ここまで読んでくれて、ありがとうございます。
 別に私は心理学の専門家ではありませんし、あなたに心理学のことを知ってほしかったわけではないのですが、どのエピソードもかなり興味深かったと思います。

 どれも不可解で、もっというと不気味で、だけど咄嗟に作った嘘にしてはシチュエーションが具体的で、聞いているこちらも本人でさえも、存在した出来事なのか否か判断できない。

 三人に共通することとしては、私に話すうちに少しずつ記憶が鮮明になっていくような雰囲気がありました。
 振り返り、思い出し、声に出すことで、記憶はより確かなものになるのだと思います。
 細々した部分までリアルですし、私としては実はどれも実在した出来事なのではないかと思ったりするのですが……。

 ここまで「偽りの記憶」という正式な言葉で通してきましたが、本当は、あまり「偽り」という言葉を使いたくないんです。

 二本柳も、鈴木さんも、大島さんも、けして嘘をついていたわけではないと思うからです。
 もし、三つのエピソードが作り話だとしたら、これほど心配している私に対して、「実は冗談だったんだ」とネタバラシくらいしに来てくれるはずだからです。

 心理学用語としての、「偽りの記憶」という言葉の「偽り」の部分に、「嘘つき」とか「作り話」という意味は無いとわかっています。
 それでも、私は別の言葉を使いたいと思います。
 いろいろと考えたのですが、ここからは「実在しない事象や経験がないはずの出来事に関する記憶」という意味で、「実在しない記憶」と呼ばせてください。

 あなたにも、「今思えば変だな」とか、「つじつまが合わないな」とか、「現実にしては不可解だな」という出来事はありませんか。

 生まれてから今日この瞬間までの間に一度もそういう記憶がない人はいませんので、ぜひ思い出してみてください。

 大学時代の面白いレポートを読んでほしくて「ノベマ!」に来たというのは、半分本当で半分嘘です。

 私はあなたに、三人のことを知って、一緒に「実在しない記憶」について考えてもらいたくて、キーワード設定に今波が来ている「モキュメンタリ―」という言葉を入れて、この文章を投稿しています。
 
 私も、パソコンの中にあのレポートを見つけた日から、三人の記憶について毎日考えています。
 二本柳も、鈴木さんも、大島さんも、あのレポートの聞き取り調査を終えた直後からずっと、どこにいるのかわかりません。
 だから私が、あなたが、ちゃんと考えなきゃいけないんです。