偵察魂 

 ティータイムが終わり、考子と真理愛は音を小さくしてテレビを見ていた。

「しばらく海外旅行はお預けだから、テレビの旅番組で我慢しているのよ」

 子育て中というだけでなく、新型コロナが猛威を振るっている状況ではどうしようもないわよね、というふうに肩をすくめた。
 テレビにはパリの街並みが映っていた。
 昨年放送分の再放送のようだった。

「憧れのパリか~」

 真理愛はシャンゼリゼ通りを颯爽(さっそう)と歩く美しいパリジェンヌの姿に魅せられていた。

「でも、私たちは選ばなかったのよね」

 考子は、悪い選択じゃなかったわよね、というように唇の端を上げた。

 二人共旅行が大好きだった。
 高校卒業後、大学は別々だったが、アルバイト料を貯めては二人で日本全国を回った。
 そして、卒業記念旅行は2週間、行先はヨーロッパと決めて、具体的な訪問地を話し合った。
 
 その中で最初に候補に挙がったのは、大都市だった。
 パリ、ウィーン、ローマ、マドリード、アムステルダム、コペンハーゲン、プラハ……。
 しかし、お上りさんのような観光地巡りをする気はないということに気づいて、サイコロを振り出しに戻した。