―――いいって。いいって。

 梶くんは険しい顔で言う。

 私が嫌なの。
 今日だって、ずっとベットの上。

 梶くん……
 この頃、車椅子の移動が多いし、もう部屋の中くらいしか歩けないんじゃ?

 今度の約束ができない自分がもどかしい。

 私が来れない間に何かあったら、って。こんな事くらいしか、できる事なかった。

「無理してないって、私もいつも言ってるよ」
「大丈夫だから。大丈夫、大丈夫」

 梶くんは我慢に慣れすぎだし、私を梶くんの陣地には、入れてくれない。

 今、何してる?

 そんなたやすい言葉も届かない。

 スマホがあれば、簡単に指先で、言葉を伝えられるのに……
 声が聞きたくなったら、片手で繋がる……当たり前になってた。

 知らなかったよ……
 ちっぽけな事、わからないだけで、こんなに不安になるなんて。

 梶くんのこと……
 心配でたまらなくて、落ち着かないの。

 勝手だけど、ただのわがままだけど ……

 梶くんがツライ時、あのガラケーが鳴ったらいいのに―――。

 そしたら、すぐ駆けつけるのに。

 会いたい、って呼んでくれたらいいのに。

 ……そう、バカみたいに思った。

 私達の言葉は平行線で、「……じゃあ、また来ます」バックを持って、今日の別れに明るい顔を作ることしか、できなかった。