朝日が昇る――。

月守ひな乃は庭掃除をしながら明るくなっていく空を眺めた。

ふぅっと吐いた息が白くなって消えていく。

――いけない。ぼんやりしていたら終わらないわ。

ひな乃はかじかむ手で箒を握り直した。



ひな乃の一日は、夜明け前の庭掃除から始まる。
広い屋敷の庭を一人で掃除するのは重労働だが、日が昇る前に終わらせなければならない。

『いいか、絶対に外の人に姿を見られるんじゃないぞ』

屋敷の主である八久雲(やくも)家当主にきつく言われたのを思い出す。
ひな乃はいそいそと掃除道具を持って、物置小屋へと向かった。




この国では古来よりあやかしと人が共存している。
人ならざるもの達の力は人々に大小の影響を与えており、人々はそれを利用して生きていた。

しかし人にとって良いあやかしもいれば、悪いあやかしもいる。
人々を呪ったり、この世から隠したり、心を乗っ取って悪さをしたり――。

人々は悪意あるあやかしから身を守るために、『神格』と呼ばれるあやかしを信仰していた。

神格は強い力を持つが、滅多に人前に姿を現さない。
そのため神格と会話が出来る能力者たちが神官となり、人々と神格を繋げてきたのだ。

悪しきあやかしが増えている近年、能力者の家系は世の中への影響力を強めていた。



ひな乃の仕える八久雲家もその一つ。
八久雲家は、財運の神格に仕える由緒正しき家系だ。

ヤツガミ様と呼ばれる神格の加護により、莫大な富を築いたとされている。

ひな乃にも八久雲の血が流れていたが、彼女の立場は「使用人以下」だった。



掃除を終えたひな乃は、昨日の残り物のかけらを食べる。
そしてすぐに屋敷内の掃除へと向かうのだった。