五十嵐の後を追い、なんとか社までたどり着いた時には、途中でであった桑坂という老人から借りた懐中電灯が無ければ足元がおぼつかないほどの暗さになっていて、おまけに雨まで降り始めていた。
社まで続く階段は提灯が連なりぼんやりと鈍い光を放っているものの陰気としか言いようがなく、ここを先ほどの鬼の装束をした五十嵐や、白いコートを着た櫻井が上がって行ったとはにわかには信じられない。
階段は一段一段が高さがあり、上に向かうに連れ幅は狭くなって行った。
両脇に白装束のお地蔵さまが並んでいたが、端から3番目のお地蔵さまだけが赤い羽織に赤い花を供えられている。
社には五十嵐と名賀青年と櫻井だけでなく、もう一人いた。ぐるりとお社を回り、裏の林の下を懐中電灯で照らすと、軽自動車が1台止まっているのか微かに見えた。車がある場所からここまで来るのはなかなかの急斜面だ。
ここへ来るルートはほかにもあったのだ。
拝殿の方まで行くと、まだ揉めている声がした。
名賀青年の母親は柱に括り付けられて下を向いていた。
「名賀くんのお母さん、櫻井さんのお母さんの居場所を知っているなら、そんな無理に聞き出そうとせず、先に言えば櫻井さんの気持ちも動くと思いますよ。櫻井さんのお母さんは今どちらですか」
激しい雷鳴が空気を震わせる。山の雨は激しい。
天井の白熱電球は揺れて弱々しい光を放っている。
当分山から降りられないだろう。私はナップザックからノートを取り出した。
「実は私、この集落について少し調べまして…。
行方不明なのは櫻井さんのお母さんだけでは無いですよね。
去年は旅行客が一人、旅館の駒木屋さんに停めていた車とその車の持ち主の青年が行方不明になっています。
5年前にはふもとの須山市街で働いていたスナック勤務の女性、2年前にはピアノの調律師の女性も行方不明で見つかっていません。
どちらも山袋の方ではないですが、ここに来た後に行方不明になっています。スナックは店主が山袋出身で、山袋の方が懇親会などで利用している店…『あんず』。行方不明の店員さんは松原千佳子さん、当時37歳。行方不明になる前日に、懇親会のお金を山袋集落に集金しに来て、そのまま行方不明になった。
かなりの額で…ええっと18万円。持って逃げたんじゃないかという事でまともに捜査されなかったようです。
もうお一人、調律師の女性は那珂都山幼稚園のピアノの調律をしていた能美沙也加さん当時30歳。那珂都山神社が下の集落でやっている幼稚園ですよね。
能美さんは元々ピアニスト志望で幼稚園で子どものための音楽教室もされていた。ご結婚されていてお子さんは無し、DVで何度か警察に行ってます。当時、夫が疑われて相当取り調べたようですが、取り調べ後に自殺して、迷宮入りしたようですね」
「どうやって調べたんですか」郁人が聞いた。
「図書館で地元紙と全国紙の必要なところを5年分ざっと見ました。後はお店や関係者の方とお話したり、警察にいる古い友人に聞いたりね。まあ素人調べですが…」
「私のため?」小さな声で櫻井が言った。
「好奇心が強いんだ」私も小さな声で答えた。
不用意な質問で泣かせた後に、櫻井の母親が小学校1年から行方不明であることを知った。
櫻井の父に電話をして泣かせた事を詫びると、櫻井の父は堰が切れたかのようにこれまでの話をし、今年失踪宣告をして亡くなった事になったが、今でも何処かにいるのではと思っていますと電話口で泣いた。
なんの前触れもなく消えた一人の女性と、残された父と娘の長い7年間。
「1月の終わりに駒木屋さんにサイクリングがてら泊まりに行ったんです。僕自転車が趣味なもんで。番頭の男の子が色々と話してくれました。山袋集落から那珂都山集落まで繋がる林道があるそうですね。そこをオフロード用に改造した車で走り回る予定でやってきた大学生の若者が車を盗まれた。盗まれたのは事件として新聞に載っていましたが、その時に集落の女の子が車に驚いてケガをしたと。
登下校の時の怪我なので学校に記録がありました。櫻井は頭を縫って大変だったね。
その若者は櫻井の件ではお咎めなしで、駒木屋まで五十嵐のご両親が怒鳴り込んだらしいが、開き直って謝りもしなかったらしい」
「うちの親が?凛花知ってたか」
「初めて聞いた」
「駒木屋も一応客だから追い出すわけにもいかず、五十嵐の親には帰ってもらった。それで朝駐車場を見たら車が無かった。この集落には防犯カメラは1台もない。
その後、大学生…依田くんという青年…は警察も呼んで散々集落を捜したが車は見つから無かった。
依田青年は車が消えた翌週にも宿に顔を出して、林道の方も探すと言っていたそうです。
私ね、いけないことですが宿帳をちらりと見て依田くんの下宿先に連絡して、おかみさんが出ました。
私も車が趣味で依田くんに聞きたい事があるって言いましたら、荷物を何もかも置いて大学もあと少しで卒業なのに消えてました。
親が血眼になって探したが見つからず、下町で板金屋をしてる実家を継ぐのが嫌でそれで姿をくらましたんじゃないかと下宿のおかみさんは言ってました。
あと数年もしたら飽きて、姿を見せるだろうと依田青年の親は踏んでいるそうです。
さっきぐるりとこの神社の周りを回って来たんですが、名賀さんのお母さん、車でここまで来る道がありますね?あなたは神社の裏に車を停めてここまでいらした。
ここから那珂都山集落へ行く林道にはさらに側道があってここまで来れるんですよね、そうでしょう」
名賀青年の母親は無反応だった。
「名賀くんのお母さん、なんでみんなを殺したんですか」
雷が鳴り、拝殿の明かりは消えた。
「郁人!!」櫻井の叫ぶ声がした。
「大丈夫」五十嵐の声がした。
雷は立て続けに何度も鳴り響き、ガタガタと床が揺れた。
「僕、懐中電灯持ってました」
桑坂老人から借りたものが役に立った。
辺りを照らす。
柱に縛り付けたはずの名賀青年の母親の姿が無い。コートの紐だけが下に落ちている。
ぐるりと部屋を照らす。
櫻井と五十嵐は私の後ろでしゃがんでいて、名賀青年は脇に猟銃を抱え、手を縛っていた白い櫻井のコートのベルトを持っていた。
「紐が…母は消えました。足音がして…本殿の方かも」
「私が見てきます。君たちはここにいて」
私は足元を照らしながら、拝殿の先の本殿へ向かった。
激しい雨の音が感覚を鈍らせ、どこからとも無く聞こえてきた鈴の音が辺りを巡った。
ここは神の領域なのだ。
この山袋自体がいわば大きな一つの神社であった。
外から車のエンジンの音がした。耳を澄ますと車は走り去って行ったようだった。
足元を照らしながら戻る。
ぬっと人影が現れ、腰が抜けそうになるが名賀青年だった。
「お母さんは車で行ってしまったようです」
懐中電灯のほのかな明かりの中に、名賀青年はいた。
私と同じくらいの背丈で大人っぽく顔をしていても、まだ高校生なのだった。
