ところで、ペストの病原菌が発見されたのがいつか、知ってる? 
 
 知らないのね。
 じゃあ教えてあげるわ。
 時は1894年6月14日、当時流行していた香港で発見されたのよ。
 
 発見した人はなんと日本人だったの。
 北里柴三郎(きたさとしばさぶろう)さん。
 同じ日本人として誇らしいわね。
 これによって累計1億人以上の死者が出たペストの正体がわかって、予防や消毒、治療の道が開けたのよ。
 そして、抗生物質の登場によって治癒することが可能になったの。
 
 ところでね、わたしのパパのご先祖様は北里博士の教え子なんだって。
 直接指導をしてもらったらしいの。
 その血がパパにも繋がっているから、迷わず医師の道に進んだんだって。
 もちろん、わたしにもその血が流れているから、病気と闘うという使命を持っているかもしれないわね。
 やっぱり将来は医師かな? 
 それとも薬学の研究者かな? 
 それともWHOの事務局長かな? 
 どれも魅力的だけど、まだ決められないわね。
 でも、いつか特別な声が導いてくれるはずだから、それまでは生まれるための準備を着々と進めるわね。

 で、わたしの体に関して言うとね、
 今ね、骨がどんどん出来てきているのよ。
 細胞が成長して骨芽細胞(こつがさいぼう)になって、それが骨になっているの。
 体を支える背骨が輪状の33本の骨と150くらいの関節と1,000本くらいの靱帯(じんたい)によって出来上がっているの。
 かなりしっかりと体を支えることができるようになったのよ。
 だから、背をまっすぐに伸ばすことができるようになったの。
 でもね、ある場所だけ骨化が進んでいないところがあるの。
 それは頭蓋よ。
 これには理由があるの。
 生まれて来る時、わたしは母体の狭い産道を通っていくことになるんだけど、その時に頭蓋骨が出来上がっていると通りにくくなって、出産に支障をきたすからなの。
 だから、頭蓋骨は引っつかないで、産道の狭さに対応して柔軟に変形できるようになっているのよ。
 それに、脳が成長するためにも頭蓋が柔軟であることが大切なの。
 だって生まれてから1年で赤ちゃんの脳は3倍にも大きくなるから、頭蓋骨が邪魔をしたら脳の発達が遅れてしまうのよ。
 そんなことになったら大変だから、生まれてからも柔らかいままなの。
 いろんな理由があって頭蓋骨を未完成にさせているのよね。
 人体の不思議に今更ながら感動しちゃうわ。
 それと、特別な使命を果たすためにわたしの脳はアインシュタインよりも大きくなるはずだから、わたしの頭蓋は普通の人よりもゆっくり骨化していくと思うの。
 将来の天才誕生の邪魔をしないように頭蓋骨が気を遣っているのよ。
 ありがとう、頭蓋骨さん。