四十九日の供養を終えた、次の日の朝のこと…
真理の両親は供養を終えるとその日の夜に帰ったが、輝美は供養の後もそのまま泊まっていた。
朝の空気を吸おうと、外へ出てきた輝美はポストに何か入っていることに気づき、衝動的にポストを開け中の物を取り出した。
「ん?…手紙…?」
今どきには珍しい手紙の封筒が入っていた。
信也宛の手紙だった。
差出人は…仮屋崎真理…
「えっ!?真理ちゃん?!」
素っ頓狂な声を上げ、動揺しながらも直ぐに玄関のドアを開けると、リビングまで聞こえるような大声で信也を呼びながら、家の中へ入って行った。
「信也!信也!ちょっと…ねぇ、信也…」
そんな輝美の大声などべつに今さら珍しくもないと、信也はコーヒーを飲みながらそこまで気にもせず冷静な対応で輝美を迎えた。
「母さん…朝からなんだよ…」
「なんだよ、じゃないわよ…ほら、見て!手紙!」
「手紙?…へぇ~…今どき珍しい…誰から?」
「誰からって…真理ちゃんから!」
手に持っていた手紙を信也に渡しながら、興奮気味に輝美は言った。
「は?…まーちゃんから?…wまさか…w」
輝美の言うことを信じられないように笑いながら信也は手紙を受け取り、差出人の名前を見た。
すると今までの笑いをピタッ、と止め目を見開きその差出人の名前をじっ…と見つめた。
「ほんとに…まーちゃんから?…」
「だから、さっきから言ってるじゃない…とにかく、早く中を読んでみなさいよ…」
「うぅぅん…そだね…ちょっと待って…」
オドオドしてなかなか手紙の中を見ようとしない信也を輝美が促すと、大きく深呼吸をし意を決したように信也は封筒を開け、中から手紙を取り出した。
中には信也への真理の思いがつづられた、便せん三枚分の手紙が入っていた。
【しん君がこの手紙を読んでいるということは、
私はもうしん君の隣にはいないんだろうな…
私はしん君の奥さんでいられて、本当に幸せで
した。
癌がみつかって、しん君に離婚の話をして大喧
嘩したよね…
あの喧嘩が私達にとって、初めての大喧嘩だっ
たよね…
それまで小さな喧嘩は何度かしてきたけど、あ
の日ほどしん君が本気で怒ったことはなかった
よね。
あの時、本気でしん君が怒って泣いてくれて、
本当にすんごい嬉しかったよ。
だって、私だって本当はしん君と離婚なんてし
たくなかったもん…
あんな言葉、言いたくもなかった…
だけどあの時は、それがしん君のためには一番
いい、て思ったの…
子供の話もしてた頃だったし、しん君も子供欲
しがってたから…
私よりちゃんと子供を産める、健康な素敵な女
性と出会って幸せになってくれれば…て、思っ
たの…
でも、あなたは私を選んで私と一緒にいること
を選んでくれた。
真理と一緒にいることが自分の幸せなんだ、て
言ってくれた。
本当に嬉しかった…ありがとう…
いつもいつも笑顔で私を包んでくれて、ありが
とう…
優しくて、暖かくて、一緒にいて安心できて…
そんなしん君が、大好きでした。
最後まで私に笑顔と幸せを与えてくれて、本当
にありがとう…
私に素敵な家庭をもたせてくれて、ありがとう
う…
だけど、ごめんね…子供、産んであげられなく
て…ほんとに、ごめんね…
だからもし、素敵な人との出会いがあったら、
遠慮なく再婚してね。
正直、ちょっと複雑な気持ちで妬けちゃうけ
ど、しん君の自分の幸せを一番に考えて…
だから、約束して…
幸せになってください。
私からの最後のお願いです。
私は今までいっぱい、いっぱいしん君から愛を
もらったから大丈夫…
約束だよ…
最後にもう一度だけ、言わせてください…
ありがとう…そして、愛してます…
真理 】
手紙の三分の一ほどのところでは、もうすでに信也の目からはボロボロと涙が流れていた。
その涙のせいでぼやけてまともに文字が読めず、途中からは代わりに輝美が代読した。
しかし代読しながら輝美も、結局は一緒に涙を流すこととなった。
「まーちゃん…こんな手紙…いつ書いたんだよ…」
「真理ちゃん…最後までほんとに…あんたのことを、思ってくれてたのね…」
ひと通り手紙を読み終え、そしてひと通り泣きじゃくった二人はとりあえず気持ちを落ち着かせるために、コーヒーを淹れひと息ついていた。
すると信也の携帯に着信が入った。
朝から誰だ…?と、携帯を見ると、「阿部美帆」と名前がでていた。