実の母を殴り、このくらやみで猟銃を持って、こんな目にあっていいはずがなかった。
「名賀くん、すまない」
「うちの母が…」
暗闇の中で、名賀青年は声をころして泣いた。
「どうしたどうした!!」
15分ほどして雨が小降りになると、雨合羽を着た桑坂老人や鬼の装束のままの男性たち、櫻井と五十嵐の父親もやって来て、一斉に懐中電灯で私たちを照らし、目が眩んだ。
「凛花!!」
「パパ!」
お山様には管理のための小屋があって、長靴が2足あり五十嵐と櫻井は長靴を借りた。みなでソロリソロリと雨に濡れた階段を降り、鳥居の前にずらりと並んだ車に乗り込む。
私は名賀青年と桑坂老人の車に乗り、猟銃は桑坂老人の車のトランクに入れた。
櫻井と五十嵐は家に帰らせて、警察を呼んでもらった。
猟銃を持って名賀夫人がおかしな様子でやってきた、という事で神社の裏のルートからの林道を捜索したが、見つからないまま夜が明けた。
私は親切な桑坂老人の家に泊めてもらい、翌朝、那珂都山神社にみなで集まった。
「この度は五月が御迷惑をおかけして申し訳ありません」
広い座敷でみなが並んでいる中、宮司の名賀氏が土下座をし隣の名賀青年も一緒に頭を下げた。
「何事ですか」並ぶ老人のうちの上座に座っていた1人が聞いた。
「どうもご神体の鏡が黒くなった事と巫女舞が予定通りに行かなかった事に気を病んで、櫻井さんのお嬢さんから巫女の御告げを聞きだそうとしたようです」
櫻井はいなかったが、櫻井の父親は五十嵐の父親と並んで、苦虫を噛み潰したような顔をして末席の方に座っていた。
「御告げはあったんですか」
「そんなものは無いですよ!」櫻井の父親が大声を出した。
「娘は今日、病院に入院して様子を見てもらってます。そうやって御告げだなんだと言い聞かせながら年端もいかない女の子に踊らせて、気が狂ったらどうしてくれるんですか!あげく猟銃で脅して娘に洗いざらい話せと迫った。山袋に居ていい人間ではない!」
場はザワザワとして、みな猟銃の事は初耳であったようだった。
「猟銃はどこから」老人が聞いた。
「妻の兄が下の集落に家がありまして、狩猟免許があって、それを黙って持って来たようです」
「撃つつもりで?」
「さぁ…それは…」
「撃つつもりであろうがなかろうが、腹のうちは関係無い!」
五十嵐の父親も大声を出した。
なかなかの広さの座敷で、上座まで意見を言おうと思うと、どうしても大声になるのだった。
「先生、先生もその場にいたのだから意見を言ってください」
急にその場の人々の目が私に集まった。
女性が多い。
ここまで話したのは男性だが、場の七割くらいは女性で集落の多くの家のものが参加しているようだった。
「私は櫻井さんが高校生と二人きりで山の神社に向かったと聞いたので、心配で五十嵐くんにも声をかけて後について行ったのです。あの、名賀くんと櫻井さんの名誉のために言うと、二人きりになるように仕向けたのは名賀くんのお母さんで、二人はただ言われた通りにしただけです。
名賀さん、以前も『お山様の御言葉』があったと聞きました。それも節分の時にお山様で巫女が言ったとか。悪い予言だったそうですね」
宮司はぐっと堪える顔をした。
「ありましたよ」私の隣に座っていた30代くらいの女性が言った。
「御言葉を聞いたのは櫻井さんのお母さんの百合子さんです。その年の節分の巫女舞は素晴らしかった。私はその時4年生で舞の終わった六年生の百合子さんに聞きました。『みこさま、今年はどんな年ですか』百合子さんは天女のように笑って『とても良い』と言った。その後に、信輔さんが顔を出して…まだ当時は宮司ではなかったですわね?」
宮司は能面のようにじっとして、声は聞こえていないようでもあった。
「『百合子、おいで。お山様が呼んでいるよ』と言って信輔さ?は百合子さんの手を取って出て行った。私たちはお世話役の人に衣装を脱がせてもらって、控えの間で遅い昼ご飯を食べたりしました。
そこへ襦袢一枚で百合子さんが控えの間に駆け込んできた。後を追うように信輔さんが。
百合子さんは目を大きく見開いて金切り声で言いました。
『巫女を穢したものが巫女を娶り、その子を牛窪ヵ淵に沈めよ。四人沈め、五人目を私のところへ、私の刀とともに連れて参れ!戦じゃ!』。
私は一言一句覚えてます。百合子さんの襦袢が血で汚れていた。その後百合子さんが気がついた時には何も覚えていなかった。百合子さんの襦袢は脱がされ洋服を着せられて、信輔さんのお母さんが百合子ちゃんのお母さんに言った事を覚えています。
『百合子ちゃんに月のものが来たみたい』
でも月経なんかじゃありませんでした。私たち五人は見たんです。五月さんもその場にいました。五月さんは18であなたの妻になり、四人流産して、五人目に俊輔さんが生まれた。私たちはやっぱりと言い合ったものです」
私の隣の女性は場を見渡し、3人の女性が怒りの目をしてうなずいた。そのうちの一人は五十嵐の母親だった。
「百合子さんは全部忘れて、幸せに暮らしていらしたわ。凛花ちゃんは生き写しのようで…私たちもずっと見守っていました」
四人の女性は櫻井の父に目線をやった。
「五月さんは百合子さんに信輔さんがしたことを知って『私も信輔さんに選ばれて、お着物を紅くしたい』と言っていました。そして中学に入った頃には信輔さんとお付き合いをしている、と言ってきた。私たちは気持ち悪くて彼女と必要以上の付き合いはやめました。でもやめたあとも、よくない噂は入って来た。
百合子さんが急に消えたときも私たちは五月さんを疑ってました。彼女はずっと巫女になりたかった。でも百合子さんがいたからなれなかったと恨み、小学校1年生になって、百合子さんが生き写しの凛花ちゃんを連れて、神社に顔を見せるようになった。私たちは四人そろって百合子さんの行方を知らないかと彼女に聞きました。五月さんは笑って宮司の妻は忙しくてそれどころじゃないと言ってましたよ。そう、信輔さんのお父さん、ずいぶん早くに亡くなられましたわね」
「なんと…」桑坂老人が言った。
「今年、百合子さんが正式に亡くなられた事になったと聞いて、私たち四人が那珂都山神社のご神体を黒く塗りました」
場のざわめきは大きくなり、もう皆が大声で話していると言っていいくらいであった。
「あのー、すいません」
「どうしました、先生。先生がお話になる。みな、静かに!」桑坂老人が私のために場を静かにしてくれた。
「すいません部外者で。須山西中の2年生の担任をしている大矢場伊右衛門といいます。あの、去年駒木屋に泊まった大学生が行方不明になっているのはご存じですか。櫻井凛花さんがケガをする原因を作って、車を盗まれた…」
みな口々に知らない、初めて聞いたなどと言った。
