「ここは……?」
ズキリと痛む頭を押さえて、少女はベッドで目を覚ます。
何が起きたのか状況がわからない。
薄暗い室内……。
自分の腕に刺さった点滴のチューブが見えた。
白い天井。
そしてベッドを囲むカーテンから、病院……? と少女は思う。
ボブカットの髪が汗でべったりと頬に張り付いていた。
何もわからない、ただ不快感が心を支配している。
「優笑ちゃん……!?」
隣のカーテンから聞こえてきた声は、双子の妹の優楽のものだと、すぐに気付く。
「優楽? 優楽なの?」
「優笑ちゃん! 起きたの!?」
カーテンを払い除けるかのように中に入ってきたのは、やはり優楽。
優笑と呼ばれた少女と同じ顔だが、髪はロングヘアだ。
「優笑ちゃぁん……」
優楽は優笑にすがりつき、涙を流して頬を撫でた。
優笑と優楽は、十七歳の双子の姉妹。
生まれた時から優楽は、優笑が大好きな重度のシスコンだ。
幼い頃に、優笑がある事件に巻き込まれた一件から、更にベッタリで今に至る。
「優笑ちゃん、良かった……よかったぁあ」
「優楽も大丈夫?」
起き上がろうとするが、クラリと目眩がして頭が痛む。
混乱する頭が少しずつだが……動き出してくる。
「目眩はするけど、とりあえず大丈夫みたい」
「うん、よかった……」
涙を流しながら、優楽は微笑む。
状況は全くわからないが、優楽が自分を心配していたという事は痛いほどわかった。
「目が覚めたから、看護師さん呼ぼう」
優楽に言われてナースコールを押すと、看護師に今行くと言われた。
「優楽……何が起きたの? 私達、学校にいたよね?」
「……そうだよ……学校にいた……」
優笑は途切れる前の記憶。
爽やかな初夏の風が気持ち良い――昼休みを思い出す。
二人が通うのは『セレンナ聖女学院』
世界三大宗教から派生した宗教を経て、更に此の国で進化した宗教を規律としている。
優笑と優楽は無宗教の一般家庭だが、お嬢様が通う学院のセキュリティを求めて入学した。
幼い頃の事件や優笑と優楽が街で評判になるほどの美人に成長したので、心配した父親が高校から試験入学させたのだった。
優笑が覚えているのは花聖水の行事ごと。
月に一度、朝礼と甘い花聖水というお茶を飲むのだ。
晴れの校庭で配られた、小さなグラスに注がれたお茶。
薔薇の香りのするお茶は、ほんの一杯だけだったが女生徒達は皆嬉しそうにそれを飲み干した……。
隣のクラスの優楽も、優笑を見て微笑みお茶を飲んでいた。
その記憶を最後に……優笑は意識がなくなったのだ。
「あの朝礼で……何があったの……?」
「……みんな死んじゃったんだよ……」
「え……? みんな死んじゃった……?」
優楽の言葉が、脳内で処理できなかった。
優笑の疑問の声をかき消すように、医者と看護師が部屋に入ってきた。
これが地獄の始まりなどと、思いもしなかった――。