「くくく……お話は終わったかい?」

 ピエロ男は嬉しそうな声でそういった。

「最終的に一人にならないと、出られないよォ? 頑張ってね」

 こちらの緊張感など知ったことか、とばかりにパンを頬張っている。半分をまるごと口に? ずいぶんとがっつりと口にいれるんだな。

「ぶっ殺してやる……」と睨みつけながらチャラ男は言った。

 ……その殺意は俺に向けてくれ。
 きちんとしたやつをな。

「いや、君たちは私のいるところまではどうあってもこれないよ……通路がないからね。だからこそ、ゲームをするしかないんだよ。終わらせる方法は」

 高みの見物というやつか。全く厄介な。
 それにしても希望をもたせといて、後から絶望させる方がいいような気もするのに、随分と手の内を優しく明かしてくれるな、この男は。

 そう思って、ピエロ男を眺めていると――
 
「うっ」

 そういって、ピエロ男は自身の胸をドンドンと叩き始めた。

「……お、おい、どうした?」とチャラ男。
「毒か?」と、探偵。
「いや、パンを喉につまらせたようだ」と体育会系。
「全く……よく噛まないからだ」と神経質。
「食生活が悪いわね」と――今はそうじゃないだろうな紅一点。

「た、たすけ……」

 ピエロ男は息が苦しそうにもがいたままだ。
 
「おい、お茶か水は」と、やや心配そうに体育会系。

 飲もうと思ったのか、机の上の紙コップに手を伸ばす。
 しかしピエロ男の手がいよいよ震えはじめ、紙コップが倒れた。
 中身はすべてテーブルの上にぶちまけられてしまった。
 ペットボトルだったらまだ良かったのだが――このタイミングで、すごい運の悪さだ。

 ピエロ男の仮面が外れて、その下から絶望の表情が垣間見える。

「おい、マズイぞ。助けに行くか?」と体育会系。
「は? デスゲームはじめるとか言ってたヤツを?」とチャラ男。
「ってか、さっき、あいつ……ピエロ男の部屋には行けないって言ってなかったか?」神経質はそういう。
「じゃあ助けろもなにも、助けられないじゃん! ウケるー」紅一点は悲鳴を上げた。

……ウケるのか?

 各々が発したその言葉が聞こえたのかどうかはわからないままで、ピエロ男はがくりと机に突っ伏した。ピクリとも動かない。

「お前……デスゲームのマスターじゃないのかよ!? 真っ先にお前が死んでんじゃねーよ!」

 チャラ男が即座にツッコんだ。
 いや、そんなことをいっている場合じゃないが。

「そう思わせといて、実は――生きている、なんてことがあるかもしれん。よくある手口さ」

 探偵がそういうが――。

 ……ないだろうな。
 先ほど、死の直前にピエロ男の仮面は外れたが、想像以上に若い男で普通のヤツだった。

 ――僕たちに顔を見せる理由がない。そして瞳孔は開ききっていて、ピクリとも動かないなんていくらなんでも不可能だ。

 マスター不在でデスゲームはこのまま続くようだ。

 死亡1名:デスゲームマスター 
 死因:食べ物を喉につまらせ窒息死(自殺……いや、事故死)