病院より引き上げてきてから、真理の目覚めの連絡がくることを待っていたのだが結局、夜になっても病院からの連絡はこなかった。
…夜も更け、周りも静まり返った頃…
もちろん信也自身もぐっすりと眠りに就いていた。
時間は夜中の1時が過ぎた頃だっただろうか…
昨日の朝早くからの携帯音を思い出すかのように、デジャブに思うような携帯音が鳴り響いた。
寝ぼけまなこで電話にでた信也だったが、直ぐに覚醒したように目が覚めることとなる。
昨日の朝早くに連絡をくれた同じ看護師からの連絡だった。
真理の容態がまた急変したという。
信也はベッドから飛び下りると、着替えもそこそこにズボンだけ履き替え、飛び出すように家を出ると車に飛び乗り病院へ向かった。
病院の駐車場に着くとちょっと冷静になった信也は、思い出したように真理の両親へ連絡した。
そして自分の母親、輝美への連絡をお願いし、病院内へ入りエレベーターへ乗った。
目的の病棟へ着くと周りを気にすることなく、一直線に真理の病室へ向かった。
するとまたもや昨日のデジャブのような光景を目の当たりにする。
何故かすでに輝美が来ており、真理のベッドの横の椅子に座り涙を流していた。
「?…母さん…?なんで…??」
輝美への連絡はつい先ほど、真理の両親へ頼んだはずなのだが…
少々困惑している信也に例の看護師、坂本が声をかけ説明してくれた。
話によると坂本の母親が輝美の大学時代からの友人らしく、昨日の帰りの際に信也が連絡のお願いをした時、輝美も坂本へ個人的に連絡をお願いしていたという。
そのおかげで輝美も信也と同じくらいのタイミングで、知らせをもらうことができたのだ。
「そぅだったんだ…」
誰に言うわけでもなくポツリ…と呟くと、信也も真理の側へ近づいた。
相変わらず酸素マスクをつけ、心電図計測器に繋がれている真理の手を信也がそっと優しく握ると、真理が静かに目を開けた。
「ん?…まーちゃん、どうしたの?…」
酸素マスク越しにボソボソと何かを言おうとしている真理の口元に耳を近づけ、信也は必死で声を聞き取ろうとした。
その行動に真理は弱々しい手で酸素マスクをずらし、ゆっくりと言葉を発し始めた。
「しん君…来てくれたの?…ありがと…お義母さんも泣かないで…笑って…いつもみたいに…笑って…」
真理のその言葉に、輝美は更に涙を流しながらも必死で笑顔を作ろうと笑った。
「ぅん…お義母さんは…笑顔が一番…素敵…」
「そぉ?…私の笑顔、真理ちゃん…好き?…」
「ぅん…大好き…ですよ…」
そこまで話をすると真理は、一度酸素マスクを口へ戻した。
そこへ真理の両親、真司と弥生が到着し病室へ入ってきた。
「真理!…大丈夫か?」
息を切らしながら入ってきた真司の服装は、真理のお願いの一つ、海上自衛隊の制服だった。
「真理…ほら、パパ…今日は制服できたぞ…真理が見たがっていた、パパの制服姿だぞ…」
その言葉を聞くと真理はまた酸素マスクを外し、ゆっくりと真司のほうに首を回し、じっ…と見つめながら嬉しそうに笑顔で言った。
「やっぱりパパは…カッコいいなぁ…」
「そうか…パパ…カッコいいか?…」
「ぅん…私のパパは…カッコいい…制服姿…大好き…」
「…そっか…そっか…」
真司の制服姿を本当に喜んで嬉しそうに笑顔で話をする真理を、他の三人も愛おしそうに見つめていた。
…ハァ…ハァ…ハァ……
4〜5分ほど信也達と会話をしていたが、肩で息をするかのように少し苦しそうに呼吸が乱れてきた。
「真理…酸素マスク…はめよっか…」
真理の様子を見て、弥生が優しくマスクを真理の口元へはめた。
「あっ!そうだ…お義父さんも今日、真理のお願いごとやってきたし…俺も、お願いごとの歌、歌おっかな…」
そう言うと信也は真理の手を優しく握り、例の歌を静かに歌いだした。