「彼は急に下宿から姿を消しまして、消える直前まで車を探していたらしいのですが、どうも林道の話をしていたようなんです。私も昨日知ったんですが、ここから那珂都山集落までの林道はたくさん側道があるんですよね。そのうちの一本がお山様の裏手に通じていた事を皆さんご存じでしたか」
「知っていたものは」桑坂老人が声をかけると、年配の男性の何人かは手を挙げた。
「めったに使いませんな。イノシシやクマが出る」
「そうですか。牛窪ヵ淵というのはどちらになりますか」
「牛窪が淵なんてものはありゃぁしません。昔々、お山様がけしからん鬼を沈め、その上に百合の花畑を……」
最長老だと思われる老人が、不明瞭な声で話し始めた。
「みこさまやお地蔵さまに百合を飾るのはその話からですか」
「昔は紙ではなく本物を飾った」
「二月にですか」
「さよう」
「二月に本物の百合…、すいません昔っていつ頃ですかね」
「文久よりは前じゃろう」
「ええ?」
「確かな話です」長老はじろりとこちらを睨んだ。
宮司は長老たちに囲まれて一礼をして広間から出て行き、名賀青年も立ち上がって後をついて行った。
私も桑坂老人と共に広間から出て、五十嵐と櫻井の両親と三人の女性が小声で話しながら去っていくのを見送った。
「大変な事ですね」
「悪事は全て出してしまうしかない」諦めの表情を見せ、桑坂老人は私を那珂都山集落に置きっぱなしの車まで送ってくれた。
「二月の百合ってどう思います?」
「ビニールハウスやなにか、とにかく暖かくなければならないな」
「そうですよねぇ。自然に二月に百合の生えている場所なんて…」
「直接見たことはないが温泉が湧いている所はある。渓流釣りしている連中が時々、湯気が上がっているのが見えるって言ってたね。かなりの山奥だ」
「すいません、そのお友達紹介してもらってもいいですか?」
お人好しの桑坂さんは那珂都山集落から私の車を先導して、また山袋へ戻った。
「ええー!ここの先ですか」
「先生は釣り竿持ってないんだから頑張ってくださいよ」
翌週末に件の渓流釣りのポイントに連れて行ってもらったはいいが、林道に車をとめて、そこからは道なき道を腰に下げたラジオをクマよけに流しながら歩いて行く、ちょっとした冒険旅行だった。
2時間ほども歩き、渓流釣りのポイントまで来た頃にはヘトヘトに疲れていた。
「すごいですね。ここまで迷わず来れるなんてホントに尊敬…今だいたいこのあたりか…」
地図を見て確認する。
「坂本さーん、湯気ってどっちの方に見えました?」
「西の方だね。あっち側」言われた方へ行ってみるものの、なかなか草が高くまで茂っていて、借りたナタで薙ぎ払いながら進もうとするが、なかなかうまく払えない。
「先生ー!!見えた!湯気が見えた」
慌てて坂本さんのいた方へ戻る。
岩によじ登り指さされた方向をみると確かにふわふわと湯気が上がっていた。
「じゃあ行ってきます!」ナタを持ってなんとか手前の1メートルくらいを進んだところで後ろから坂本さんが走ってきた。
「都会っ子は仕方ねえなあ。ホラ、行くよ」
坂本さんが道を漕いでくれ、私は後に続いて行った。
ピチャと足元が濡れる。
「坂本さん、これ」
「湧き水だなあ、先の方が見えてきた。先生の読み通りだ。こりゃあすげぇところに……」
藪を抜けるとそこから先はアチラコチラに百合が咲く、湯気のもうもうと上がる湿地帯になっていた。
「お山様のユリだ」
私はナップザックからカメラを出して辺りの写真を撮った。
「ここが牛窪が淵?」
「そんな感じはしないね。下はただの泥。淵っていうからには、こうもっと水があって深いだろう」
「そうですね。ここじゃ無いのかな…」坂本さんは釣りに戻り、私は季節外れの百合の花をみた。
ここではないだろう。だが、美しい。
「こんばんは」
「こんばんは。お上がりください」
「お父さんは」
「入院しました。この家には僕一人です」
坂本さんとのユリ探しのあと、私は名賀家にやって来ていた。
「大変ですね」
「はい。大学はもう決まっているので、3月の卒業式が終わったらそちらに行きます」
「それがいいですよ。大人の事は大人に任せて。あの、これ僕の連絡先です。こんなでも大人ですから、何かあれば頼ってください。…すいません、一つ聞きたい事があって来たのですがいいですか」
「はい。こちらへ」
私は洋風の台所に通され、テーブルに今日持って歩いた地図をだした。ストーブが焚かれて温かい。
「二月に百合の生えている場所を見つけました。ここが林道でこの辺りです。かなりの山奥で、二時間も林道から外れて歩いてやっと…。ですがそのあたりはぬかるんでいるだけで、淵と言えるようなものが無くて」
「地図には無いですが、この辺り、この沢の上は元々集落があって沢の水はそこの泉から流れていたはず…ため池にする話が出て集落の人間は引っ越したと聞きました」
「泉?」
「ここの集落は立ち退いたけれど計画が無くなって、ため池はできませんでした。かなり前の話です」
「ここまで行く道は」
「ここが廃村になったのは戦前で、道は当時は那珂都山集落から行く道があったけれど、今はないと思います。曽祖父がここの出身で婿入りするときに馬で来た、とは聞きました」
「ここですよね、林道からお山様の裏手に車が行けたのなら、林道のここからこう道が通っているはず、この道が廃村まで行っているかもしれないな…」私は地図の道があると予想される位置に、鉛筆で線を引いた。
「車で行くのは辞めたほうがいいと思います。ずっと放棄されて整備もされていないから危ないですよ」
「で、イエモンはいつ戻って来る?」
「俺はただ世間話をしにきただけ」
須山中央署の前で、浅沼達生刑事と待ち合わせた。
身長は170センチほどで私より10センチは低い。いつもきっちりオールバックにして、目つきの悪い無表情な顔はさっき会ったばかりの人には何を考えているのか読めないだろうが、なかなか面白い男だった。強気で敏捷、柔道の腕前は県でも上位で、剣道もなかなかの腕前、射撃も上手い。
「平成も7年なのに、今どきそんな訳のわかんねえ村があって、神様がどうとか御告げがどうとか……」
「村じゃない。須山市」
「ちょっと待て、もう一回その地図見せてみろ。署の地図と照らし合わせないと」
私は10年間勤めた警察を一昨年辞めて教員を目指し、今年度から須山市第一中学校で産休の先生の代理として二学期いっぱいまで働いた後に、三学期から須山西中へとやってきた。
須山中央署には何人か知り合いはいるが、浅沼とは一番仲が良い。と私は思っている。向こうはどうだかわからない。
お互いいい年して独身だ。
「浅沼、車ごと消えた名賀五月。どこにいるか情報は」
「民間人に言えないよ。知りたかったら警察に戻れ」
同期の浅沼は今は刑事だ。私も警察にいた頃は刑事だった。
「イエモン、情報提供受けてやる。お前の事だから色々とノートに書いてあるだろ。伊右衛門ノート。出せ」
