このメモはキャロライン・ルルイエのクラスメイトだったオリヴィア・ジョーンズの遺品の中から発見された。
 オリヴィアは好奇心が強く、オカルト的なものを好む傾向があるため一部の生徒からは敬遠されていたが、明るく活発で会話好きな少女でね。
 当時の友人たちの証言によれば普段からキャロラインを相手に記者の真似事をして遊んでいたそうだよ。
 オリヴィアが書いた文字は丸みがあって、こんな内容にも関わらず可愛らしい印象になるね。
 さあきみ、読んでみてくれたまえ。
 キャロラインの声をイメージしながらね。



 ――表向きはわたしのママは妹を産んだ際に出血が止まらなくなってそのまま死んじゃったってことになってるけどさ、妹のルイーザがママの子供なわけがないのよ。
 だって九年前よ? そのころわたしは九歳なのよ?
 うん。わたしが十八だからちょうど人生の半分ね。
 でもって妹は今、九歳。
 ちょっとそろいすぎてる気もするけど、まあ、一生に一度くらいはこういう年もあるわよ。
 とにかくね、母親が臨月なのが理解できないような年齢じゃあないし、一緒に暮らしてて知らされてないとかありえないでしょ。



 ――ルイーザは、パパの子ではあるのよ。パパとはあんまり似てないけどね。
 おばあちゃまにそっくりなのよ。父方の。若い頃の肖像画と瓜二つ。
 きれいな栗毛よ。
 目の色だけ違うの。
 おばあちゃまの目は茶色で、ルイーザはブルー。

 そのブルーがね、おじいちゃまにそっくりらしいのよ。
 おじいちゃまはパパが生まれてすぐに行方不明になったらしいわ。外国でね。
 写真一枚残ってないから、わたしがおじいちゃまの姿を知ろうとしたら、妹の目を見る以外にないわけ。

 目の色以外はわからない。
 まあ、ハンサムだったらしいわよ。
 おじいちゃまの写真も肖像画もパパが若い頃に処分しちゃったの。
 パパは自分とおばあちゃまが、おじいちゃまに捨てられたって考えてるの。
 でもおばあちゃまはおじいちゃまを信じてて、再婚の話があってもずっと断り続けてきたのよ。

 だからこそ、ね。
 おじいちゃまを長々と恨み続けてるような人のくせに、ママを裏切ってたなんて、ね。



 ――だって他に考えられないじゃない?
 別にママが死んだからってこれ幸いと愛人と再婚したりはしてないけどさ。

 たぶんだけど、愛人のほうがママより先に死んだのよ。
 それで愛人との間の娘を引き取ろうとして、不倫してたのをママに打ち明けて争いになって……



 ――ええ、そうよ。何の証拠もないわ。
 医者を買収したのよ。きっとそうに決まってる。
 わたし、金持ちの娘になんか生まれるんじゃなかったわ。

『ママはルイーザを産んだせいで死んだ』
 書類上はそう。
 これに異を唱えたせいで、わたしは実家から追放されたの。


※おそらくここで質問者であるオリヴィアが、彼女らが全寮制の学校に通っている点について触れたと思われる。


 ――それだけじゃないのよ! 夏休みもクリスマス休暇も! ママのほうのおばあさまの家に預けられるの!

 ……別に嫌いじゃないわよ。ちょっと堅苦しいけど。
 アデリン叔母さまは面白い人だし。
 うん。おばあさまに厳しく育てられた反動だって本人は言ってたわ。

 そうじゃなくて、やっぱり自分の家に帰りたいのよ。
 わたしだってパパのことは大嫌いよ?
 でもね、おばあさまの家で一日中パパの悪口ばっかり聞かされているとね、パパは本当はいい人なんじゃないかみたいに思えてくるのよ。
 わたしっておかしいのかしら?



 ――パパがルイーザと二人っきりで……もちろん使用人は居るけど……どんな暮らしをしてたかなんてわたしには想像もつかないわ。
 普通の親子の暮らしでさえ、わたしには想像できないのに――