六花の薔薇



「あははははっ楽しいなぁ〜なんて楽しい日なんだろ〜 ふふっ…あははっ」

屋敷近くの森。
珀(はく)の笑い声だけが響いていた。
その時 珀(はく)の前に人影が現る。

「…あれ?君…金髪の髪に青い瞳…あぁ〜次期当主様かなぁ〜っ、あはは」

そこには無表情の御影の姿。

「………」
「怖い顔して〜あはは、ははははっ」

珀は笑いながら御影を見る。

「…可哀想に」

御影の言葉に珀はピクっと反応する。

「…可哀想?誰が?あはは」
「…そんな能力を授からなければ」
「え?なに?言っている意味わかんないよ〜」

御影はそっと珀に手を翳かざす。
すると御影はパチンと指を鳴らした。
その瞬間珀は声も上げずバタンと倒れた。珀の倒れた姿を御影は眺める。

「…どうして止めなかった?」

御影は自身の後ろの気配に対し声をかける。
振り返った御影の前に刻ときが姿を現した。

「お前の弟じゃないの?」
「………」

黙る刻。

「俺たちに弟を殺させるのが目的?」

その言葉を聞いた刻は御影を睨みつける。

「100年前に没落した元貴族 蘭寿家 その子孫で現在は紅羽(あかば)と姓を改め中階層で生活している。違う?」
「…よく調べてんね」
「…どうして海偉をこいつに襲わせた?そんな事しなければずっと商売出来たろ」
「そうだな、ただもう俺らも疲れたんだわ」

刻は夜空を見上げた。
キラキラ光る星をその目に写す。
掴めるはずのない星に手を伸ばす。

「なぁ、ヴァンプ化の能力が何故厄介で不吉な能力だと言われてるか知ってるか?」

刻は夜空の星から御影へと視線を移す。

「………」

御影は答えずじっと刻を見つめる。

「ヴァンプ化の能力は噛んだものもまた血を求める化け物と化すから厄介で不吉だと言われてるんじゃない」

その言葉に御影は眉をひそめた。

「…一族諸共その能力者に人生を縛られるから厄介で不吉だと言われている」

刻は倒れている珀を睨みつける。

「…本当、厄介だったよ」

頭を抱える刻は昔の記憶を思い出していた。
まだ何も知らなかったあの日、ただ無邪気に笑っていたあの日。
仲睦まじい家族とひっそり小さな幸せを噛み締めて生きていたあの日。願ってももう戻らない暖かな日を…。

「…っ、」

収まらない感情をただただ刻は必死に押さえつける。

「刻」

その時、刻の頭上から黒い渦のようなものが出現しそこからひとりの少女が現れた。
頭を抱え自身の感情を必死に押さえつける刻の腕を引っ張る。

「…珀」

御影の横に横たわる珀の姿を捉え大きく目を見開き一瞬動作が止まる。
目を伏せ赤くなった瞳に溜まる涙を手の甲で拭った。

「行こう、刻」

少女は刻の腕を引っ張り渦の中へと招く。

「…じゃあな、次期当主様」

刻は虚ろな目で御影を捉え、渦の中へと消えていった。

シーンした静寂が御影を襲う。
息もしていない珀が御影の横に横たわる。

「…置いていくなよ 兄弟だろ」

その珀の姿に御影はボソッと呟いた。

「…ほんとめんどくさい」
「御影!!!」

すると壱夜の声が響く。

「御影!大丈夫か!」

慌てるように走ってくる壱夜とその後ろには庵の姿。

「うん、大丈夫」
「良かった…あぁ!良かったぁあ!」

壱夜は安心したかのように御影の肩に両手を置く。

「あっ!そうだ 暗血線に応援頼んだの御影!?」
「あぁ、」
「はぁ…そか、ありがとう」

壱夜は心の底から安堵する。
鬼ごっこが始まりスクリーンから流れる見るも無惨な映像に完全にこれは政府に対する反逆罪だと確信した壱夜はスクリーンを楽しそうに眺める貴族たちを逃がしてはいけないと思っていたがたった一人でどうやって制圧しようか考えている時に暗血線が突入してきたのであった。
安堵する壱夜の後ろから庵が声をかける。

「御影、それ」

庵が指差した先には珀の姿。

「あぁ…暗血線にでも運ぶよう言っておいて」
「ぇ、そいつって、」
「首謀者のひとり」

庵が御影の心を読み代わりに答える。

「じゃ、よろしく」
「ちょっ!御影、どこ行くんだよ!」

御影は壱夜の言葉には答えず去って行った。

「…なんなんだよ〜、つかこいつ生きてんの?」

壱夜は珀をつんつんとつつく。

「死んでる」

庵がそう答えると壱夜は珀から距離を取り庵の後ろに隠れる。

「嘘だろ…」
「嘘じゃない」
「…ぇえぇ…」

壱夜の悲痛な声は夜の風にかき消された。