親愛なるオリヴィアへ
変な文章になっていたらごめんなさい。
すごく動揺しているの。
今、実家のわたしの部屋に居ます。
部屋の中はわたしが寮に入る前と何も変わらないわ。
ルイーザはすっかり大きくなってた。
使用人はごっそり入れ替わってた。
ここまでは予想していたとおりよ。
汽車の中でずっと、久しぶりにパパに会うのに何を話せばいいのか考えてたわ。
だって親子なのに宝石の相続の話しかしないなんて品がないじゃない?
急な出立だったからオリヴィアには言ってなかったと思うけど、アデリン叔母さまからの手紙に、パパがブルーダイヤを売ろうとしてるってあったのよ。
ルイーザはまだ子供だからダイヤはパパが管理するって言うのはわかるけど、おばあちゃまはダイヤをルイーザに継がせたがってるし、そもそもおばあちゃまはまだ生きてるのに!
だから何て言ってパパを止めようか汽車の中でずっと考えていて、でも長旅で時間があったからいろんな想いがよぎってきて、ダイヤ以外にも、わたしの近況の話とかもしないといけないかなとか思って……
でもね、我が家の目と鼻の先で、そんなの全部、吹き飛んじゃったの!
わたしが乗っている馬車を別の馬車が追い越して、その馬車、何だか馬がいうことを聞いてないみたいだったの。
その馬車は横倒しになって、乗っていた人が亡くなったわ。
博物館の館長ですって。
パパはブルーダイヤを博物館に寄付しようとしていて、館長自身が受け取りに来たの。
寄付よ。売るんじゃなくて。
高価なダイヤを。
パパは詳しい話は明日するって言ったわ。
今日はもう遅いからって。
だけど何だか嫌な予感がするのよ。
明日になったら手紙なんか書くどころじゃなくなるような。
だからこれだけ先に送っておくわね。
盗み聞きするつもりはなかったんだけど、廊下で聞いてしまったの。
館長に渡すために応接室に用意していたブルーダイヤが、自分の部屋から一歩も出ていないはずのおばあちゃまの指に戻ってたって。
何だかもったいぶってるみたいになってしまってごめんなさい。
続きを書けるように祈っててちょうだい。
キャロラインより
PS.
返事は書かなくていいわ。
きっと行き違いになるもの。
そちらからの手紙がこちらに届く前に、こちらから次の手紙を送れる。
そう願ってる。
親愛なるオリヴィアへ
パパがブルーダイヤをどこかへやっちゃおうとするのは昨日今日に始まったことじゃなかったの。
うちのパパは物心ついたころからおじいちゃまを憎んでたって話は前にしたわよね?
パパはおじいちゃまに捨てられたって思ってるから。
だからパパは、おじいちゃまに繋がるブルーダイヤも憎んでた。
もしおじいちゃまが結婚詐欺師とかそういうのだったとしたら高価なダイヤを置いていくわけないと思うんだけど、それは今はどうでもいいわ。
とにかくパパはブルーダイヤが視界に入るのも嫌で、そのせいでおばあちゃまとはギスギスしてて、わたしが実家にいたときからほとんど口も利いていなかったのよ。
だからってパパはおばあちゃまの指輪を無理やり取り上げるような人ではないわけなのよね。
で、最初は学生時代。今から二十年以上前ね。
さっきパパから聴いたばかりの話よ。
そのころパパはあまり良くないお友達と付き合ってて、その人がブルーダイヤを盗もうとしてるのに気づいてたんだけど、これ幸いと見て見ぬふりをしたんですって。
その人、三日後にブルーダイヤを返しに来たそうよ。
三日連続でひどい夢を見た上に、起きている間も夢で聞いた声が聞こえて、夢と現実の区別がつかなくなりそうになったんだとか。
そんなの泥棒の罪悪感から悪夢を見ただけだって、このころはパパもそう思っていたそうよ。
次は九年前。
ルイーザが生まれて、ママが死んで、パトリシアおばあちゃまの痴ほうが始まって、わたしが遠くの寮付きの学校に編入させられた年。
長年仕えてた使用人がごっそり入れ替わった年でもあったわね。
そのせいで噂が広まったみたいで、もともとブルーダイヤに目をつけていた宝石コレクターがここぞとばかりに何度も屋敷に押しかけてきたの。
ママのこともおばあちゃまのことも全てはブルーダイヤの呪いだみたいにパパに吹き込んで。
その宝石コレクターが本当に呪いの存在を信じているなら、そんな危険なダイヤをほしがるわけがないわよね?
だからさっさと追い返せばいいのに、パパはいろいろ重なって心が弱っちゃっていたから、そのコレクターをついつい屋敷に上げちゃったの。
そこに電話がかかってきて、たぶんこれもコレクターが仕込んだんだろうけど、電話に出るために席をはずしたパパが外国の僧侶を名乗る誰かのありがたぁいお話に聞き入っている隙に、コレクターは札束を置いてダイヤを持っていってしまったそうなの。
おばあちゃまと話がついたとか言って。
おばあちゃまは人と会話ができるような状態じゃなかったのに。
その宝石コレクターの家、その日の夜に火事に遭って全焼したそうよ。
ねえオリヴィア、ダイヤって普通、燃えないわよね?