「民間人のノートが見たかったら令状見せてよ、刑事さん」
説明をして30分ほどが経った。
「ひでえ話だなぁ…櫻井小百合、小6で…この写真の巫女の子か。踊りの後の意識が混濁している隙に襲われたってことだろ?名賀信輔、当時25…お前の生徒は大丈夫だったのかよ」
「そういう被害は無かった。もう退院したよ」
「よかった。この子か、櫻井凛花」
ノートに貼られた子どもたちの写真を浅沼は指した。
「ああ。こっちは名賀俊輔で、これが母親の名賀五月。須山西中でPTAをやっていた時の写真」
「こっちの美人二人は?」
「スナックで働いていた松原千佳子と神社が経営する幼稚園で働いていた能美。二人とも自発的な家出が濃厚とされているけれど行方不明」
「この大学生も?」
「今までにも何回か、那珂都山から山袋のあいだを走る林道を走って遊んでいた可能性が高い。同一車種の写真を見せてふもとのガソリンスタンドの店員にきいたら、似た車がかなり前に何回も給油しに来たと言っていた」
「日帰りが出来るのにわざわざ宿を取った理由は。同伴者は」
「同伴者はいたらしい。女性でアムロナミエ」
「100%偽名。清々しいくらいだな」
「女の子は翌朝宿から車が無くなって依田が騒ぎ出したら、タクシーを呼んで一人先に帰った」
「どんな子?」
「番頭の話ではアムロナミエと言うよりは、飯島愛」
「おい、いたぞ。飯島愛。依田と同じ大学の子で、二股だったから依田が消えたあとも知らばっくれてた。『飯島愛』の話では、林道を通って廃村まで行くルートを依田が知ってた。で、一度は依田は1人で実際に廃村まで行ったが、雨の影響で村は半分水没していたので村の入り口の石で出来た柱まで行って戻っただけだと。泊まりの日に今度は『飯島愛』と廃村見物に行く予定が車が盗まれた」
「分かった。けど…電話で言え。何で俺の家来るんだよ」
浅沼は勤務終わりにやって来て、もうこたつに入って缶ビールを開けていた。
「飯食わせて」
「何もねえよ」
仕方なく、炊いてあった白米と味噌汁に、冷凍してあった肉を焼いて出す。
「イエモン、学校なんか辞めて警察に戻ってこい」
「無理。お前明日の土曜日非番?」
「ウン」
缶ビールの3本目を飲んで、酒に弱い浅沼はかなり酔いがまわっていた。
「山袋って美人だらけらしいな」
「女も男もやけに見た目がいい。集落はケンカと酒は御法度で、男は全員柔道経験者」
「酒が無理かー。いい女がいるのに酒は駄目なのか」
「浅沼みたいなヤツを寄せ付けないから、禁酒は効果があるな」
「イエモンも飲めよ。付き合え。いい女がいないからお前でいいや」
「浅沼を家に送らなきゃならない」
「泊まる」
「こたつで寝たら風邪ひく」
「ベッドで寝る」
「嫌だね」
文句を言いながら、浅沼はこたつでごろりと横になり、オールバックの髪が崩れた。
「おはよう、浅沼。酒は抜けたか」
「眠い…イエモン、カーテン閉めろ」
「これから山登り。お前んち寄ってから行く」
「そりゃあご苦労」
「お前も行くんだ」
「ここから徒歩?」神社の駐車場で車を降りる。
「他に駐車場がない。神社の駐車場は集落の客なら停めていいそうだ。駐禁取られたくないんだよ」
「分かった。行くぞ」
浅沼も私もしっかりとした防寒着を着て、靴も靴下も山登り用のものを履いてきた。
歩いて山の中の分社まで行き、階段を登る。
地蔵が階段の両脇に並ぶところまで来た。
先日の大嵐で紙のユリも羽織も吹っ飛んでしまったお地蔵さんがシンプルな出で立ちで並んでいるのを横目に見ながら登る。
「あと少しでお山様の社だ」
最後の鳥居をくぐり、お山様の拝殿のまえに来た。扉はきっちりと閉じられている。
「お参りしてから行こう。ホラ、5円」
浅沼に5円を渡し、私は一応旅の安全を祈願して千円札を入れ、お参りをした。
「冬でも鬱蒼としてるな」
「この神社の裏に道があるんだ。足元気をつけて」
「俺が先に行く」浅沼は木につかまりながら坂道を降りて行った。
「イエモン!降りてこい!」
木立の向こうから声がした。浅沼が通ったルートを辿って通り、下までたどり着くと砂利敷の道があった。
「ゲソ痕がある」
「名賀夫人だろう」かかとが細めのパンプスのあとだった。
山の中を通る道は膝の丈の枯れた草が生えてはいたが、歩くのに支障はなかった。
「タイヤ痕もあるね」
「行くぞ。あんまり路肩に寄るなよ。滑落する」
ところどころに斜面からの落石跡があり、いつごろのものかわからないがヒヤヒヤする。
道幅は広く、車が2台通りすがれるほどの幅があった。
「廃村ってのはどんな村だったんだ」
「このあたりの郷土史に詳しい人に二日前の夜に聞きに行った。いいおじいちゃんで、那珂都山集落で一人暮らし。
一升瓶持っていったら、一緒に飲もうって湯呑みが出てきて、おじいちゃんの友達も来て、車で行ったから泊めてもらった」
「お前は本当にそういうの良くない」
「気をつける。それで那珂都山集落のお
年寄りから聞いた話では、廃村は綺麗な湧き水が出る風光明媚なところだったらしい。山の斜面でお茶の栽培をして殿様に献上していて、それが村の主要な産業だった。
庄屋がお茶の栽培の一切合切を仕切ってた。那珂都山集落と山袋集落と阿賀馬集落、アカメ集落って言うんだけど、この3集落で助け合ってた。
ところが明治になって殿様がいなくなり、藩の外からも物が入って来るようになって流通がよくなるとお茶栽培だけではなかなか成り立たなくなった。
そして大正になった頃に阿賀馬で病気が流行ったらしいんだ。タイミング悪く、ちょうど秋の長雨にとどめの台風が来て土砂崩れで道が寸断された。雨が止んでからなんとか道を復旧して、10日後に阿賀馬に行くと、集落の住人20余名は全員亡くなっていたらしい」
「……」
「御弔いをして、その当時なりに家を消毒したけれどもう誰も住む気には無れず、阿賀馬集落はそのまま廃村になった。川の上流にあたるところに村があるから、渇水対策のため池にしようかって話もあったけれど実現しなかった」
「そのエピソード聞いただけでも行きたくねえな」
「山袋集落にある那珂都山神社の先々代の入り婿が阿賀馬集落の庄屋の次男で、女に目がなく酒も飲む。毛嫌いされていたが、集落を酔ってうろついていて、お山様のふもとの畑のあたりで雷に撃たれて死んだそうだ。
それが阿賀馬集落が無くなってすぐの秋。それで、もう皆は怖がって集落へ寄り付きもしなくなった。
元々、山袋の人間は阿賀馬集落をよくは思っていなかった。阿賀馬の男は山袋へ夜に下ってきては夜這いをして、無理やり…その…わかるだろ。先々代も那珂都山神社の娘を孕ませて、結婚した」
「クソ野郎集落って事か。なおのこと行きたくねえ」
道幅はところどころ狭まる場所はあったが、極端に荒れているところはなく、確かに車で走って行くことが出来そうだった。