♪〜I Love you〜♪今だけは悲しい歌〜聞きたくないよ〜♪
♪〜I Love you〜♪逃れ逃れ辿り着いた〜この部屋〜♪
♪何もかも許された恋じゃないから〜♪
♪二人はまるで捨て猫みたい〜♪
♪この部屋は落葉に埋もれた〜空き箱みたい〜♪
♪だからおまえは小猫の様な泣き声で〜♪ooh〜
信也の真理への気持ちが、そこに居る全員にも伝わるような歌声だった。
そして当の本人、真理には特に伝わっているかのように目を閉じ静かに聞いていた。
その目からはツー…と、一雫の涙が流れ落ちた。
「…ありがとぅ…しん君の…歌声…最後に聞けた…よかった…」
酸素マスク越しに必死で真理は信也へ気持ちを伝えようとした。
「最後だなんて…何言ってんだよ…これからだって、何度でも聞かせてやるよ…」
「…ぅん…」
消えるような声で真理は返事をしながら、信也と繋がれた手を解く(とく)と、その手をそっと信也の頬へあてた。
そしてもう片方の手で酸素マスクを外し、必死で声をふり絞るように言葉を発した。
「しん君…私…幸せ…だった…しん君も…幸せ…だった?…」
「もちろん…あたりまえだろ…俺も、幸せだったに決まってるだろ…」
「…そっか…よかった…」
「これからだって…ずっと一緒に幸せでいるんだろ?…」
「…ぅん…」
それまで二人を静かに見守っていた真理の両親、真司と弥生そして信也の母親、輝美も自分達の気持ちをそれぞれ伝えだした。
「パパだって、真理の父親で幸せだったぞ…初めてパパ、て呼ばれた時は…ほんとに涙がでるくらい、嬉しかったんだぞ…」
「そうよ…ママだって、真理がママみたいな看護師になりたい、て言ってくれた時は…ほんとに嬉しかったわ…真理の母親でほんとに幸せだったわ…」
「真理ちゃん…私ね…娘ができて、ほんとに嬉しかったのよぉ…信也のお嫁さんになってくれて、ありがとうね…私の娘になってくれて、ありがとうね…」
親達それぞれの気持ちを聞きながら、真理は嬉しそうに微笑んだ。
そしてそれと同時に信也の頬にあてていた真理の手が、力無くダラン…とベッドへ落ちた。
「…!?まーちゃん?!まーちゃん?!…」
ダラリと力の無い真理の手をすくい上げるように握ると、信也は声を大にして真理を呼び続けた。
「まーちゃん!まーちゃん!…」
「…あなたの…となりに…いて…いい…です…か…」
それを最後に真理は何も言わなくなり、目を開けなくなった。
「…まーちゃん?…ねぇ…まーちゃん…起きてよ…目…開けてよ…」
「おぃ…真理…嘘だろ?…ほら、パパのカッコいい制服姿…もっと、よく見てくれよ…目、開けないとカッコいいパパ、見れないだろ?真理…」
「ねぇ…真理…ママ達とまた女子会しよう、て約束したじゃない…一緒に買い物して、ご飯食べて…ねぇ…約束したじゃない…真理…」
「真理ちゃん…まだまだいっぱい、一緒に話したいこともやりたい事もあるのよぉ…ねぇ…真理ちゃん…まだまだ、いっぱい…」
そんな様子を病室の入り口付近で静かに見守っていた医師と看護師が、中へ入ってくると静かに真理を診察し診断を告げた。
「◯月◯日、◯時◯分…死亡を確認致しました…ご愁傷さまです…」
その言葉を聞いたとたん、もう息もしていない真理に泣き叫びながら信也はしがみついた。
「嫌だ!嫌だ、嫌だ!…嫌だよぉ…まーちゃん…まーちゃん…俺を置いていかないでよぉ…あっ…歌…歌…まだ最後まで、歌ってないよね…ねぇ…まーちゃん…目…開けて…しん君…て…呼んでよ…笑ってよ…」
泣き崩れる信也を後ろから優しく抱きしめながら、輝美も一緒に泣き崩れた。
その後ろで真司は弥生の肩を抱きながら、悔しそうに顔をしかめ涙を流していた。
弥生も真司にしがみつき、肩を震わせながら泣き崩れていた…
