皆が夕飯を食べ終えたが、ゲームマスターはまだモニターの画面にいる。
見る度に不快な姿だ、と誰もが思う。
『ごちそ~~さまでしたぁ~~~・はぁい・それでは地図の端末の使い方はわかるかの確認をしますねぇ・大事な吸血鬼が遭難されては困りますからね~此処は小さい島ですが林なんかもありますからね~~~』
スマホ型の端末に入っている地図のアプリは、普段使っている地図アプリと同じものに見えた。
スマホの形をしているが、当然地図アプリしか使えない。
腕時計はGPSと脈を測っているという。
生死の確認のためであり、盗聴などはしないという。
『我々は殺し合いのなかで・貴女達にさらなる高みを目指してほしいのですよ~~誰かと協力したり作戦練ったり大歓迎!! でも最後は一人になるまで殺し合うことを忘れないでくださいね・きゅふふ』
ペラペラと喋るゲームマスターの声を、皆が静まり返って聞いている。
「もちろん・海にはサメがいて……監視船もいるから・我々のいる研究所には吸血鬼を灰に替えちゃう拳銃をいっぱい持った兵士がいるよ~下手に乗り込んできたら~ズドン! あの子みたいにね……』
あの研究所のホールで殺された子のことだ。
脱出……という最後の望みを打ち切るような言葉。
すすり泣きも聞こえてきた。
優笑も泳いで逃げられるのでは……とは考えてはみたが、無理なのか……。
『それではこの島の施設を紹介するよ~~!! まずは此の寮! の東側にある図書館~児童文学に恋愛小説、ホラーやミステリーなんかもある……でもね此処には! 此の島のことが書かれてる資料や・なんと吸血鬼に関する資料もあるんだよね。君たちも知りたいでしょ? 勝手に人間じゃない吸血鬼にされちゃって……吸血鬼ってなに!? ふざけないで!! って思うよねぇ~それでこの資料を探して読める人は読んでみてほしいんだ……自分のなかで新発見した子は・研究員として優遇しちゃうかもよ☆』
ゲームマスターが消えて、図書館の外観が映った。
馬鹿にしている話のなかにも、重要なことがあるはずだ。
優笑は目を瞑って、いらだちを抑えるように……言葉を聞く。
『図書館の近くには灯台もあるんだけど、もう老朽化してて危ないから近づかないでよね~』
灯台……船が運行しているのだろうか。
『この寮より北に行くと面白いところがいっぱい! まずは東側には遊園地! 小さな観覧車とか回転木馬~グルグル回るブランコと~場内を一周するジェットコースター、コーヒーカップなんかがあるよ。ボロボロだけど一応メンテナンスはしたんだよ~動かしてみてねぇ~回転木馬で殺し合おう! 小規模でボロボロになってて壊れてるのもあるけどさぁ、幼虫姫達のために復旧もしてるから是非遊びながら殺し合いしてほしいなぁ』
そんな場所に誰が行くのだろう。
『遊園地よりもっと西に行くと・イングリッシュガーデンがあってそこに樹木で作った巨大迷路がありますよ~楽しいから行ってほしい……けど・樹木が育って迷路もどうなっているかな。追いかけっこで引っかからないように気をつけて~引っかかったらバグっとご臨終!』
次に、お城にあるような樹木の迷路が映った公園の写真。
不愉快さで目眩がした優笑の手をテーブルの下で優楽が握ってくれた。
二人で目を合わせて握り合う。
今は少しでも情報収集だ。
『そこから更に西に行くと、海岸沿いに礼拝堂があります……美しかった……礼拝堂……ボロボロ……天井がもう落ちてしまってるけどぉ此処で祈れば、カミサマーが助けてくれるかも? アハハ失礼失礼』
礼拝堂という言葉にシスター聖奈が反応した。
『その上の海岸は……海水浴場だったんですがね……泳ぐとサメであぼーんです……というわけで重要な施設説明はこれで終わりでぇす・でも至る所にベンチとか~休憩所になる小屋とか色々あるので見つけてください・落ちてるものはなんでも使っていいですよ~刃物でもあればラッキー☆!!』
つまらなさそうに真莉愛が耳をかいている。
蝶子は爪の甘皮をいじっているようだ。
『ゴキゲンヨウ・吸血鬼ノ姫ニナル幼虫達ヨ……おやすみなさい~~~よい悪夢ヲ』
画面がブチン! と消えて、少女達は緊張から解かれたようにホッとした。
何も変わらない状況だが、ゲームマスターがいないだけでホッとした。
そして女研究員が話し出す。
「では私から補足します。寮を出る時間はそれぞれ自由ですが、鉢合わせしないようにこちらからもサポートします。サポートが必要な方は寮から出る時間をこちらのタブレットに記入して申告してください。現在の方針としては寮から200メートル以内での待ち伏せ行為による戦闘は禁止です」
真莉愛がケッと睨んだが、真莉愛が寮の前で待ち伏せすれば全員喰われて終わりになってしまう。
……それはゲームマスターの望みではないのだ。
「今日は皆さん疲れたでしょう。明日からの殺し合いのために、今日だけゆっくり眠りたい人には睡眠薬が支給されますよ。猫ちゃんから受け取って部屋に戻ってください」
テーブルの周りを配膳猫ロボットがウロウロと回る。
全員が受け取り、そして部屋に戻った……。
何もかもが信じられない。
明日から殺し合い……?
優笑はゴクリと睡眠薬を喉に流し込んだ。