだ喋れてるのが不思議だよ。もう口は無いのにさ。けど、少しずつ舌が回らなくなってきてるから、みんながコレを観る頃には喋れなくなってるんだろうね」

「そう、ユージくんはもう喋れなくなっちゃったんだ。マロも残念だけど……これからは、マロがずーっと傍でユージくんを支えていくからね!」

 ゆきまろの頼もしい言葉に、俺は視線だけで感謝を伝える。それだけでも彼女には通じたらしく、俺の手を握ってくれた。

 ざわついたままのコメント欄を目で追いながら、俺は続く言葉に合わせて人差し指を立てて見せる。

「それから、喋れるうちにもう一つ。……トゴウ様は、次の”獲物”を探してる。願いを叶えてもらった人間は、その橋渡し役をしなければならないんだ。そうしないと、トゴウ様の怒りを買って呪い殺されてしまうことになる」


『は? 何それ、代償払ったら終わりじゃないの?』

『トゴウ欲張りすぎワロタ』

『じゃあ次の儀式が始まってるってこと?』

『ねえそれどうやって喋ってるの』


 視聴者数もコメントも、止まることなく増え続けている。
 口コミで広まっているのかもしれない。これで配信を終えるのが惜しくなるほどの数字だが、これほど多くの人間に一矢報いることができるなら本望だ。

「トゴウ様の呪いが移る条件は二つ。まずは実際に儀式を行った人間から、トゴウ様の名前を聞くこと。それから、トゴウ様に叶えてもらいたい願い事を思い浮かべること」

「ちょー簡単だよね! みんなしっかりお願い事書き込んでくれてたし」


『え……待って』

『俺ら条件整っちゃったよな?』

『冗談だと言え』

『うちらに呪いを移したってこと?』

『ありえないんだが』


 このために、俺は儀式を終えた直後に音声を録音していた。

 いつまで喋り続けられるのかはわからなかったが、直感が働いたというのが正しいのかもしれない。結果的に、俺は自宅に帰りつく頃には完全に喋ることができなくなっていた。

 筆談や合成した音声でも良かったのかもしれないが、やはり直接語り掛ける方が興味を持ってくれる人間は多いのだろう。
 最悪の場合には、ゆきまろに代弁してもらうことも考えたりしていたのだが。

 俺の引退配信なのだから、最後まで俺の声で伝えたかったのだ。

「あ。トゴウ様の由来ってさ、実は最初に聞いたのとは違うらしいんだ。呪詛って漢字は、それぞれ”(とこ)う”とか"(とこ)う"って読み方もする。これって、人に災いが起こりますようにって祈る意味があるんだって。知ってた?」


『災いを祈るとか怖すぎ』

『知らなかった』

『そっちがホントの由来なの?』

『呪いを遂げるって意味もあったりして……?』


「そう。だから、トゴウ様ってお願いを叶えてくれる都市伝説じゃなくて、呪いの神様なんじゃないかって言われてるらしい」

「マロたちにとっては、本物の愛を結び付けてくれたキューピッドだけどね!」

 俺の説明を聞いたリスナーたちは阿鼻叫喚だ。
 これでもまだ信じない奴はいるだろうが、俺にとって信じてくれるかどうかは問題ではない。

「信じなくてもいいよ。だけど、呪いを移された人間は二週間以内に儀式をやらないと、トゴウ様に呪い殺されるから」

 最後にゆきまろからこの話を聞かされた時、本当なら俺一人で呪いを背負って死ぬ方が良いと考えていた。
 少なくとも俺が命を犠牲にすれば、これ以上この場所からトゴウ様という都市伝説が広まることはないのだ。

 だが、自分の死を前にして途端に怖くなった。俺も牛タルのように、苦しくて惨い死に方をするのかと。

 何より、やっと見つけた大切な人を残していきたくはなかった。

 それと同時に、リスナーからのコメントの数々が走馬灯のように脳内を駆け巡ったのだ。俺が助けを求めた時、リスナーたちは俺の言葉をまともに受け取ろうとはしなかった。

 今回だけじゃない。
 普段の配信の時だって、少しでも彼らの気に食わないことをすれば途端に罵声が飛び交った。

 彼らにとって俺は配信者というよりも、匿名で好き勝手に攻撃できる都合のいいサンドバッグだったのだ。
 中にはそうではない人もいたのかもしれないが、今の俺にとってはどれも皆等しく”文字”にしか見えない。

 安全な場所から、心無い言葉を浴びせてくるリスナーたち。
 そんな奴らが慌てふためく様を思うと、俺はどうしても自分だけが犠牲になるという選択肢を選ぶことができなかった。

 彼らがこの後どうなろうと、俺には関係無い。

 だって俺はもう、”ユージ”ではなく”干村侑二(ひむら ゆうじ)”に戻るのだから。


「それじゃあ、配信終了。頑張れよ、リスナー諸君」

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