……その後のことは、真理の死を受け入れるも受け入れられないも、そんな信也や両親達の気持ちとは関係なく、お通夜、葬式、火葬…と着々と事は行われていった。
そして全部が終了し喪主として気を張っていた信也だったが、自宅へ帰り着くとそれまで張っていた何かがプツン…と切れたように、誰もいない静かなリビングで白い骨壺を抱きしめながら声を上げ泣き崩れた。
やはりそんな直ぐには真理の死を受け入れられない、いや…受け入れたくない信也にとって、真理の居ない家は孤独や寂しさを尚更感じさせるものであった。
あんなに幸せいっぱいで明るく笑いが満ち暖かかった場所が、今では寒々としたただの空っぽな箱のようだった。
まるで信也の心を表したかのように…
もちろん、これではいけない…きちんと気持ちを切り替えないと…と、自分に言い聞かせ気持ちをふるいたたせようと努力はしていた。
輝美やお店のスタッフ達の気遣いや協力もあって、仕事も一週間ほどお休みをもらっているのだが、ちゃんと復帰して頑張らないと…
そんな感じで時間だけが過ぎていく日々をずるずると過ごしていた信也だったが、輝美や真理の両親、そしてお店のスタッフ達の支えもあり、日々少しずつだが元気を取り戻し笑顔も増えてきていた。
「それじゃ、まーちゃん…仕事行ってくるね…俺、寂しいのは変わんないけど、頑張るから…だから、ちゃんと見守っててね…」
真理の写真や位牌に手を合わせるたびに涙ぐんでいた信也が、今では出勤前の挨拶を笑顔でできるようになるくらいには、前向きになっていた。
「よしっ!今日も頑張るか…」
玄関から外へ出た信也は、自分に言い聞かせ気合いを入れるようにガッツポーズをして車に乗り込み、仕事へ向かった。
この先も真理を思う気持ちや悲しみは、完全に消えさることはないのかもしれない。
だが、だからこそ天国から見守ってくれている真理に叱られないよう、恥ずかしくないような生き方をしなければ…
強くそう心に思い決意し、信也は今日も笑顔で仕事に励むのであった。
…夜も更け、周りも静まり返った頃…
もちろん信也自身もぐっすりと眠りに就いていた。
時間は夜中の1時が過ぎた頃だっただろうか…
昨日の朝早くからの携帯音を思い出すかのように、デジャブに思うような携帯音が鳴り響いた。
寝ぼけまなこで電話にでた信也だったが、直ぐに覚醒したように目が覚めることとなる。
昨日の朝早くに連絡をくれた同じ看護師からの連絡だった。
真理の容態がまた急変したという。
信也はベッドから飛び下りると、着替えもそこそこにズボンだけ履き替え、飛び出すように家を出ると車に飛び乗り病院へ向かった。
病院の駐車場に着くとちょっと冷静になった信也は、思い出したように真理の両親へ連絡した。
そして自分の母親、輝美への連絡をお願いし、病院内へ入りエレベーターへ乗った。
目的の病棟へ着くと周りを気にすることなく、一直線に真理の病室へ向かった。
するとまたもや昨日のデジャブのような光景を目の当たりにする。
何故かすでに輝美が来ており、真理のベッドの横の椅子に座り涙を流していた。
「?…母さん…?なんで…??」
輝美への連絡はつい先ほど、真理の両親へ頼んだはずなのだが…
少々困惑している信也に例の看護師、坂本が声をかけ説明してくれた。
話によると坂本の母親が輝美の大学時代からの友人らしく、昨日の帰りの際に信也が連絡のお願いをした時、輝美も坂本へ個人的に連絡をお願いしていたという。
そのおかげで輝美も信也と同じくらいのタイミングで、知らせをもらうことができたのだ。
「そぅだったんだ…」
誰に言うわけでもなくポツリ…と呟くと、信也も真理の側へ近づいた。
相変わらず酸素マスクをつけ、心電図計測器に繋がれている真理の手を信也がそっと優しく握ると、真理が静かに目を開けた。
「ん?…まーちゃん、どうしたの?…」
