※録音機が起動する音。
「一八六七年、私は生まれた。
一八七三年、父が“例の絵”を買った。
私の魂は絵の中に吸い込まれ、クトゥルフと大いなる種族との戦いに巻き込まれ……
混戦の中で私とアトラは肉体と魂が入れ替わってしまったの。
つまりね、パトリシアあるいはルイーザと名乗り、サン・ジェルマンに恋い焦がれてアトラに嫉妬するあまりニャルラトホテプの力に手を出し、最期はサン・ジェルマンの遺体と分離できないほどに一つになってロンドン郊外の墓地に眠る存在は、私じゃなくてアトラだったのよ。
私はヘンリーを養子にしていないし、キャロラインなんて孫もいない。
ねえ記者さん、どうして私の居場所がわかったの?
こんな異国で人目を避けて、息を潜めて暮らしてきたのに。
いいわ。こうして人と話すのも久しぶりだし、あなたの訊きたいこと、何でも話してあげる。
一八七三年、クトゥルフは例の絵のせいで一時的に目覚めただけだったから、私のママが何も知らずに例の絵を処分しちゃったことであっさり引っ込んでくれたんだけど……
絵がなくなったせいで私の魂はもとの世界へ帰れなくなった。
最初はとても恐ろしかったわ。
見知らぬ世界に一人きりで放り込まれて、周りは全員バケモノで、私自身もバケモノにされて。
でもバケモノたちは私をお姫様のように扱ってくれた。
だから決めたの。
姫を超えて女王になる。
この世界を私が守るんだ、ってね」
※パトリシア、不気味な高笑いを上げる。
「私の肉体を使ってアトラがしてたこと、全部見えてたの!
うらやましかったわ。
旅をしたり恋をしたり、本当は私がするはずだったのに……っ!
時が流れてクトゥルフが本格的に目覚める時期がきて、私はキャロラインを利用しようと考えた。
キャロラインの肉体を犠牲に、私の魂でクトゥルフの肉体を乗っ取って火口に飛び込んで。
でもね、私、世界を守るって言っても、世界のために死ぬ気なんてなかったの。
クトゥルフの肉体が溶岩に接する直前に、もう一度キャロラインと魂を入れ替えたのよ」
※パトリシア、くくくっと笑う。
「誰か適当な人間を身代わりにして自分は生き延びようってのは最初から計画に入れてたわ。
だってまさかクトゥルフを殺せないなんて思ってなかったから。
だからクトゥルフが火口から這い出すのを見て、私、怖くなって逃げちゃったの」
※パトリシア、恥ずかしげに円錐形の胴体をよじり、頭部の触手をモゾモゾさせる。
「ねえ記者さん、この姿を見ても驚かないなんて、私のほうが驚きだわ。
表通りを歩けるのなんてハロウィンの渋谷ぐらいなのに。
ああ、でも、不便だからって人間に乗り移るつもりはないわ。
こっちの体のほうが寿命が長いから。
この世界には見たいものがまだまだあるのよ。
深夜の路地裏や下水道を散歩してるだけでも楽しいわ。
大いなる種族の町じゃないってだけで、どこへ行っても楽しいの。
運が悪いと人間に見つかってスマホを向けられることもあるわ。
これとかね。
写真を撮られちゃったんで取り上げたの。
昔はケータイを奪うだけで良かったんだけど、今はクラウドに上げられちゃうからしっかり隠蔽しないとね。
記者さん、あなたまさか、自分は隠蔽されないとでも思っているの?」
ああ、きみ。この録音はここまでだ。
いや何、ちょっと彼女にお仕置きした際の音声が入ってしまったものでね。
きみには聞かせづらいかな。
「一八六七年、私は生まれた。
一八七三年、父が“例の絵”を買った。
私の魂は絵の中に吸い込まれ、クトゥルフと大いなる種族との戦いに巻き込まれ……
混戦の中で私とアトラは肉体と魂が入れ替わってしまったの。
つまりね、パトリシアあるいはルイーザと名乗り、サン・ジェルマンに恋い焦がれてアトラに嫉妬するあまりニャルラトホテプの力に手を出し、最期はサン・ジェルマンの遺体と分離できないほどに一つになってロンドン郊外の墓地に眠る存在は、私じゃなくてアトラだったのよ。
私はヘンリーを養子にしていないし、キャロラインなんて孫もいない。
ねえ記者さん、どうして私の居場所がわかったの?
こんな異国で人目を避けて、息を潜めて暮らしてきたのに。
いいわ。こうして人と話すのも久しぶりだし、あなたの訊きたいこと、何でも話してあげる。
一八七三年、クトゥルフは例の絵のせいで一時的に目覚めただけだったから、私のママが何も知らずに例の絵を処分しちゃったことであっさり引っ込んでくれたんだけど……
絵がなくなったせいで私の魂はもとの世界へ帰れなくなった。
最初はとても恐ろしかったわ。
見知らぬ世界に一人きりで放り込まれて、周りは全員バケモノで、私自身もバケモノにされて。
でもバケモノたちは私をお姫様のように扱ってくれた。
だから決めたの。
姫を超えて女王になる。
この世界を私が守るんだ、ってね」
※パトリシア、不気味な高笑いを上げる。
「私の肉体を使ってアトラがしてたこと、全部見えてたの!
うらやましかったわ。
旅をしたり恋をしたり、本当は私がするはずだったのに……っ!
時が流れてクトゥルフが本格的に目覚める時期がきて、私はキャロラインを利用しようと考えた。
キャロラインの肉体を犠牲に、私の魂でクトゥルフの肉体を乗っ取って火口に飛び込んで。
でもね、私、世界を守るって言っても、世界のために死ぬ気なんてなかったの。
クトゥルフの肉体が溶岩に接する直前に、もう一度キャロラインと魂を入れ替えたのよ」
※パトリシア、くくくっと笑う。
「誰か適当な人間を身代わりにして自分は生き延びようってのは最初から計画に入れてたわ。
だってまさかクトゥルフを殺せないなんて思ってなかったから。
だからクトゥルフが火口から這い出すのを見て、私、怖くなって逃げちゃったの」
※パトリシア、恥ずかしげに円錐形の胴体をよじり、頭部の触手をモゾモゾさせる。
「ねえ記者さん、この姿を見ても驚かないなんて、私のほうが驚きだわ。
表通りを歩けるのなんてハロウィンの渋谷ぐらいなのに。
ああ、でも、不便だからって人間に乗り移るつもりはないわ。
こっちの体のほうが寿命が長いから。
この世界には見たいものがまだまだあるのよ。
深夜の路地裏や下水道を散歩してるだけでも楽しいわ。
大いなる種族の町じゃないってだけで、どこへ行っても楽しいの。
運が悪いと人間に見つかってスマホを向けられることもあるわ。
これとかね。
写真を撮られちゃったんで取り上げたの。
昔はケータイを奪うだけで良かったんだけど、今はクラウドに上げられちゃうからしっかり隠蔽しないとね。
記者さん、あなたまさか、自分は隠蔽されないとでも思っているの?」
ああ、きみ。この録音はここまでだ。
いや何、ちょっと彼女にお仕置きした際の音声が入ってしまったものでね。
きみには聞かせづらいかな。
