――あれ、なんだか暖かい。物置小屋じゃないみたい。

ひな乃が目を開けると、目の前には見知らぬ天井があった。
ゆっくりと起き上がってみるが、身体は軽く、毒を飲んだとは思えない程だった。

そうだ、私は猛毒を飲んで……。

「ここは……極楽?」
「ここは俺の家だ」

横から声がして、ひな乃は飛び上がるほど驚いた。

「だっ誰、ですか? 私はどうしてここに? ここは何処ですか? 私は八久雲の屋敷にいたはずでは? っ……ゴホッ」

驚きのままに疑問を口にすると、乾燥していた喉が張り付いてむせ返ってしまう。
男はひな乃に水を差し出して「飲め」と促した。

「少しは落ち着け」
「あ、ありがとうございます」

水を飲んで一息つくと、男が少し微笑んだように見えた。

男は艶やかな長い銀髪を一つに束ねており、黄金の瞳を持っている。
まるで異国の人のような風貌だ。

「俺は柊(ひいらぎ)。ここは俺の家。下の階で甘味処を営んでいる。……八久雲からお前を引き取った」

柊と名乗る男は、ひな乃の疑問に一つずつ答えてくれた。
それでも状況は全く飲み込めない。

「か、甘味処? えっと、私を引っ取ったのですか? 八久雲家から? でも、だって私は……死んだはずじゃっ!」

猛毒を飲んで、確かに死んだはず。
ひな乃はその時を思い出して身を震わせた。

銀色の液体を飲み干した時の喉が冷たくなっていく感覚。
身体がじわじわと冷たくなっていく感覚。
思考がだんだんと落ちていく感覚。

一度味わったら二度と味わいたくない、死の経験だった。

柊と名乗った男はひな乃の言葉に驚きもせず、当然のように頷いた。

「そうだな。お前は確かに一度死んだ。俺と会った時には心臓が止まっていた」

さらりと返され、ひな乃は息を呑む。

「じゃ、じゃあ、今の私は何なのですか? ゆ、幽霊なのですか?」

死ぬ間際に、未練などなかったはず。
それなのに、まさか化けて出てしまうなんて……。

恐る恐る尋ねると、柊は首を横に振った。