親愛なるオリヴィアへ

 ごめんなさい。当分は寮に戻れそうにないわ。
 ルイーザがね、おじいちゃまを捜しに行くって言い出したのよ。
 サン・ジェルマン・ルルイエ伯爵を。
 おばあちゃまとの新婚旅行のさなかに行方不明になった人を。

 九歳の子供がよ?
 パパは止めないつもり。
 旅費も出すって。
 九歳の子供なのに。

 パパはブルーダイヤが自分のそばから離れるのが嬉しいのよ。
 そのためにルイーザを。
 自分の娘なのに。
 ルイーザが自分で行きたがってるんだから放り出すのとは違うって言いたいみたいだけど。

 だからわたし、ルイーザについていくことにしたの。
 わたしだって外国へ行くのは初めてだし、呪いが怖くないわけじゃないけど、だからって妹を放っておけないわ!

 大丈夫。アデリン叔母さまも来てくれるって言ってるの。
 何だかね、わたしたちルルイエ家の先祖の故郷であるルルイエの都には、ものすごい財宝が眠ってるって伝説があるらしいのよ。
 おじいちゃまの足取りを追っていけば、その財宝にたどり着けるって考えてるみたい。
 そんなにうまく行くかしら?
 叔母さまは臆病だけどガメツイし、呪いのことも怖がったかと思ったら偶然だって言い切ったり。
 悪い人ではないんだけど、まあ、おもしろい人よね。

 何が待っているのか正直わたしにもわからない。
 何もわからないまま終わるかもしれないし、きっとそれが一番いいんでしょうね。

 おじいちゃまとおばあちゃまは新婚旅行で世界一周の旅をして、アメリカのアーカムって町までは二人は一緒だったらしいの。
 さっき初めて聴いたんだけど、パパも若いころに何度もおじいちゃまを捜しにアメリカへ行ってたんですって。
 でも手がかりはナシ。
 パパはおじいちゃまに逢いたいんじゃなくて自分が生まれた病院がどこかを知りたかっただけだみたいに言ってたけど、結局それすら見つけられなかったらしいわ。

 とにかくわたしたちも最初の目的地はアーカムよ。
 案外、気ままな観光旅行になるのかもしれないわ。

 そうそう、ルイーザの写真を同封するわね。
 あの子、ものすごい恥ずかしがり屋で、撮影するのに苦労したのよ?
 写真を撮られたからって魂を吸われるわけでもないのにね。


キャロラインより


追伸
『切り裂きジャックに気をつけて!』
 今、こっちではこんな言葉をあいさつ代わりに言うのが流行(はや)ってるの。
 呪いの指輪なんかに怯えてるのは我がルルイエ家だけで、世の中のみんなはやっぱり生きている人間の殺人鬼のほうが怖いわよね。
 そっちはここから遠いし大丈夫よね?



☆☆☆

 ねえきみ、ルイーザの写真が気になるかい?
 残念ながら事件後に警察がこの手紙を押収した際の記録では、警察は写真を発見できなかったようだよ。