1時間ほどで、村の入り口の門柱が見えて来た。
社まで続く階段は提灯が連なりぼんやりと鈍い光を放っているものの陰気としか言いようがなく、ここを先ほどの鬼の装束をした五十嵐や、白いコートを着た櫻井が上がって行ったとはにわかには信じられない。
階段は一段一段が高さがあり、上に向かうに連れ幅は狭くなって行った。
両脇に白装束のお地蔵さまが並んでいたが、端から3番目のお地蔵さまだけが赤い羽織に赤い花を供えられている。
社には五十嵐と名賀青年と櫻井だけでなく、もう一人いた。ぐるりとお社を回り、裏の林の下を懐中電灯で照らすと、軽自動車が1台止まっているのか微かに見えた。車がある場所からここまで来るのはなかなかの急斜面だ。
ここへ来るルートはほかにもあったのだ。
拝殿の方まで行くと、まだ揉めている声がした。
名賀青年の母親は柱に括り付けられて下を向いていた。
「名賀くんのお母さん、櫻井さんのお母さんの居場所を知っているなら、そんな無理に聞き出そうとせず、先に言えば櫻井さんの気持ちも動くと思いますよ。櫻井さんのお母さんは今どちらですか」
激しい雷鳴が空気を震わせる。山の雨は激しい。
天井の白熱電球は揺れて弱々しい光を放っている。
当分山から降りられないだろう。私はナップザックからノートを取り出した。
「実は私、この集落について少し調べまして…。
行方不明なのは櫻井さんのお母さんだけでは無いですよね。
去年は旅行客が一人、旅館の駒木屋さんに停めていた車とその車の持ち主の青年が行方不明になっています。
5年前にはふもとの須山市街で働いていたスナック勤務の女性、2年前にはピアノの調律師の女性も行方不明で見つかっていません。
どちらも山袋の方ではないですが、ここに来た後に行方不明になっています。スナックは店主が山袋出身で、山袋の方が懇親会などで利用している店…『あんず』。行方不明の店員さんは松原千佳子さん、当時37歳。行方不明になる前日に、懇親会のお金を山袋集落に集金しに来て、そのまま行方不明になった。
かなりの額で…ええっと18万円。持って逃げたんじゃないかという事でまともに捜査されなかったようです。
もうお一人、調律師の女性は那珂都山幼稚園のピアノの調律をしていた能美沙也加さん当時30歳。那珂都山神社が下の集落でやっている幼稚園ですよね。
能美さんは元々ピアニスト志望で幼稚園で子どものための音楽教室もされていた。ご結婚されていてお子さんは無し、DVで何度か警察に行ってます。当時、夫が疑われて相当取り調べたようですが、取り調べ後に自殺して、迷宮入りしたようですね」
「どうやって調べたんですか」郁人が聞いた。
「図書館で地元紙と全国紙の必要なところを5年分ざっと見ました。後はお店や関係者の方とお話したり、警察にいる古い友人に聞いたりね。まあ素人調べですが…」
「私のため?」小さな声で櫻井が言った。
「好奇心が強いんだ」私も小さな声で答えた。
不用意な質問で泣かせた後に、櫻井の母親が小学校1年から行方不明であることを知った。
櫻井の父に電話をして泣かせた事を詫びると、櫻井の父は堰が切れたかのようにこれまでの話をし、今年失踪宣告をして亡くなった事になったが、今でも何処かにいるのではと思っていますと電話口で泣いた。
なんの前触れもなく消えた一人の女性と、残された父と娘の長い7年間。
「1月の終わりに駒木屋さんにサイクリングがてら泊まりに行ったんです。僕自転車が趣味なもんで。番頭の男の子が色々と話してくれました。山袋集落から那珂都山集落まで繋がる林道があるそうですね。そこをオフロード用に改造した車で走り回る予定でやってきた大学生の若者が車を盗まれた。盗まれたのは事件として新聞に載っていましたが、その時に集落の女の子が車に驚いてケガをしたと。
登下校の時の怪我なので学校に記録がありました。櫻井は頭を縫って大変だったね。
その若者は櫻井の件ではお咎めなしで、駒木屋まで五十嵐のご両親が怒鳴り込んだらしいが、開き直って謝りもしなかったらしい」
「うちの親が?凛花知ってたか」
「初めて聞いた」
「駒木屋も一応客だから追い出すわけにもいかず、五十嵐の親には帰ってもらった。それで朝駐車場を見たら車が無かった。この集落には防犯カメラは1台もない。
その後、大学生…依田くんという青年…は警察も呼んで散々集落を捜したが車は見つから無かった。
依田青年は車が消えた翌週にも宿に顔を出して、林道の方も探すと言っていたそうです。
私ね、いけないことですが宿帳をちらりと見て依田くんの下宿先に連絡して、おかみさんが出ました。
私も車が趣味で依田くんに聞きたい事があるって言いましたら、荷物を何もかも置いて大学もあと少しで卒業なのに消えてました。
親が血眼になって探したが見つからず、下町で板金屋をしてる実家を継ぐのが嫌でそれで姿をくらましたんじゃないかと下宿のおかみさんは言ってました。
あと数年もしたら飽きて、姿を見せるだろうと依田青年の親は踏んでいるそうです。
さっきぐるりとこの神社の周りを回って来たんですが、名賀さんのお母さん、車でここまで来る道がありますね?あなたは神社の裏に車を停めてここまでいらした。
ここから那珂都山集落へ行く林道にはさらに側道があってここまで来れるんですよね、そうでしょう」
名賀青年の母親は無反応だった。
「名賀くんのお母さん、なんでみんなを殺したんですか」
雷が鳴り、拝殿の明かりは消えた。
「郁人!!」櫻井の叫ぶ声がした。
「大丈夫」五十嵐の声がした。
雷は立て続けに何度も鳴り響き、ガタガタと床が揺れた。
「僕、懐中電灯持ってました」
桑坂老人から借りたものが役に立った。
辺りを照らす。
柱に縛り付けたはずの名賀青年の母親の姿が無い。コートの紐だけが下に落ちている。
ぐるりと部屋を照らす。
櫻井と五十嵐は私の後ろでしゃがんでいて、名賀青年は脇に猟銃を抱え、手を縛っていた白い櫻井のコートのベルトを持っていた。
「紐が…母は消えました。足音がして…本殿の方かも」
「私が見てきます。君たちはここにいて」
私は足元を照らしながら、拝殿の先の本殿へ向かった。
激しい雨の音が感覚を鈍らせ、どこからとも無く聞こえてきた鈴の音が辺りを巡った。
ここは神の領域なのだ。
この山袋自体がいわば大きな一つの神社であった。
外から車のエンジンの音がした。耳を澄ますと車は走り去って行ったようだった。
足元を照らしながら戻る。
ぬっと人影が現れ、腰が抜けそうになるが名賀青年だった。
「お母さんは車で行ってしまったようです」
懐中電灯のほのかな明かりの中に、名賀青年はいた。
私と同じくらいの背丈で大人っぽく顔をしていても、まだ高校生なのだった。
実の母を殴り、このくらやみで猟銃を持って、こんな目にあっていいはずがなかった。