炭素だけど石炭みたいには燃えないのよね?
ダイヤモンドを燃やすのには大量の酸素が必要だから、熱で色が変わるぐらいはあっても火事でダイヤモンドが燃えてなくなることはない、で、合ってるわよね?
でもね、燃えたっていうのよ。
コレクターのコレクション。
ブルーダイヤ以外は全て。
たくさんのダイヤモンドが失われて、それでいて同じ部屋にあったブルーダイヤには傷一つなく、変色一つしていなかったなんていうのよ。
コレクター自身は命は助かったけど重傷で……
治療費が必要だからブルーダイヤを買い戻してほしいって、コレクターのお嬢さんがパパを訪ねてきたの。
パパはお金は返すけどダイヤはそのまま持っていてほしいってお嬢さんに言ったそうよ。
それでお嬢さんにすごく感謝されてしまったものだから、呪いが怖いから持っていってほしいだけだとは言えなかったんですって。
だけど三日後、おばあちゃまの部屋の窓からブルーダイヤが投げ込まれて、それっきりコレクター親子とは連絡がつかなくなってしまったんですって。
そうして三度目の博物館の館長の件で、とうとう目の前で死者が出たの。
ひいおじいちゃまの時代の話が本当だとしたら、もう何人目の犠牲者なんだかわからないわ。
こんな話、前にあなたがしたときは、わたしはバカにしたわよね?
あれ、本当は怖かったからなのよ。
呪いが怖いんじゃないわ。
呪いなんかあるわけない、偶然が重なっただけだって今でも信じてる。
そうじゃなくて、パパが呪いなんかを信じているのが怖いのよ。
パパがわたしを遠くの寮に入れたのは、わたしを呪いのダイヤから遠ざけるため。
パパはもともとはそんな人じゃなかったわ。
ママが生きていたころは。
パパがそんな人になっちゃったって認めるのが嫌で、だからわたし、あなたに呪いの話をされるたんびに怒ってたのよ。
パパね、霊能者を呼んだんですって。
午後にはうちに来るわ。
今は午前。
パパはそんな胡散臭い人にまで頼るようになっちゃって……
わたしは騙されないわ。
またね。
何だか書き散らかしてるみたいな手紙だけれど、気を悪くしないでね。
キャロラインより
変な文章になっていたらごめんなさい。
すごく動揺しているの。
今、実家のわたしの部屋に居ます。
部屋の中はわたしが寮に入る前と何も変わらないわ。
ルイーザはすっかり大きくなってた。
使用人はごっそり入れ替わってた。
ここまでは予想していたとおりよ。
汽車の中でずっと、久しぶりにパパに会うのに何を話せばいいのか考えてたわ。
だって親子なのに宝石の相続の話しかしないなんて品がないじゃない?
急な出立だったからオリヴィアには言ってなかったと思うけど、アデリン叔母さまからの手紙に、パパがブルーダイヤを売ろうとしてるってあったのよ。
ルイーザはまだ子供だからダイヤはパパが管理するって言うのはわかるけど、おばあちゃまはダイヤをルイーザに継がせたがってるし、そもそもおばあちゃまはまだ生きてるのに!
だから何て言ってパパを止めようか汽車の中でずっと考えていて、でも長旅で時間があったからいろんな想いがよぎってきて、ダイヤ以外にも、わたしの近況の話とかもしないといけないかなとか思って……
でもね、我が家の目と鼻の先で、そんなの全部、吹き飛んじゃったの!
わたしが乗っている馬車を別の馬車が追い越して、その馬車、何だか馬がいうことを聞いてないみたいだったの。
その馬車は横倒しになって、乗っていた人が亡くなったわ。
博物館の館長ですって。
パパはブルーダイヤを博物館に寄付しようとしていて、館長自身が受け取りに来たの。
寄付よ。売るんじゃなくて。
高価なダイヤを。
パパは詳しい話は明日するって言ったわ。
今日はもう遅いからって。
だけど何だか嫌な予感がするのよ。
明日になったら手紙なんか書くどころじゃなくなるような。
だからこれだけ先に送っておくわね。
盗み聞きするつもりはなかったんだけど、廊下で聞いてしまったの。
館長に渡すために応接室に用意していたブルーダイヤが、自分の部屋から一歩も出ていないはずのおばあちゃまの指に戻ってたって。
何だかもったいぶってるみたいになってしまってごめんなさい。
続きを書けるように祈っててちょうだい。
キャロラインより
PS.
返事は書かなくていいわ。
きっと行き違いになるもの。
そちらからの手紙がこちらに届く前に、こちらから次の手紙を送れる。
そう願ってる。
親愛なるオリヴィアへ
パパがブルーダイヤをどこかへやっちゃおうとするのは昨日今日に始まったことじゃなかったの。
うちのパパは物心ついたころからおじいちゃまを憎んでたって話は前にしたわよね?
