狭い小屋のなか、五人で息を潜める。
 しかし一人で林をさまよっていた時に比べれば、安心感は半端ない。
 ずっと此処にいたいくらいだ。

「これからどうしたらいいんでしょう……」

 寄り添う優楽の頭を撫でながら、優笑が言う。
 
「自分達の身を守る為にも、私達の能力の把握や対抗するための武器を手に入れたり……そういうことをコツコツやっていきましょう。それと逃走ルートはないのか、もしくは救援要請はできないか……」

 絹枝の張りのある声は、頼りがいがあって全員の心を落ち着かせた。
 1歳しか違わないのに、眼鏡の奥の瞳はキリッとして品があり美しい。
 
「確かに、監視船だって360度いるわけじゃないだろうし……ここが島なら通った船に救助を求めるとか……」

 スズメが顎に手をやって、考える。
 
「できるかも……! 海の方にも行かなきゃですね!」

 優楽がスマホの地図アプリを確認する。
 しかし、場所の特定などは不可能だ。
 一体此処は、どこの海にある島なのだろう……。

「では会長。海沿いに隠れる場所はあるのか、島全体の施設や大きさも把握しないとですね」

「そうね。この腕時計も……壊すことができるのか、調べる必要もあるわ」
 
 冷静に計画を立てる生徒会の二人に、優笑は惚れ惚れしてしまう。
 優楽を守りたいのに、自分は怯えるばかりだった……と恥ずかしく思う。

「さすが会長です……私、本当に会長と出逢えて良かった……会長と生き残れるなら、なんでもします」

 ルルが絹枝に言う。

「ここの全員で生き延びましょう」

「は、はい……もちろんです……」

 五人で生き延びる話をしているのだが、ルルは絹枝の事ばかり考えているようだった。
 
「……みんな、どのくらいの武器が出せる……?」

 スズメがぽつりと呟いた。
 優笑の為に一人捕食したスズメは、レベル2になったのだ。

「……スズメさんが大丈夫でしたら、みんなの武器のレベルも確認しておきましょう。自分の身を守るために」

 五人で頷く。

「では私から……」

 絹枝が右手を握りながら力を込めると、血の長針が出現する。
 試しに地面の土に突き刺すと、グサリと刺さった。

「金属くらいの強度はやっぱりあるのね……」

「スズメちゃん、大丈夫?」

「うん……平気」

 顔色が悪いが、スズメ自身も自分の能力を見定めたかったのかもしれない。

「……あ……」

 無言で手のひらに力を込めると、スズメの手に長針よりも更に幅が広がった血のナイフが出現した。

「すごい、スズメちゃん」

「スズメさん、それは見せるだけでも牽制になるわ。これからきっと役に立つでしょう」

「はい……」

「じゃあ私も」「私も」「私もやってみます」

 優笑、優楽、ルルも手のひらに力を込める。
 三人共に血の長針が……と思ったが。

「あれ……どうして」

 優笑の手のひらには何も出現しない。
 まさか、そんな。

「どうして? あれ? どうやってやってる? 優楽」

「えぇ? なんか~こう~みんなの見たから同じようなの出てこい! ってイメージ」

「そうだよね……どうして?」

 自分だけ武器を作ることができない。
 不安で泣きそうになる優笑。

「優笑さん、大丈夫よ。まだ不安や混乱もある。こうしてみんないるのだから」

 女神のように微笑まれ、優笑も微笑む。
 今まで上級生との付き合いはなかったので、頼りがいを感じる。

「はい……練習しておきます」

「優笑ちゃんは私がいつも一緒だから大丈夫!」

「優楽……ありがとう」

 お昼も過ぎたが、無駄に林を彷徨きたくはない。
 わざわざ寮に戻る事はせずに、皆で夕方になるまで小屋で過ごした。

「そういえば会長、あの灰岡ショウもいましたね……」

「えぇ、私も見たわ。『孤高の陸上プリンス』ね」

「プリンス……」

 優笑もその名前は知っている。
 プリンスといっても、もちろん女性だ。
 陸上で華々しい活躍をしている長身で短髪、凛々しく気高い整った顔立ち。
 しかし人間嫌いでも有名で、いつも一人でファンも近寄らせない。

「彼女の運動神経は陸上だけじゃないわ。きっと単独行動をしていると思うけど、用心しましょう。もちろん真莉愛と蝶子のグループにもね」

「はい……!」

 薄暗くなってから五人は周囲を注意しながら、寮へ戻る。
 暗い林なんて不気味以外なにものでもないはずなのに、身を隠せる事が安心した。
 価値観が何もかも変わっていく――。