「名賀くん、すまない」
「うちの母が…」
暗闇の中で、名賀青年は声をころして泣いた。
「どうしたどうした!!」
15分ほどして雨が小降りになると、雨合羽を着た桑坂老人や鬼の装束のままの男性たち、櫻井と五十嵐の父親もやって来て、一斉に懐中電灯で私たちを照らし、目が眩んだ。
「凛花!!」
「パパ!」
お山様には管理のための小屋があって、長靴が2足あり五十嵐と櫻井は長靴を借りた。みなでソロリソロリと雨に濡れた階段を降り、鳥居の前にずらりと並んだ車に乗り込む。
私は名賀青年と桑坂老人の車に乗り、猟銃は桑坂老人の車のトランクに入れた。
櫻井と五十嵐は家に帰らせて、警察を呼んでもらった。
猟銃を持って名賀夫人がおかしな様子でやってきた、という事で神社の裏のルートからの林道を捜索したが、見つからないまま夜が明けた。
私は親切な桑坂老人の家に泊めてもらい、翌朝、那珂都山神社にみなで集まった。
「この度は五月が御迷惑をおかけして申し訳ありません」
広い座敷でみなが並んでいる中、宮司の名賀氏が土下座をし隣の名賀青年も一緒に頭を下げた。
「何事ですか」並ぶ老人のうちの上座に座っていた1人が聞いた。
「どうもご神体の鏡が黒くなった事と巫女舞が予定通りに行かなかった事に気を病んで、櫻井さんのお嬢さんから巫女の御告げを聞きだそうとしたようです」
櫻井はいなかったが、櫻井の父親は五十嵐の父親と並んで、苦虫を噛み潰したような顔をして末席の方に座っていた。
「御告げはあったんですか」
「そんなものは無いですよ!」櫻井の父親が大声を出した。
「娘は今日、病院に入院して様子を見てもらってます。そうやって御告げだなんだと言い聞かせながら年端もいかない女の子に踊らせて、気が狂ったらどうしてくれるんですか!あげく猟銃で脅して娘に洗いざらい話せと迫った。山袋に居ていい人間ではない!」
場はザワザワとして、みな猟銃の事は初耳であったようだった。
「猟銃はどこから」老人が聞いた。
「妻の兄が下の集落に家がありまして、狩猟免許があって、それを黙って持って来たようです」
「撃つつもりで?」
「さぁ…それは…」
「撃つつもりであろうがなかろうが、腹のうちは関係無い!」
五十嵐の父親も大声を出した。
なかなかの広さの座敷で、上座まで意見を言おうと思うと、どうしても大声になるのだった。
「先生、先生もその場にいたのだから意見を言ってください」
急にその場の人々の目が私に集まった。
女性が多い。
ここまで話したのは男性だが、場の七割くらいは女性で集落の多くの家のものが参加しているようだった。
「私は櫻井さんが高校生と二人きりで山の神社に向かったと聞いたので、心配で五十嵐くんにも声をかけて後について行ったのです。あの、名賀くんと櫻井さんの名誉のために言うと、二人きりになるように仕向けたのは名賀くんのお母さんで、二人はただ言われた通りにしただけです。
名賀さん、以前も『お山様の御言葉』があったと聞きました。それも節分の時にお山様で巫女が言ったとか。悪い予言だったそうですね」
宮司はぐっと堪える顔をした。
「ありましたよ」私の隣に座っていた30代くらいの女性が言った。
「御言葉を聞いたのは櫻井さんのお母さんの百合子さんです。その年の節分の巫女舞は素晴らしかった。私はその時4年生で舞の終わった六年生の百合子さんに聞きました。『みこさま、今年はどんな年ですか』百合子さんは天女のように笑って『とても良い』と言った。その後に、信輔さんが顔を出して…まだ当時は宮司ではなかったですわね?」
宮司は能面のようにじっとして、声は聞こえていないようでもあった。
「『百合子、おいで。お山様が呼んでいるよ』と言って信輔さ?は百合子さんの手を取って出て行った。私たちはお世話役の人に衣装を脱がせてもらって、控えの間で遅い昼ご飯を食べたりしました。
そこへ襦袢一枚で百合子さんが控えの間に駆け込んできた。後を追うように信輔さんが。
百合子さんは目を大きく見開いて金切り声で言いました。
『巫女を穢したものが巫女を娶り、その子を牛窪ヵ淵に沈めよ。四人沈め、五人目を私のところへ、私の刀とともに連れて参れ!戦じゃ!』。
私は一言一句覚えてます。百合子さんの襦袢が血で汚れていた。その後百合子さんが気がついた時には何も覚えていなかった。百合子さんの襦袢は脱がされ洋服を着せられて、信輔さんのお母さんが百合子ちゃんのお母さんに言った事を覚えています。
『百合子ちゃんに月のものが来たみたい』
でも月経なんかじゃありませんでした。私たち五人は見たんです。五月さんもその場にいました。五月さんは18であなたの妻になり、四人流産して、五人目に俊輔さんが生まれた。私たちはやっぱりと言い合ったものです」
私の隣の女性は場を見渡し、3人の女性が怒りの目をしてうなずいた。そのうちの一人は五十嵐の母親だった。
「百合子さんは全部忘れて、幸せに暮らしていらしたわ。凛花ちゃんは生き写しのようで…私たちもずっと見守っていました」
四人の女性は櫻井の父に目線をやった。
「五月さんは百合子さんに信輔さんがしたことを知って『私も信輔さんに選ばれて、お着物を紅くしたい』と言っていました。そして中学に入った頃には信輔さんとお付き合いをしている、と言ってきた。私たちは気持ち悪くて彼女と必要以上の付き合いはやめました。でもやめたあとも、よくない噂は入って来た。
百合子さんが急に消えたときも私たちは五月さんを疑ってました。彼女はずっと巫女になりたかった。でも百合子さんがいたからなれなかったと恨み、小学校1年生になって、百合子さんが生き写しの凛花ちゃんを連れて、神社に顔を見せるようになった。私たちは四人そろって百合子さんの行方を知らないかと彼女に聞きました。五月さんは笑って宮司の妻は忙しくてそれどころじゃないと言ってましたよ。そう、信輔さんのお父さん、ずいぶん早くに亡くなられましたわね」
「なんと…」桑坂老人が言った。
「今年、百合子さんが正式に亡くなられた事になったと聞いて、私たち四人が那珂都山神社のご神体を黒く塗りました」
場のざわめきは大きくなり、もう皆が大声で話していると言っていいくらいであった。
「あのー、すいません」
「どうしました、先生。先生がお話になる。みな、静かに!」桑坂老人が私のために場を静かにしてくれた。
「すいません部外者で。須山西中の2年生の担任をしている大矢場伊右衛門といいます。あの、去年駒木屋に泊まった大学生が行方不明になっているのはご存じですか。櫻井凛花さんがケガをする原因を作って、車を盗まれた…」
みな口々に知らない、初めて聞いたなどと言った。
「彼は急に下宿から姿を消しまして、消える直前まで車を探していたらしいのですが、どうも林道の話をしていたようなんです。私も昨日知ったんですが、ここから那珂都山集落までの林道はたくさん側道があるんですよね。そのうちの一本がお山様の裏手に通じていた事を皆さんご存じでしたか」