パパはおじいちゃまに捨てられたって思ってるから。
だからパパは、おじいちゃまに繋がるブルーダイヤも憎んでた。
もしおじいちゃまが結婚詐欺師とかそういうのだったとしたら高価なダイヤを置いていくわけないと思うんだけど、それは今はどうでもいいわ。
とにかくパパはブルーダイヤが視界に入るのも嫌で、そのせいでおばあちゃまとはギスギスしてて、わたしが実家にいたときからほとんど口も利いていなかったのよ。
だからってパパはおばあちゃまの指輪を無理やり取り上げるような人ではないわけなのよね。
で、最初は学生時代。今から二十年以上前ね。
さっきパパから聴いたばかりの話よ。
そのころパパはあまり良くないお友達と付き合ってて、その人がブルーダイヤを盗もうとしてるのに気づいてたんだけど、これ幸いと見て見ぬふりをしたんですって。
その人、三日後にブルーダイヤを返しに来たそうよ。
三日連続でひどい夢を見た上に、起きている間も夢で聞いた声が聞こえて、夢と現実の区別がつかなくなりそうになったんだとか。
そんなの泥棒の罪悪感から悪夢を見ただけだって、このころはパパもそう思っていたそうよ。
次は九年前。
ルイーザが生まれて、ママが死んで、パトリシアおばあちゃまの痴ほうが始まって、わたしが遠くの寮付きの学校に編入させられた年。
長年仕えてた使用人がごっそり入れ替わった年でもあったわね。
そのせいで噂が広まったみたいで、もともとブルーダイヤに目をつけていた宝石コレクターがここぞとばかりに何度も屋敷に押しかけてきたの。
ママのこともおばあちゃまのことも全てはブルーダイヤの呪いだみたいにパパに吹き込んで。
その宝石コレクターが本当に呪いの存在を信じているなら、そんな危険なダイヤをほしがるわけがないわよね?
だからさっさと追い返せばいいのに、パパはいろいろ重なって心が弱っちゃっていたから、そのコレクターをついつい屋敷に上げちゃったの。
そこに電話がかかってきて、たぶんこれもコレクターが仕込んだんだろうけど、電話に出るために席をはずしたパパが外国の僧侶を名乗る誰かのありがたぁいお話に聞き入っている隙に、コレクターは札束を置いてダイヤを持っていってしまったそうなの。
おばあちゃまと話がついたとか言って。
おばあちゃまは人と会話ができるような状態じゃなかったのに。
その宝石コレクターの家、その日の夜に火事に遭って全焼したそうよ。
ねえオリヴィア、ダイヤって普通、燃えないわよね?
炭素だけど石炭みたいには燃えないのよね?
ダイヤモンドを燃やすのには大量の酸素が必要だから、熱で色が変わるぐらいはあっても火事でダイヤモンドが燃えてなくなることはない、で、合ってるわよね?
でもね、燃えたっていうのよ。
コレクターのコレクション。
ブルーダイヤ以外は全て。
たくさんのダイヤモンドが失われて、それでいて同じ部屋にあったブルーダイヤには傷一つなく、変色一つしていなかったなんていうのよ。
コレクター自身は命は助かったけど重傷で……
治療費が必要だからブルーダイヤを買い戻してほしいって、コレクターのお嬢さんがパパを訪ねてきたの。
パパはお金は返すけどダイヤはそのまま持っていてほしいってお嬢さんに言ったそうよ。
それでお嬢さんにすごく感謝されてしまったものだから、呪いが怖いから持っていってほしいだけだとは言えなかったんですって。
だけど三日後、おばあちゃまの部屋の窓からブルーダイヤが投げ込まれて、それっきりコレクター親子とは連絡がつかなくなってしまったんですって。
そうして三度目の博物館の館長の件で、とうとう目の前で死者が出たの。
ひいおじいちゃまの時代の話が本当だとしたら、もう何人目の犠牲者なんだかわからないわ。
こんな話、前にあなたがしたときは、わたしはバカにしたわよね?
あれ、本当は怖かったからなのよ。
呪いが怖いんじゃないわ。
呪いなんかあるわけない、偶然が重なっただけだって今でも信じてる。
そうじゃなくて、パパが呪いなんかを信じているのが怖いのよ。
パパがわたしを遠くの寮に入れたのは、わたしを呪いのダイヤから遠ざけるため。
パパはもともとはそんな人じゃなかったわ。
ママが生きていたころは。
パパがそんな人になっちゃったって認めるのが嫌で、だからわたし、あなたに呪いの話をされるたんびに怒ってたのよ。
パパね、霊能者を呼んだんですって。
午後にはうちに来るわ。
今は午前。
パパはそんな胡散臭い人にまで頼るようになっちゃって……
わたしは騙されないわ。
またね。
何だか書き散らかしてるみたいな手紙だけれど、気を悪くしないでね。
キャロラインより