さてきみ、ここでこの写真を見てくれ。
　サン・ジェルマン・ルルイエとパトリシア・ルルイエが新婚旅行で訪れた教会の壁に残されていた落書きだ。
　ああ、首なし騎士の首が保管されていたのとは別の場所だよ。


『神様、わたくしはもう駄目かもしれません。
　幼いころ、初めてサン・ジェルマンに出逢ったときからずっと、わたくしはサン・ジェルマンに恋い焦がれてきました。
　その恋心を支えにして闇からの声にあらがってきました。

　ですがこれは片思いなのです。
　結婚までしたのに片思いなのです。

　サン・ジェルマンはわたくしを守ってくれています。
　けれどそれだけです。
　結婚式以来、キスすらしてくれないのです。

　哀れな小娘を見殺しにできないという優しさ、同情心からわたくしに闇を封じるお守りを与えたというだけで、ブルーダイヤは婚約指輪ではなかったのです。
　わたくしと結婚をしたのは闇が膨らみすぎてブルーダイヤだけでは抑えきれなくなって、サン・ジェルマン自身がそばに居なければならなくなったから。

　サン・ジェルマンは正義をなしているのです。
　サン・ジェルマンはわたくしの中に巣食う緑色のバケモノから世界を守っているのです。
　サン・ジェルマンが愛する人は他に居るのです。

　闇からの呼び声がどんどん大きくなってくる。
　サン・ジェルマンは、大丈夫だと言って、魔除けの呪文を唱えてくれます。
　わたくしが聞きたいのは呪文ではなく愛の言葉なのにです。』


　この教会はキャロラインが通ったルートと外れているから、彼女はこれを見ていないはずだ。
　もし見ていれば彼女ももう少し用心深くなれただろうに。



　ところできみ、夜ごとに夢で見るソレが、少しずつ近づいてきているって気づいているよね？

　少しずつ。

　確実に。

　じわじわと。

　きみのそばに。