「知っていたものは」桑坂老人が声をかけると、年配の男性の何人かは手を挙げた。
「めったに使いませんな。イノシシやクマが出る」
「そうですか。牛窪ヵ淵というのはどちらになりますか」
「牛窪が淵なんてものはありゃぁしません。昔々、お山様がけしからん鬼を沈め、その上に百合の花畑を……」
最長老だと思われる老人が、不明瞭な声で話し始めた。
「みこさまやお地蔵さまに百合を飾るのはその話からですか」
「昔は紙ではなく本物を飾った」
「二月にですか」
「さよう」
「二月に本物の百合…、すいません昔っていつ頃ですかね」
「文久よりは前じゃろう」
「ええ?」
「確かな話です」長老はじろりとこちらを睨んだ。
宮司は長老たちに囲まれて一礼をして広間から出て行き、名賀青年も立ち上がって後をついて行った。
私も桑坂老人と共に広間から出て、五十嵐と櫻井の両親と三人の女性が小声で話しながら去っていくのを見送った。
「大変な事ですね」
「悪事は全て出してしまうしかない」諦めの表情を見せ、桑坂老人は私を那珂都山集落に置きっぱなしの車まで送ってくれた。
「二月の百合ってどう思います?」
「ビニールハウスやなにか、とにかく暖かくなければならないな」
「そうですよねぇ。自然に二月に百合の生えている場所なんて…」
「直接見たことはないが温泉が湧いている所はある。渓流釣りしている連中が時々、湯気が上がっているのが見えるって言ってたね。かなりの山奥だ」
「すいません、そのお友達紹介してもらってもいいですか?」
お人好しの桑坂さんは那珂都山集落から私の車を先導して、また山袋へ戻った。
「ええー!ここの先ですか」
「先生は釣り竿持ってないんだから頑張ってくださいよ」
翌週末に件の渓流釣りのポイントに連れて行ってもらったはいいが、林道に車をとめて、そこからは道なき道を腰に下げたラジオをクマよけに流しながら歩いて行く、ちょっとした冒険旅行だった。
2時間ほども歩き、渓流釣りのポイントまで来た頃にはヘトヘトに疲れていた。
「すごいですね。ここまで迷わず来れるなんてホントに尊敬…今だいたいこのあたりか…」
地図を見て確認する。
「坂本さーん、湯気ってどっちの方に見えました?」
「西の方だね。あっち側」言われた方へ行ってみるものの、なかなか草が高くまで茂っていて、借りたナタで薙ぎ払いながら進もうとするが、なかなかうまく払えない。
「先生ー!!見えた!湯気が見えた」
慌てて坂本さんのいた方へ戻る。
岩によじ登り指さされた方向をみると確かにふわふわと湯気が上がっていた。
「じゃあ行ってきます!」ナタを持ってなんとか手前の1メートルくらいを進んだところで後ろから坂本さんが走ってきた。
「都会っ子は仕方ねえなあ。ホラ、行くよ」
坂本さんが道を漕いでくれ、私は後に続いて行った。
ピチャと足元が濡れる。
「坂本さん、これ」
「湧き水だなあ、先の方が見えてきた。先生の読み通りだ。こりゃあすげぇところに……」
藪を抜けるとそこから先はアチラコチラに百合が咲く、湯気のもうもうと上がる湿地帯になっていた。
「お山様のユリだ」
私はナップザックからカメラを出して辺りの写真を撮った。
「ここが牛窪が淵?」
「そんな感じはしないね。下はただの泥。淵っていうからには、こうもっと水があって深いだろう」
「そうですね。ここじゃ無いのかな…」坂本さんは釣りに戻り、私は季節外れの百合の花をみた。
ここではないだろう。だが、美しい。
「こんばんは」
「こんばんは。お上がりください」
「お父さんは」
「入院しました。この家には僕一人です」
坂本さんとのユリ探しのあと、私は名賀家にやって来ていた。
「大変ですね」
「はい。大学はもう決まっているので、3月の卒業式が終わったらそちらに行きます」
「それがいいですよ。大人の事は大人に任せて。あの、これ僕の連絡先です。こんなでも大人ですから、何かあれば頼ってください。…すいません、一つ聞きたい事があって来たのですがいいですか」
「はい。こちらへ」
私は洋風の台所に通され、テーブルに今日持って歩いた地図をだした。ストーブが焚かれて温かい。
「二月に百合の生えている場所を見つけました。ここが林道でこの辺りです。かなりの山奥で、二時間も林道から外れて歩いてやっと…。ですがそのあたりはぬかるんでいるだけで、淵と言えるようなものが無くて」
「地図には無いですが、この辺り、この沢の上は元々集落があって沢の水はそこの泉から流れていたはず…ため池にする話が出て集落の人間は引っ越したと聞きました」
「泉?」
「ここの集落は立ち退いたけれど計画が無くなって、ため池はできませんでした。かなり前の話です」
「ここまで行く道は」
「ここが廃村になったのは戦前で、道は当時は那珂都山集落から行く道があったけれど、今はないと思います。曽祖父がここの出身で婿入りするときに馬で来た、とは聞きました」
「ここですよね、林道からお山様の裏手に車が行けたのなら、林道のここからこう道が通っているはず、この道が廃村まで行っているかもしれないな…」私は地図の道があると予想される位置に、鉛筆で線を引いた。
「車で行くのは辞めたほうがいいと思います。ずっと放棄されて整備もされていないから危ないですよ」
「で、イエモンはいつ戻って来る?」
「俺はただ世間話をしにきただけ」
須山中央署の前で、浅沼達生刑事と待ち合わせた。
身長は170センチほどで私より10センチは低い。いつもきっちりオールバックにして、目つきの悪い無表情な顔はさっき会ったばかりの人には何を考えているのか読めないだろうが、なかなか面白い男だった。強気で敏捷、柔道の腕前は県でも上位で、剣道もなかなかの腕前、射撃も上手い。
「平成も7年なのに、今どきそんな訳のわかんねえ村があって、神様がどうとか御告げがどうとか……」
「村じゃない。須山市」
「ちょっと待て、もう一回その地図見せてみろ。署の地図と照らし合わせないと」
私は10年間勤めた警察を一昨年辞めて教員を目指し、今年度から須山市第一中学校で産休の先生の代理として二学期いっぱいまで働いた後に、三学期から須山西中へとやってきた。
須山中央署には何人か知り合いはいるが、浅沼とは一番仲が良い。と私は思っている。向こうはどうだかわからない。
お互いいい年して独身だ。
「浅沼、車ごと消えた名賀五月。どこにいるか情報は」
「民間人に言えないよ。知りたかったら警察に戻れ」
同期の浅沼は今は刑事だ。私も警察にいた頃は刑事だった。
「イエモン、情報提供受けてやる。お前の事だから色々とノートに書いてあるだろ。伊右衛門ノート。出せ」
「民間人のノートが見たかったら令状見せてよ、刑事さん」
