「金ねーな」

 田崎秀一郎と書かれた通帳を睨みながら、何もない部屋でため息をついた。
 最後に入ったバイト代も底をつき、このままだと今月の家賃すら払えない。

「さすがに無職で家無しはヤバすぎだろ」

 どこでどう間違えたのか。
 ちゃんとした大学を出たものの、何社も受けた就職活動は全落ち。

 そこからオレの転落人生は始まった。
 うるさい親たちは地元に帰ってこいと言ったが、何もない田舎に今さら帰る気などなれなかった。

 だからコンビニや日雇いバイトで食いつないでいたが、店長と喧嘩をしてコンビニはクビになった。

 それがつい先月。
 その後、短時間バイトばかりを繰り返していたらこの有様だ。

「どーすっかな」

 実家に帰るのは最終手段として、なんとか食う金と家賃だけは稼がないと。

 いつものように短時間バイトをスマホで漁り始めると、ふと一件の、おかしな募集に目がいった。


深夜の散歩好きな方必見!
夜、猫を探すだけのバイトです!

指定された道を通り、猫を探すだけ。誰でも出来る簡単な仕事です。
※情報漏洩防止のため、携帯電話等はスタッフがお預かりいたします。

時給3500円+深夜手当 募集数1名


「これって」

 ちょっと前にSNSで噂になってたヤツじゃねーか。
 猫探しとか言って、実はみたいな。

 でも時給いいよな。
 しかもこんな好条件なのに、誰も応募してない。

「でもなぁ……さがにこれは……どーすっかな」

 スマホと睨めっこをしていると、大きく腹が鳴った。
 空腹。
 それは何物にも代えがたく、気づけばオレは応募していた。