19時になり、食堂に皆が集まった。
 
『ゴキゲンヨウ・吸血鬼ノ姫ニナル幼虫達ヨ……皆さんおかえりなさーい・今日もほっしょくほっしょくできたかなー??』

 食堂のモニターに映るゲーム・マスター。
 相変わらず不気味だ。
 ほっしょくとは何か? と考えたが『捕食』という意味か。
 
『今日はお魚ですねぇー・昨日の通りに運ばれたお弁当をみんなで配膳してくださいね~』

 配膳猫ロボットもウロウロと動き出し、皆が並んで弁当を受け取る。

「なんだてめぇ、どけ」

「るっさいわね、なんか文句ある? うざ」

「なんだとおらぁ!!」

「はぁ? きもいんだけど」
 
 真莉愛と蝶子だ。
 私語は厳禁。皆に緊張が走る。

『私語以外の暴力も禁止ですよぉ~女子監獄って感じで楽しい気もしますけどね・アハハ』

「真莉愛さん、ヤバいっすよ」

「蝶子やめとこーよー」

 手下や取り巻きに止められ、真莉愛と蝶子は睨み合いながら席へ座る。

『早く座らないと~~撃つよ~~』

 配膳猫ロボットがまた物騒な事を言いながら、いちごみるくを配る。
 皆で輪になり、シスター聖奈の祈りを聞いて夕食の時間が始まった。
 ゲーム・マスターもわざわざモニターの中で、同じ弁当を食べているのが悪趣味だと思った。
 仮面をしているので、ただ箸を動かして『食べるフリ』をしているだけなのだから。
 悪趣味以外の何者でもない。

 またいちごみるくを先に飲んで、明日の体力温存のために無理やり食事を喉に押し込む。
 味なんて感じなくなってしまった。
  
 24時間で全く変わってしまった。
 結局、女生徒全員がデス・ゲームで殺し合う敵になってしまったのだ。

 スズメは夕飯を食べることができているだろうかと探すと、目が合った。彼女は頷き食事を口にしている。
 
 絹枝と隣に座ったルルも無表情だが、食事を口に運んでいた。

 食べなければもたない……。

 そういえばと『孤高の陸上プリンス・灰岡ショウ』を探す、とニコニコとご飯を食べている緑の髪の少女が目に入った。
 あの不思議な少女は……確か学園の妖精『鳴宮心空《なるみやここあ》』
 芸術方面での才能が世界的に認められていて、あの緑の髪も許されているとか……。

 そして最初に探していた灰岡ショウを見る。
 灰岡ショウは無表情に、だが凛とした空気で夕飯を食べている。
 身長も高く、短髪で、確かに王子様のようだ。
 女生徒から絶大な人気だったショウ。
 彼女もココアも単独行動なのだろうか……。
 
 それにしても学院内の有名人がこんなにもいたとは。
 昨日の夕飯では自分がどれだけ周りを見えていなかったかがよくわかった。
 
 ゾクッ……!
 
 ふと強い恨みの瞳で、睨まれている事に気付く。
 優笑を襲った姉妹の妹だ。
 スズメが姉を捕食した際に、生き残った妹。

 優笑は目をそらし、二度とその方向を見ることができなかった。
 逆恨みに違いないが、こんな事が日常になっていくのだ。

『はい~~・それでは本日の結果~~発表~~~タイムだよぉ~☆』

 無言で下を向く女生徒達に嬉々として死亡者人数とレベルアップした人の名前が発表された。
 
  【生存者:27名 
  死亡者合計:4名
  本日の死亡者・2名:菊池友江・野澤純子
  通信係抜擢:1名
  レベル上昇者:相賀鈴愛レベル2 鬼頭真莉愛レベル3】

 真莉愛がレベル3……!!
 真莉愛と手下……そして蝶子グループ以外の女生徒は皆青ざめた。
 麻莉愛の笑い声が響き、注意された。
 ふん、と爪を見ている蝶子を真莉愛は睨みつける。

 姉の死を聞いて、妹の菊池ゆりえは机に突っ伏して泣き喚きだした。

 耳を塞ぎたくなる……。
 スズメは食堂を足早に出て行った。
 優笑も席を立つと優楽も続き、部屋に戻る時に強く手を握りあった。
 
 辛くてもお互いに微笑み合って、頷く。
 『おやすみなさい』の合図。
 
 今日はシャワーを浴びた。
 温かいお湯が優しく撫でてくれる。
 それでも今日感じた恐怖を思い出すと、震えてしまう。

 優楽を守りたい。
 命の恩人のスズメも守りたい。
 生徒会長の絹枝のグループでできることをしなければ……!

 鏡の前で青白い自分の顔を見つめた。
 恐ろしい明日がまた来る。