親愛なるオリヴィアへ

 この町、ヘンだわ。
 別にインスマウスみたいにハッキリとした危険があったってわけじゃないけど、何ていうか違和感があるのよ。

 まず町並み。
 ホテルもそうだし民家とかお店とか駅舎もそう。
 何もかもが古めかしいんだけど古びてはいないの。
 まるで映画のセットみたい。
 今の時代に古いデザインの建物をわざわざ建てたって感じなの。

 ちゃんと生活してる人がいるからセットではないんだけど、その人たちも何か不自然なの。
 これも別に挙動不審とかじゃないんだけど何かが足りないような――
 インスマウスの人たちみたいに特徴的な顔をしているわけでもないし――

 今日の様子を一から書くわね。
 書いてるうちに何か気づくかもしれないわ。

 わたし、ずっとルイーザにお供していたのよ。
 子供だけでどこかへ行かせるわけにはいかないから。
 そうしたら朝一番でショッピング。

 ここもまたアンティークショップと言うか、タイムスリップしてきた昔の普通の雑貨屋と言うか、そんな感じのお店でね。
 ルイーザはじっくり選んで大きなバスケットを買って、駆け足でホテルに戻ってサイズがぴったりだって大喜び。
 赤ずきんちゃんが持ってるような可愛らしいバスケットにサン・ジェルマンおじいちゃまの頭蓋骨を収めて、午後からもまたお出かけしたの。

 ルイーザは風の吹くままふらふらと歩き回って、足を止めては景色を観たり、足を止めてはバスケットをなでたり。
 それでフッとわたしのほうを見て、気まずそうにするの。
 まるでわたし、妹の初デートに着いてきちゃったおせっかいなお姉ちゃんみたい。
 血の繋がりがあってもなくてもルイーザとおじいちゃまは孫と祖父よ!


 夕方になって何事もなくホテルに戻って、夕食の前にこの手紙を書いているの。
 一日かけて手がかりゼロなのに、ルイーザはいつになく余裕だったわ。
 それどころか何だか浮かれてもいるみたいで。
「時間は気にしなくていい。この町では時間は無限にある」ですって。

 無限とかそういう言葉を使いたい年ごろなのかしら?
 宿代は有限よ。
 なんとこのキギータウンには銀行がないの!
 ああ、これもこの町の違和感の一つね。
 でもまだ何かあるはずだわ。

 そろそろアデリン叔母さまも帰ってくるころだから、先にこの手紙を投函しておくわね。
 じゃ、またね。

 キャロラインより。