酸素マスク越しにボソボソと何かを言おうとしている真理の口元に耳を近づけ、信也は必死で声を聞き取ろうとした。
その行動に真理は弱々しい手で酸素マスクをずらし、ゆっくりと言葉を発し始めた。
「しん君…来てくれたの?…ありがと…お義母さんも泣かないで…笑って…いつもみたいに…笑って…」
真理のその言葉に、輝美は更に涙を流しながらも必死で笑顔を作ろうと笑った。
「ぅん…お義母さんは…笑顔が一番…素敵…」
「そぉ?…私の笑顔、真理ちゃん…好き?…」
「ぅん…大好き…ですよ…」
そこまで話をすると真理は、一度酸素マスクを口へ戻した。
そこへ真理の両親、真司と弥生が到着し病室へ入ってきた。
「真理!…大丈夫か?」
息を切らしながら入ってきた真司の服装は、真理のお願いの一つ、海上自衛隊の制服だった。
「真理…ほら、パパ…今日は制服できたぞ…真理が見たがっていた、パパの制服姿だぞ…」
その言葉を聞くと真理はまた酸素マスクを外し、ゆっくりと真司のほうに首を回し、じっ…と見つめながら嬉しそうに笑顔で言った。
「やっぱりパパは…カッコいいなぁ…」
「そうか…パパ…カッコいいか?…」
「ぅん…私のパパは…カッコいい…制服姿…大好き…」
「…そっか…そっか…」
真司の制服姿を本当に喜んで嬉しそうに笑顔で話をする真理を、他の三人も愛おしそうに見つめていた。
…ハァ…ハァ…ハァ……
4〜5分ほど信也達と会話をしていたが、肩で息をするかのように少し苦しそうに呼吸が乱れてきた。
「真理…酸素マスク…はめよっか…」
真理の様子を見て、弥生が優しくマスクを真理の口元へはめた。
「あっ!そうだ…お義父さんも今日、真理のお願いごとやってきたし…俺も、お願いごとの歌、歌おっかな…」
そう言うと信也は真理の手を優しく握り、例の歌を静かに歌いだした。
♪〜I Love you〜♪今だけは悲しい歌〜聞きたくないよ〜♪
♪〜I Love you〜♪逃れ逃れ辿り着いた〜この部屋〜♪
♪何もかも許された恋じゃないから〜♪
♪二人はまるで捨て猫みたい〜♪
♪この部屋は落葉に埋もれた〜空き箱みたい〜♪
♪だからおまえは小猫の様な泣き声で〜♪ooh〜
信也の真理への気持ちが、そこに居る全員にも伝わるような歌声だった。
そして当の本人、真理には特に伝わっているかのように目を閉じ静かに聞いていた。
その目からはツー…と、一雫の涙が流れ落ちた。
「…ありがとぅ…しん君の…歌声…最後に聞けた…よかった…」
酸素マスク越しに必死で真理は信也へ気持ちを伝えようとした。
「最後だなんて…何言ってんだよ…これからだって、何度でも聞かせてやるよ…」
「…ぅん…」
消えるような声で真理は返事をしながら、信也と繋がれた手を解く(とく)と、その手をそっと信也の頬へあてた。
そしてもう片方の手で酸素マスクを外し、必死で声をふり絞るように言葉を発した。
「しん君…私…幸せ…だった…しん君も…幸せ…だった?…」
「もちろん…あたりまえだろ…俺も、幸せだったに決まってるだろ…」
「…そっか…よかった…」
「これからだって…ずっと一緒に幸せでいるんだろ?…」
「…ぅん…」
それまで二人を静かに見守っていた真理の両親、真司と弥生そして信也の母親、輝美も自分達の気持ちをそれぞれ伝えだした。
「パパだって、真理の父親で幸せだったぞ…初めてパパ、て呼ばれた時は…ほんとに涙がでるくらい、嬉しかったんだぞ…」
「そうよ…ママだって、真理がママみたいな看護師になりたい、て言ってくれた時は…ほんとに嬉しかったわ…真理の母親でほんとに幸せだったわ…」
「真理ちゃん…私ね…娘ができて、ほんとに嬉しかったのよぉ…信也のお嫁さんになってくれて、ありがとうね…私の娘になってくれて、ありがとうね…」
親達それぞれの気持ちを聞きながら、真理は嬉しそうに微笑んだ。