「おっ!…どしたんだろ?珍し…美帆さんだ…」
名前を見て、そう呟くと信也は電話にでた。
「はぃ、おはようございます…珍しいですね、美帆さん…今日はどうしたんですか?」
「おはようございます…ごめんなさいね、こんな朝から…」
「いぇいぇ…大丈夫ですよ…お通夜や葬式の時は、色々と本当に有難うございました…ほんとに助かりました…」
「いゃ…私も自分の親友を、きちんと見送ってあげたかったから…ほんとは昨日の四十九日も、そちらに伺って一緒に供養したかったんですけど…」
「そうですか…有難うございます…まーちゃんも美帆さんみたいな素敵な親友と出会えて、見送ってもらえて幸せだったと思います…それで?今日は?…」
「あっ、ごめんなさい…つい、脱線しちゃって…
あの…手紙、届きました?真理からの手紙…実は………」
美帆の話によると、真理が入院中に一度病院へ会いに行ったのだという。
その時に真理から手紙を託されたのだというのだ。
自分が死んだら四十九日が終わった頃に、信也へ届くようにしてほしい…と。
最初は断ったらしい…そんな役目したくない、と…
だが、病弱な体で一生懸命書いた真理の気持ちと、必死にお願いする姿に心を打たれたのだと…
手紙の封筒をよく見ると、確かに鹿屋の消印であった。
「ほんとは直接渡したかったんですけど…そちらに行く時間がなくて…なので真理の希望通り、四十九日が終わった頃に届くように、日にちを計算して郵便で送ることにしたんです…」
「そうだったんですね…おかげで、まーちゃんの気持ちを受け取ることができました…有難うございます…」
「よかったです…真理の気持ちが、きちんと届いていて…」
先ほどの涙がせっかく収まって落ち着いていたのに、またもや信也は美帆と話をしながら、涙を流していた。
話を終え電話を切ると、事の流れを信也は輝美にも話して聞かせた。
輝美は、そういうことね…というような顔をし黙って聞いていた。
それからお昼近くになると、昼食を一緒にする約束をしていたため、真理の両親が家に現れた。
もちろん真理からの手紙を二人にも見せ、美帆との事の流れの話もした。
正直、真司も弥生もまた泣きだすのかと思いきや、意外にも結構冷静に手紙を読み、美帆との事の流れの話も落ち着いて聞いていた。
「そぅ…あの、美帆ちゃんがね…」
なんだか納得したように、弥生は呟いた。
「まぁ…真理らしいといえば、真理らしいな…」
フッ…と渋い笑いをしながら、真司も呟いた。
「なんだか二人共、やけに落ち着いてますね…俺達なんかさっき二人して、大泣きしたんすよ…」
「w…そりゃあ、信也くん…私達はあの子の、真理の親なのよ?…産まれてからずっと、見てきたのよ?…」
「そうだな…子供の頃からずっと見てきた親だからこそ、あの子のこと解ることがあるのかもな…」
「あの、それは…やはり手紙のこととかも、予想がついていた…ということで?…」
「うぅ〜ん…そうねぇ、予想…というより、真理ならそうなんだろうな…て感じかな?ねっ?あなた…」
「だな…真理なら、てな…」
「ですか…親子の絆、て感じですかね?」
信也の言葉に、真司と弥生は顔を見合わせ、ちょっと誇らしげに笑った。
するとそこで珍しく今まで黙っていた輝美が、限界に達したような声で訴えてきた。
「ねぇ〜…お腹すいちゃったぁ〜」
「あっ、そうね…輝美さん、ごめんなさいね…お昼ご飯、行きましょっか…」
弥生は輝美に謝ると自分のバッグを手に取り、真司の腕も掴んだ。
「おっ…もうこんな時間か…確かに腹も減るわな…」
自分の腕時計を見ながら、真司も出かける態勢に入った。
そんな親達の会話を聞きながら、信也も出かける準備をし玄関へ向かった。
全員が家から出ると、信也は玄関の鍵をし輝美の車の助手席に乗り込んだ。
今日は輝美のおすすめのお店へ行くため、輝美の運転なのだ。
助手席に座るなんて、どれくらいぶりだろう…
今まではいつも自分が運転でまーちゃんが助手席だったからな…
そんなことを考えながら食事に向かう信也だった。
そしてまだまだ真理のことを無意識に考えてしまう自分がいることに改めて気づかされ、手紙の最後に書かれていた真理の言葉、「愛してます…」を思い出しながらポツリ…と言うのだった。
「俺だって愛してるよ…」
周りの親達にも気づかないくらいの小声で…
