アーシャは頷くと、今度は自身のそばに置いてある籠を指す。

「とりあえず、集めた分を籠に入れろ」

 指示に従い、僕は手の中にある冷たいAsh(アッシュ)を、自身の吐息で飛ばしてしまわないよう慎重に運び、掬うように合わせていた両手を、籠の中でそっと離した。Ashは、とても小さな音を、さらさらキラキラと奏でながら、籠の底へと落ちていった。籠に入れたAshが少なかったからか、降り積るどころか、それは籠の底で散り散りに舞い、見えなくなった。

 それでも、僕がAshを籠に収めたのを確認すると、アーシャは、再び顎をしゃくる。

「まずは、Ashを削って、籠に収める作業の繰り返しだ」
「うん」

 僕は指示されるまま、熊手のある場所まで戻ると、Ashを削り出す作業を再開した。その様子をしばらく無言で観察していたアーシャは、僕の作業に問題がないことを確認すると、再び口を開いた。

「どうして、さらさらのAshが使えないのか、なんだが……」
「うん」

 作業の手は止めずに、僕は、相槌だけで聞いている反応を示す。

「降り積ったばかりのAshには、記憶の残滓がまだ含まれている。だから、温かい」
「記憶の残滓?」

 僕は、アーシャの言葉が気になり、顔を上げた。アーシャは、僕の視線を受け止めると、1つ頷く。

「まぁ、いわゆる不純物だ。その不純物を含んだ状態でAsh clock(アッシュ・クロック)を作ってしまうと、残滓までも時計の中に閉じ込めてしまうことになる。だけど、長く堆積したAsh(アッシュ)には、残滓は含まれていない。長い時間をかけて、浄化されるからだ。だから、冷えて固まったAshを使うと、良い時計が作れる。分かったか?」

 アーシャの言葉に、僕は曖昧に頷く。

「う、うん。Ash clockを作るためには、どうして、硬いAshを使わないといけないかは分かったけど……」
「けど?」

 僕のはっきりとしない態度に、アーシャは眉根を寄せた。

「さっき、記憶の残滓って言っていたけど、それってどういうこと?……この世界は何なの? Ashは、……Ash clockは、一体何なの?」

 僕は声を震わせる。小さな疑問は、口に出した途端、得体の知れない大きな恐怖に変わった。僕の言葉の意味を理解したアーシャは、立ちあがると僕の前へとやってきて、大きな体を小さく丸めた。

「お前の気持ち、なんとなく分かるぞ。たぶん、ずっと昔に、俺も同じようなことを思ったからな。でもこの世界は、お前が思う程、怖い場所でも、変な世界でもない」