「いやあぁあああ!」
悲鳴をあげた優笑は動けない。
眼の前には姉と呼ばれた女生徒の、振り上げた長針が見える。
あれに刺されれば無事ではすまない。
ぐっと目をつぶる。
1日目、まだ1時間も経っていないのにもう死ぬことになるなんて!!
ごめんね優楽……!
心の中で妹の名を叫ぶ。
しかし次に響いたのは、優笑のものではない悲鳴。
「ぎゃっ!?」
「お姉ちゃん! 誰!?」
「えっ……?」
姉の顔に石がぶつけられたようだ。
その直後にすごいスピードで走ってきた女生徒が、姉に体当りした。
「うぉおおおおおおお!!」
「お姉ちゃん!!」
見たことのない新たな女生徒!
ボブカットの少女は、倒れた姉の首に自分の右手で握りしめた長針を思い切り突き刺す。
「ぎゃあああっ!!」
「お姉ちゃあああんっ!」
血が吹き出たと同時に、馬乗りになったボブカットの少女が首筋に噛みついた。
噛みつかれた姉はガクガクと震えながら白目を剥き……灰になって消える……。
制服だけがそこに残された。
一瞬だった……。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
ボブカットの少女の息が乱れる。
「お、ねぇ……ちゃん……」
放心して、ぺたりと座り込む妹。
「はぁっ……はぁ……っ……あなた……大丈夫?」
真っ青な顔をしたボブカットの少女が、優笑に聞く。
凄惨な場面を見て凍りついていた優笑はハッとする。
この少女は自分を助けてくれたのだ。
「わ、私は大丈夫っ……あなたこそ……」
「うっ……うぇえええっ、ぐっ……おぇえええっ……」
少女に駆け寄ると、少女はウッとえずいて胃液を吐き始めた。
無理もない。人を食べたのだ。
優笑もおかしくなりそうだ、と思った。
「ごめんなさい、私のために……大丈夫? 大丈夫?」
泣きそうになりながら、少女の背中をさする。
「優笑ちゃん~!?」
少し遠くで声がした。
走ってくるのは優楽だ。
それを見て、へたり込んでいた妹は立ち上がる。
「……絶対にあんた達……殺してやる……!」
恨みの憎しみの瞳に睨まれ、て優笑はゾッとした。
また闘いが始まるのかと緊張したが、多勢に無勢だと思ったのか彼女はフラフラしながらも足早に去っていく。
少し先に斜面があるのか、すぐに姿は隠れて見えなくなった。
「優笑ちゃん! 大丈夫!?」
「しー! 私は大丈夫……この人が助けてくれたの」
「ほんとに? よかった……でも……」
「う……うう……おえぇええ……」
優笑を守るために、人を殺したボブカットの少女は震えてまた吐いていた。
「……どこか隠れないと……」
「うん……隠れ場所を探そう」
最悪な事に、どこか遠くで真莉愛の笑い声が聞こえた気がする。
林の中で狩りでもやっている気分なのだろうか。
「お願い、立って……」
二人で少女を両脇から支えるようにして、ゆっくりと歩き出す。
「私は天乃優笑、こっちは妹の優楽。助かりました……貴女、お名前は……?」
「……相賀鈴愛……」
「スズメさん……」
ボブカットの少女はスズメと名乗った。
どうして助けてくれたのか、わからないがスズメは命の恩人だ。
絶対に守ってあげなければ……。
「でも……どうしよう……どこへ行こう……」
スズメを支えながら、ウロウロしていても殺意ある者に見つかれば危険すぎる。
林の中は倒木や蔦が絡まり、本当に歩きにくく隠れ場所が少ない事を優笑は知った。
なんとか笹のような密集して生える草が生い茂る場所まで来たが……途方に暮れた時だった。
「……貴女達……怪我をしたの……?」
「え……」
どこからか小さな声が聞こえてきた。
「助けを求めているの……? 殺意はないのかしら……?」
「な、ないです。この子が具合が悪くて……休ませたいんです」
天からの声……?
女神様の声……?
そう思った時に、不意に少し盛り上がった土と笹の中から扉が開いた。
「……こっちよ……! ……入って!」
生徒会長の絹枝だった。
【生存者:28名 合計死亡者:3名(本日死亡者・菊池友江) 通信係:1名 相賀鈴愛レベル2 鬼頭真莉愛レベル2】