でも、天国の真理には届くように…
真理の両親は供養を終えるとその日の夜に帰ったが、輝美は供養の後もそのまま泊まっていた。
朝の空気を吸おうと、外へ出てきた輝美はポストに何か入っていることに気づき、衝動的にポストを開け中の物を取り出した。
「ん?…手紙…?」
今どきには珍しい手紙の封筒が入っていた。
信也宛の手紙だった。
差出人は…仮屋崎真理…
「えっ!?真理ちゃん?!」
素っ頓狂な声を上げ、動揺しながらも直ぐに玄関のドアを開けると、リビングまで聞こえるような大声で信也を呼びながら、家の中へ入って行った。
「信也!信也!ちょっと…ねぇ、信也…」
そんな輝美の大声などべつに今さら珍しくもないと、信也はコーヒーを飲みながらそこまで気にもせず冷静な対応で輝美を迎えた。
「母さん…朝からなんだよ…」
「なんだよ、じゃないわよ…ほら、見て!手紙!」
「手紙?…へぇ~…今どき珍しい…誰から?」
「誰からって…真理ちゃんから!」
手に持っていた手紙を信也に渡しながら、興奮気味に輝美は言った。
「は?…まーちゃんから?…wまさか…w」
輝美の言うことを信じられないように笑いながら信也は手紙を受け取り、差出人の名前を見た。
すると今までの笑いをピタッ、と止め目を見開きその差出人の名前をじっ…と見つめた。
「ほんとに…まーちゃんから?…」
「だから、さっきから言ってるじゃない…とにかく、早く中を読んでみなさいよ…」
「うぅぅん…そだね…ちょっと待って…」
オドオドしてなかなか手紙の中を見ようとしない信也を輝美が促すと、大きく深呼吸をし意を決したように信也は封筒を開け、中から手紙を取り出した。
中には信也への真理の思いがつづられた、便せん三枚分の手紙が入っていた。
【しん君がこの手紙を読んでいるということは、
私はもうしん君の隣にはいないんだろうな…
私はしん君の奥さんでいられて、本当に幸せで
した。
癌がみつかって、しん君に離婚の話をして大喧
嘩したよね…
あの喧嘩が私達にとって、初めての大喧嘩だっ
たよね…
それまで小さな喧嘩は何度かしてきたけど、あ
の日ほどしん君が本気で怒ったことはなかった
よね。
あの時、本気でしん君が怒って泣いてくれて、
本当にすんごい嬉しかったよ。
だって、私だって本当はしん君と離婚なんてし
たくなかったもん…
あんな言葉、言いたくもなかった…
だけどあの時は、それがしん君のためには一番
いい、て思ったの…
子供の話もしてた頃だったし、しん君も子供欲
しがってたから…
私よりちゃんと子供を産める、健康な素敵な女
性と出会って幸せになってくれれば…て、思っ
たの…
でも、あなたは私を選んで私と一緒にいること
を選んでくれた。
真理と一緒にいることが自分の幸せなんだ、て
言ってくれた。
本当に嬉しかった…ありがとう…
いつもいつも笑顔で私を包んでくれて、ありが
とう…
優しくて、暖かくて、一緒にいて安心できて…
そんなしん君が、大好きでした。
最後まで私に笑顔と幸せを与えてくれて、本当
にありがとう…
私に素敵な家庭をもたせてくれて、ありがとう
う…
だけど、ごめんね…子供、産んであげられなく
て…ほんとに、ごめんね…
だからもし、素敵な人との出会いがあったら、
遠慮なく再婚してね。
正直、ちょっと複雑な気持ちで妬けちゃうけ
ど、しん君の自分の幸せを一番に考えて…
だから、約束して…
幸せになってください。
私からの最後のお願いです。
私は今までいっぱい、いっぱいしん君から愛を
もらったから大丈夫…
約束だよ…
最後にもう一度だけ、言わせてください…
ありがとう…そして、愛してます…
真理 】
手紙の三分の一ほどのところでは、もうすでに信也の目からはボロボロと涙が流れていた。
その涙のせいでぼやけてまともに文字が読めず、途中からは代わりに輝美が代読した。
しかし代読しながら輝美も、結局は一緒に涙を流すこととなった。
「まーちゃん…こんな手紙…いつ書いたんだよ…」
「真理ちゃん…最後までほんとに…あんたのことを、思ってくれてたのね…」
ひと通り手紙を読み終え、そしてひと通り泣きじゃくった二人はとりあえず気持ちを落ち着かせるために、コーヒーを淹れひと息ついていた。
すると信也の携帯に着信が入った。
朝から誰だ…?と、携帯を見ると、「阿部美帆」と名前がでていた。
