まさか天からの助け……?
 空ではなく土が盛り上がった小さな小さな山から扉が開き、生徒会長の絹枝が少し顔を出した。

「さぁ! 気付かれないうちに早く!」

「は、はい……!」
 
 驚きながらも周りに気付かれないように、スズメを支えながら小さな扉から入る。
 中は少しカビ臭い。
 半地下に作られた木でできた小屋にカモフラージュで土を盛り笹などの草を乗せたり生やしているようだった。
 見た目は土が盛り上がった小さな山にしか見えなかった。

 薄暗い小屋の中……一瞬、嫌な記憶が蘇りそうになる。
 ぐっと唇を噛んで『ストップ』と自分に言い聞かせ深呼吸した。

 此処は安全な場所だ。

 隙間から入る光だけが頼りだし三畳程度の広さしかないが、それでも最高にありがたい場所だ。
 土で汚れている《《い草の敷物》》にスズメを座らせた。

「大丈夫?」

 凛とした黒髪の似合う和風メガネ美人の絹枝が安心させるように優しく優笑の肩に手を置いた。

「生徒会長……ありがとうございます」

 優楽が泣きそうになりながら御礼を言う。
 優笑も御礼を言いながら、自分のバッグから取り出した水をスズメに渡した。

「会長……こんな人数ここに入れたら……」

 絹枝の他にもう一人、先客がいた。
 名前はわからないが、彼女も生徒会役員の一人のはずだ。
 確か会計係だったろうか。
 ツインテールで幼い印象だが三年生だろう。

「泣きながら助けを求めている人を見捨てるなんてできないわ……彼女はどうしたの?」

「……私を助けるために……あの……」

 ショックを受けている本人の前で『喰った』などと言えるわけもない。
 口ごもる優笑を見て、絹枝は察したらしい。

「お友達なのかしら?」

「いえ……初対面ですけど、襲われた私を助けてくれたんです」

 水を飲み下を向いていたスズメが、ゆっくりと顔をあげる。

「ん……はぁ……なんかニ対一で襲われてるのを見たら……助けなきゃって……思っちゃって……喰ったのは……ペナルティで何をされるかわからなくて……気付いたら……私」

 震えるスズメの手を、優楽が握った。

「優笑ちゃんを助けてくれて、ありがとう。私がもっと早く着いてたら……」

「油断した私が悪いの……本当に辛い経験をさせてしまってごめんなさい。でもありがとうございます。貴女は命の恩人です」

 優笑が土下座するように、頭を深く下げる。

「いいよ……勝手にした事だから……」

「「スズメちゃん……ありがとう」」

「ハモってるし……」

 二人で泣く双子を見て、スズメは困った顔をした。
 三人の邪気の無さを見て、見守っていた絹枝も安心したように頷く。

「貴女達そっくりね? 双子なの?」

「「はい」」

 またハモる優笑と優楽。

「そういえば美人双子が入学してきたって話題になっていたことがあったわね」

「「いえ、そんなそんな」」

 実際はそうだったが、慌ててハモリながら否定する二人。
 
「ふふ、素直できっと貴女達は信用できるわね」

「生徒会長……この小屋は一体?」

「私は早朝にもう寮を出たの。この小屋を発見した時は扉が開いていたのよ。とてもラッキーだった。そしたら同じ生徒会だった彼女、吉野琉月《よしの・るる》さんがさまよっているのを見つけたから声をかけたの」

 会計係は吉野琉月《よしの・るる》という名前のようだ。

「近くで真莉愛の声が聞こえた気がして、パニックになってしまったの。まさか会長に助けられるなんて私もとてもラッキーでした。本当に運命です。会長がどこに行くんだろうってずっと考えてたから……私と会長の運命ですよね」

「大袈裟よ、ルルさん」

 ルルが嬉しそうに微笑む。
 普段から絹枝を尊敬しているのだろう。
 スズメも落ち着き、五人は土で汚れる事も気にせずに円になって座った。

「こんな異常な事態に巻き込まれて……殺し合いなんて冗談じゃないわ」

「はい……私も、私もそう思います」

 優笑は心の底から同意した。
 優笑の手を握る優楽も頷く。

「この島から脱出できないか、助けを求められないか……色々とできる事があるはずよ」

「この五人で、ですよね」

「えぇ。この場で出逢えたラッキー五人で同盟を結びましょう。五人で行動すれば単独より圧倒的に有利よ」

「はい!」

 絶望しかなかった心に、少しだけ希望が見えた気がした。

「……スズメちゃんも入るでしょ?」

 ずっと無言のスズメ。

「私はもう汚れちゃったけど……」

「そんな! スズメちゃんは私を助けてくれたんだもの……」

「そうだよ、優笑ちゃんが死んじゃったら私も死ぬしかなかった。スズメちゃんは私達双子の命の恩人だよ! ありがとう!」

 人懐っこい優楽が、スズメに抱きつく。

「そうよ、先に襲ってきたのが向こうなら正当防衛よ。スズメさん」

「なかなかできることじゃない。勇敢だわ」

 生徒会の二人もスズメを慰めるようにかばった。
 
「……はい……」

 抱きつく優楽の背中をポンポンとしながら、スズメもやっと少しだけ微笑んだ。
 
 ◇◇◇

「ひゃっひゃっひゃ! 美味しいエサをGETだぜぇ~?」

「うぐ……」
 
 真莉愛と真莉愛の手下二人が、一人の女生徒を河原で追い詰めたようだった。
 三人は石を投げつけ、頭に当たった女生徒はそのまま倒れ込み更に真莉愛は腹を蹴り上げる。

「ぐぅ……!」

「ははは、じゃあーいっただきま~す」
 
「真莉愛さん……取り分は」
 
 手下の一人、早川奈央《はやかわ・なお》が不安そうに言う。

「あぁん? そんなん全部あたしの物になるに決まってんだろ」

「で、でも真莉愛さん……うちらもレベルアップしていった方がグループとして……強く」

 もう一人の手下の森下舞子《もりした・まいこ》も怯えながらも主張する。

「ふん! あたしと一緒にいることで、お前らは守られてるってわかんねーのか!?」

「わ、わかります!! すみません!!」
「すみません、わかります!!」

「獲物が欲しけりゃ奪ってみな!」

 頭から血を流しながらも必死で逃げようと、這いつくばる女生徒。
 その背中を押しつぶすように飛び乗ると、笑いながら首元に齧りついた。

「ぎゃはははは!! レベルアップだぜぇ~!!」

「うっ……」

 ぐしゅっと音がして、奈央と舞子が目を背ける。
 恐る恐る、真莉愛を見ればもう女生徒・野澤純子は灰になっていた。
 
 【生存者:27名 
  死亡者合計:4名
  本日の死亡者・2名:菊池友江・野澤純子
  通信係抜擢:1名
  レベル上昇者:相賀鈴愛レベル2 鬼頭真莉愛レベル3】