説明をして30分ほどが経った。
「ひでえ話だなぁ…櫻井小百合、小6で…この写真の巫女の子か。踊りの後の意識が混濁している隙に襲われたってことだろ?名賀信輔、当時25…お前の生徒は大丈夫だったのかよ」
「そういう被害は無かった。もう退院したよ」
「よかった。この子か、櫻井凛花」
ノートに貼られた子どもたちの写真を浅沼は指した。
「ああ。こっちは名賀俊輔で、これが母親の名賀五月。須山西中でPTAをやっていた時の写真」
「こっちの美人二人は?」
「スナックで働いていた松原千佳子と神社が経営する幼稚園で働いていた能美。二人とも自発的な家出が濃厚とされているけれど行方不明」
「この大学生も?」
「今までにも何回か、那珂都山から山袋のあいだを走る林道を走って遊んでいた可能性が高い。同一車種の写真を見せてふもとのガソリンスタンドの店員にきいたら、似た車がかなり前に何回も給油しに来たと言っていた」
「日帰りが出来るのにわざわざ宿を取った理由は。同伴者は」
「同伴者はいたらしい。女性でアムロナミエ」
「100%偽名。清々しいくらいだな」
「女の子は翌朝宿から車が無くなって依田が騒ぎ出したら、タクシーを呼んで一人先に帰った」
「どんな子?」
「番頭の話ではアムロナミエと言うよりは、飯島愛」
「おい、いたぞ。飯島愛。依田と同じ大学の子で、二股だったから依田が消えたあとも知らばっくれてた。『飯島愛』の話では、林道を通って廃村まで行くルートを依田が知ってた。で、一度は依田は1人で実際に廃村まで行ったが、雨の影響で村は半分水没していたので村の入り口の石で出来た柱まで行って戻っただけだと。泊まりの日に今度は『飯島愛』と廃村見物に行く予定が車が盗まれた」
「分かった。けど…電話で言え。何で俺の家来るんだよ」
浅沼は勤務終わりにやって来て、もうこたつに入って缶ビールを開けていた。
「飯食わせて」
「何もねえよ」
仕方なく、炊いてあった白米と味噌汁に、冷凍してあった肉を焼いて出す。
「イエモン、学校なんか辞めて警察に戻ってこい」
「無理。お前明日の土曜日非番?」
「ウン」
缶ビールの3本目を飲んで、酒に弱い浅沼はかなり酔いがまわっていた。
「山袋って美人だらけらしいな」
「女も男もやけに見た目がいい。集落はケンカと酒は御法度で、男は全員柔道経験者」
「酒が無理かー。いい女がいるのに酒は駄目なのか」
「浅沼みたいなヤツを寄せ付けないから、禁酒は効果があるな」
「イエモンも飲めよ。付き合え。いい女がいないからお前でいいや」
「浅沼を家に送らなきゃならない」
「泊まる」
「こたつで寝たら風邪ひく」
「ベッドで寝る」
「嫌だね」
文句を言いながら、浅沼はこたつでごろりと横になり、オールバックの髪が崩れた。
「おはよう、浅沼。酒は抜けたか」
「眠い…イエモン、カーテン閉めろ」
「これから山登り。お前んち寄ってから行く」
「そりゃあご苦労」
「お前も行くんだ」
「ここから徒歩?」神社の駐車場で車を降りる。
「他に駐車場がない。神社の駐車場は集落の客なら停めていいそうだ。駐禁取られたくないんだよ」
「分かった。行くぞ」
浅沼も私もしっかりとした防寒着を着て、靴も靴下も山登り用のものを履いてきた。
歩いて山の中の分社まで行き、階段を登る。
地蔵が階段の両脇に並ぶところまで来た。
先日の大嵐で紙のユリも羽織も吹っ飛んでしまったお地蔵さんがシンプルな出で立ちで並んでいるのを横目に見ながら登る。
「あと少しでお山様の社だ」
最後の鳥居をくぐり、お山様の拝殿のまえに来た。扉はきっちりと閉じられている。
「お参りしてから行こう。ホラ、5円」
浅沼に5円を渡し、私は一応旅の安全を祈願して千円札を入れ、お参りをした。
「冬でも鬱蒼としてるな」
「この神社の裏に道があるんだ。足元気をつけて」
「俺が先に行く」浅沼は木につかまりながら坂道を降りて行った。
「イエモン!降りてこい!」
木立の向こうから声がした。浅沼が通ったルートを辿って通り、下までたどり着くと砂利敷の道があった。
「ゲソ痕がある」
「名賀夫人だろう」かかとが細めのパンプスのあとだった。
山の中を通る道は膝の丈の枯れた草が生えてはいたが、歩くのに支障はなかった。
「タイヤ痕もあるね」
「行くぞ。あんまり路肩に寄るなよ。滑落する」
ところどころに斜面からの落石跡があり、いつごろのものかわからないがヒヤヒヤする。
道幅は広く、車が2台通りすがれるほどの幅があった。
「廃村ってのはどんな村だったんだ」
「このあたりの郷土史に詳しい人に二日前の夜に聞きに行った。いいおじいちゃんで、那珂都山集落で一人暮らし。
一升瓶持っていったら、一緒に飲もうって湯呑みが出てきて、おじいちゃんの友達も来て、車で行ったから泊めてもらった」
「お前は本当にそういうの良くない」
「気をつける。それで那珂都山集落のお
年寄りから聞いた話では、廃村は綺麗な湧き水が出る風光明媚なところだったらしい。山の斜面でお茶の栽培をして殿様に献上していて、それが村の主要な産業だった。
庄屋がお茶の栽培の一切合切を仕切ってた。那珂都山集落と山袋集落と阿賀馬集落、アカメ集落って言うんだけど、この3集落で助け合ってた。
ところが明治になって殿様がいなくなり、藩の外からも物が入って来るようになって流通がよくなるとお茶栽培だけではなかなか成り立たなくなった。
そして大正になった頃に阿賀馬で病気が流行ったらしいんだ。タイミング悪く、ちょうど秋の長雨にとどめの台風が来て土砂崩れで道が寸断された。雨が止んでからなんとか道を復旧して、10日後に阿賀馬に行くと、集落の住人20余名は全員亡くなっていたらしい」
「……」
「御弔いをして、その当時なりに家を消毒したけれどもう誰も住む気には無れず、阿賀馬集落はそのまま廃村になった。川の上流にあたるところに村があるから、渇水対策のため池にしようかって話もあったけれど実現しなかった」
「そのエピソード聞いただけでも行きたくねえな」
「山袋集落にある那珂都山神社の先々代の入り婿が阿賀馬集落の庄屋の次男で、女に目がなく酒も飲む。毛嫌いされていたが、集落を酔ってうろついていて、お山様のふもとの畑のあたりで雷に撃たれて死んだそうだ。
それが阿賀馬集落が無くなってすぐの秋。それで、もう皆は怖がって集落へ寄り付きもしなくなった。
元々、山袋の人間は阿賀馬集落をよくは思っていなかった。阿賀馬の男は山袋へ夜に下ってきては夜這いをして、無理やり…その…わかるだろ。先々代も那珂都山神社の娘を孕ませて、結婚した」
「クソ野郎集落って事か。なおのこと行きたくねえ」
道幅はところどころ狭まる場所はあったが、極端に荒れているところはなく、確かに車で走って行くことが出来そうだった。
1時間ほどで、村の入り口の門柱が見えて来た。