「おっ!…どしたんだろ?珍し…美帆さんだ…」
名前を見て、そう呟くと信也は電話にでた。
「はぃ、おはようございます…珍しいですね、美帆さん…今日はどうしたんですか?」
「おはようございます…ごめんなさいね、こんな朝から…」
「いぇいぇ…大丈夫ですよ…お通夜や葬式の時は、色々と本当に有難うございました…ほんとに助かりました…」
「いゃ…私も自分の親友を、きちんと見送ってあげたかったから…ほんとは昨日の四十九日も、そちらに伺って一緒に供養したかったんですけど…」
「そうですか…有難うございます…まーちゃんも美帆さんみたいな素敵な親友と出会えて、見送ってもらえて幸せだったと思います…それで?今日は?…」
「あっ、ごめんなさい…つい、脱線しちゃって…
あの…手紙、届きました?真理からの手紙…実は………」
美帆の話によると、真理が入院中に一度病院へ会いに行ったのだという。
その時に真理から手紙を託されたのだというのだ。
自分が死んだら四十九日が終わった頃に、信也へ届くようにしてほしい…と。
最初は断ったらしい…そんな役目したくない、と…
だが、病弱な体で一生懸命書いた真理の気持ちと、必死にお願いする姿に心を打たれたのだと…
手紙の封筒をよく見ると、確かに鹿屋の消印であった。
「ほんとは直接渡したかったんですけど…そちらに行く時間がなくて…なので真理の希望通り、四十九日が終わった頃に届くように、日にちを計算して郵便で送ることにしたんです…」
「そうだったんですね…おかげで、まーちゃんの気持ちを受け取ることができました…有難うございます…」
「よかったです…真理の気持ちが、きちんと届いていて…」
先ほどの涙がせっかく収まって落ち着いていたのに、またもや信也は美帆と話をしながら、涙を流していた。
話を終え電話を切ると、事の流れを信也は輝美にも話して聞かせた。
輝美は、そういうことね…というような顔をし黙って聞いていた。
それからお昼近くになると、昼食を一緒にする約束をしていたため、真理の両親が家に現れた。
もちろん真理からの手紙を二人にも見せ、美帆との事の流れの話もした。
正直、真司も弥生もまた泣きだすのかと思いきや、意外にも結構冷静に手紙を読み、美帆との事の流れの話も落ち着いて聞いていた。
「そぅ…あの、美帆ちゃんがね…」
なんだか納得したように、弥生は呟いた。
「まぁ…真理らしいといえば、真理らしいな…」
フッ…と渋い笑いをしながら、真司も呟いた。
「なんだか二人共、やけに落ち着いてますね…俺達なんかさっき二人して、大泣きしたんすよ…」
「w…そりゃあ、信也くん…私達はあの子の、真理の親なのよ?…産まれてからずっと、見てきたのよ?…」
「そうだな…子供の頃からずっと見てきた親だからこそ、あの子のこと解ることがあるのかもな…」
「あの、それは…やはり手紙のこととかも、予想がついていた…ということで?…」
「うぅ〜ん…そうねぇ、予想…というより、真理ならそうなんだろうな…て感じかな?ねっ?あなた…」
「だな…真理なら、てな…」
「ですか…親子の絆、て感じですかね?」
信也の言葉に、真司と弥生は顔を見合わせ、ちょっと誇らしげに笑った。
するとそこで珍しく今まで黙っていた輝美が、限界に達したような声で訴えてきた。
「ねぇ〜…お腹すいちゃったぁ〜」
「あっ、そうね…輝美さん、ごめんなさいね…お昼ご飯、行きましょっか…」
弥生は輝美に謝ると自分のバッグを手に取り、真司の腕も掴んだ。
「おっ…もうこんな時間か…確かに腹も減るわな…」
自分の腕時計を見ながら、真司も出かける態勢に入った。
そんな親達の会話を聞きながら、信也も出かける準備をし玄関へ向かった。
全員が家から出ると、信也は玄関の鍵をし輝美の車の助手席に乗り込んだ。
今日は輝美のおすすめのお店へ行くため、輝美の運転なのだ。
助手席に座るなんて、どれくらいぶりだろう…
今まではいつも自分が運転でまーちゃんが助手席だったからな…
そんなことを考えながら食事に向かう信也だった。
そしてまだまだ真理のことを無意識に考えてしまう自分がいることに改めて気づかされ、手紙の最後に書かれていた真理の言葉、「愛してます…」を思い出しながらポツリ…と言うのだった。
「俺だって愛してるよ…」
周りの親達にも気づかないくらいの小声で…
でも、天国の真理には届くように…