そしてそれと同時に信也の頬にあてていた真理の手が、力無くダラン…とベッドへ落ちた。
「…!?まーちゃん?!まーちゃん?!…」
ダラリと力の無い真理の手をすくい上げるように握ると、信也は声を大にして真理を呼び続けた。
「まーちゃん!まーちゃん!…」
「…あなたの…となりに…いて…いい…です…か…」
それを最後に真理は何も言わなくなり、目を開けなくなった。
「…まーちゃん?…ねぇ…まーちゃん…起きてよ…目…開けてよ…」
「おぃ…真理…嘘だろ?…ほら、パパのカッコいい制服姿…もっと、よく見てくれよ…目、開けないとカッコいいパパ、見れないだろ?真理…」
「ねぇ…真理…ママ達とまた女子会しよう、て約束したじゃない…一緒に買い物して、ご飯食べて…ねぇ…約束したじゃない…真理…」
「真理ちゃん…まだまだいっぱい、一緒に話したいこともやりたい事もあるのよぉ…ねぇ…真理ちゃん…まだまだ、いっぱい…」
そんな様子を病室の入り口付近で静かに見守っていた医師と看護師が、中へ入ってくると静かに真理を診察し診断を告げた。
「◯月◯日、◯時◯分…死亡を確認致しました…ご愁傷さまです…」
その言葉を聞いたとたん、もう息もしていない真理に泣き叫びながら信也はしがみついた。
「嫌だ!嫌だ、嫌だ!…嫌だよぉ…まーちゃん…まーちゃん…俺を置いていかないでよぉ…あっ…歌…歌…まだ最後まで、歌ってないよね…ねぇ…まーちゃん…目…開けて…しん君…て…呼んでよ…笑ってよ…」
泣き崩れる信也を後ろから優しく抱きしめながら、輝美も一緒に泣き崩れた。
その後ろで真司は弥生の肩を抱きながら、悔しそうに顔をしかめ涙を流していた。
弥生も真司にしがみつき、肩を震わせながら泣き崩れていた…
……その後のことは、真理の死を受け入れるも受け入れられないも、そんな信也や両親達の気持ちとは関係なく、お通夜、葬式、火葬…と着々と事は行われていった。
そして全部が終了し喪主として気を張っていた信也だったが、自宅へ帰り着くとそれまで張っていた何かがプツン…と切れたように、誰もいない静かなリビングで白い骨壺を抱きしめながら声を上げ泣き崩れた。
やはりそんな直ぐには真理の死を受け入れられない、いや…受け入れたくない信也にとって、真理の居ない家は孤独や寂しさを尚更感じさせるものであった。
あんなに幸せいっぱいで明るく笑いが満ち暖かかった場所が、今では寒々としたただの空っぽな箱のようだった。
まるで信也の心を表したかのように…
もちろん、これではいけない…きちんと気持ちを切り替えないと…と、自分に言い聞かせ気持ちをふるいたたせようと努力はしていた。
輝美やお店のスタッフ達の気遣いや協力もあって、仕事も一週間ほどお休みをもらっているのだが、ちゃんと復帰して頑張らないと…
そんな感じで時間だけが過ぎていく日々をずるずると過ごしていた信也だったが、輝美や真理の両親、そしてお店のスタッフ達の支えもあり、日々少しずつだが元気を取り戻し笑顔も増えてきていた。
「それじゃ、まーちゃん…仕事行ってくるね…俺、寂しいのは変わんないけど、頑張るから…だから、ちゃんと見守っててね…」
真理の写真や位牌に手を合わせるたびに涙ぐんでいた信也が、今では出勤前の挨拶を笑顔でできるようになるくらいには、前向きになっていた。
「よしっ!今日も頑張るか…」
玄関から外へ出た信也は、自分に言い聞かせ気合いを入れるようにガッツポーズをして車に乗り込み、仕事へ向かった。
この先も真理を思う気持ちや悲しみは、完全に消えさることはないのかもしれない。
だが、だからこそ天国から見守ってくれている真理に叱られないよう、恥ずかしくないような生き方をしなければ…
強くそう心に思い決意し、信也は今日も笑顔で仕事に励むのであった。
