あなたの隣にいてもいいですか…〜最後まで幸せと笑顔をありがとう〜

1ヶ月に1回の経過検診、観察という日々も二年が経過していた。

内診、直腸診、膣断端細胞診(ちつだんたんさいぼうしん)、血液検査(血算、生化学、腫瘍マーカー等)、経膣超音波検査、胸部X線、CT…

毎回このようなことを全部するわけではないが、通院する日は検診のためで一日のほとんどが終わった。

そしてその検診の結果や医師からの話などで、異常のないことが解るとほんとに心から安堵した。

そんなある日の通院日、真理と信也は医師からショックな告知をされることとなった。

「残念ながら再発が確認されました…最近、何か体調に変わったことや痛みなど、気づいたことはなかったですか?」

医師からの言葉に、信也は片手で顔を覆い必死で涙を堪えていた。
その横で真理は血がでるのでは…と思うくらい唇をギュッと噛みしめていた。
そしてその目からはツー…と、静かに涙が流れていた。

そんな二人の様子を見越した医師は、黙って真理へティッシュ箱を差し出した。

「以前にもお話したと思うのですが、子宮体癌での再発は約90%が二年以内という報告もあがっています…5年の経過観察を終えてからも、まれに再発する患者さんも少数みられています…今回の仮屋崎さんの場合は、ほんとに残念ながら90%のほうに入ってしまったようで…」

するとそこまで黙って医師の話を聞いていた信也が、重い口を開いた。

「あの…それで…妻の再発の治療は…あるんですよね?…」

今にも泣きだしそうな表情で訴えるように聞いてくる信也に、医師は慰めるような口調でそれと同時に、申し訳なさそうに返答した。

「今回の再発は転移も見られます…再発が一カ所であれば、居所治療といって『放射線治療』などが検討されるのですが…仮屋崎さんの場合は、肺にも転移しているようなので、全身化学療法が選択されることになります…」

「肺…にもですか…」

医師からの返答に信也は一言呟くように言った後、両手をギュッ…と膝の上で握りしめ、口も同じようにギュッ…と噛みしめた。

「あの…その治療するには、ずっと入院することになるんでしょうか?…」

黙りこくってしまった信也を、チラッと横目で見ながら少し落ち着いてきた真理が口を開いた。

「そうですね…ずっとということはないですが、入退院を繰り返すことにはなるでしょうね…」

「それで…今回の治療はどんなことを…?」

医師の返答を聞くと、真理はすかさず質問をしてきた。

「あっ…そうですね…えぇ~、先ほど言いました、全身化学療法という点滴での投与になります…やり方などは今までとほとんど変わらないので…ただ、抗がん剤の種類がいくつか増えることになります…」

「そうですか…種類が増える、ということは…やっぱり体への負担は今まで以上、てことでしょうか…?」

「あぁ~、いゃあ〜…まぁ、個人差も色々ありますし、副作用や体への負担などはこちらからははっきりとは言えませんが…まぁ、一つはっきり言えるとすれば、以前のような私生活はさすがにちょっと難しくなる、ということですかね…」

「わかりました…」

医師からの返答に真理は一言呟くと、また唇を固く閉じうつむいてしまった。

そんな真理に医師は慰めるように声をかけた。

「私どもも精いっぱいサポートしてお手伝いしていきますから、一緒に頑張りましょう…」

そう言いながら優しく微笑んだ。

すると何故か真理ではなく信也が、「はい…」と涙を流しながら頷いた。

それを見た真理は、「なんで?」というような表情をしながら信也へ声をかけた。

「ねぇ…そこは私のポジションじゃない?なんでしん君が答えてんの?…」

真理に言われ信也は尚更、涙を流しながら答えた。

「まーちゃん…俺も…一緒に…頑張るから…」

泣き顔でぐじゅぐじゅになりながら、信也は必死に真理に訴えるように言った。

「旦那さんはほんとに力強い味方ですね…こんな時こそ、一番の支えになってくれる人が一人でも近くにいてくれることが、ほんとに心強いですから…」

先ほど真理に差し出したティッシュ箱を、今度は信也に差し出しながら医師は言った。

そして二人が少し落ち着くのを待つと、改めて話を始めた。

「とりあえず、次の入院日を決めましょう…そしてその後の治療などは、体の状態や状況を見て進めていきましょう…」

その後は改めてもう一度抗がん剤の説明を受け、二週間後に入院の日取りを決めると、真理と信也は病院を後にした。

自宅へ帰宅する前に、真理の両親へのもとへ寄り再発のことを報告した。

母親の弥生はさすが元看護師なだけあって、少々は動揺するような表情を見せながらも、取り乱すことなく真理達の話を落ち着いて聞いていた。

逆に父親の真司のほうがあからさまに動揺し、真理をギュー…と抱きしめたまま悔しそうに唇を噛みしめ、涙を流していた。

「…クソッ…なんで…なんで…真理なんだよ…」

真司が落ち着くのを待ち、真理は先ほど病院で医師に受けた抗がん剤の説明や再発の可能性の確立の話などをし、二週間後に入院して治療を受けることを話しした。

話を聞いている間、真司は真理の隣に座り肩を包むように抱き、もう片方の手で真理の手を優しく握りしめていた。

その姿は本当に真理を心配し、そして守ろうとする父親の切実な気持ちがふつふつと伝わってきた。

そんな父親の気持ちを全身で受け、感じながら真理は逆に真司を慰めるように声をかけた。

「ねぇ、パパ…そんな辛そうな顔しないで…私、諦めてないから…絶対に諦めないから…」

そう言う言葉と声には、真理の決意の強さが強く感じられた。

その言葉を横で聞いていた母親、弥生は誇らしげに真理を見つめながら呟いた。

「やっぱり真理は私の娘ね…」

すると真司がすかさず、聞きづてならないと言わんばかりに横槍を入れてきた。

「おぃ…真理は俺の娘でもあるぞ…実際、俺に似てるとこだっていっぱいあるしな…」

「あぁ~…はぃはぃ…そんなに視聴しなくても、真理はあなたの子ですよ…頑固なとことか色々と一人で抱えこんで悩んだり考えこんだりするとこなんか、そっくりですもんね…」

「おっ…そうだろ、そうだろ?…やっぱり真理は俺に似てることのほうが多いよな…」

「えぇ…そうね…」

そんな会話をしているうちに、さっきまでの辛そうな険しい表情が真司から少しずつ消えていった。

流石は長年連れ添っているだけある。
夫の機嫌や表情を直す術(すべ)を、よく理解しわかっていらっしゃる。

再発の話で暗い空気になっていたその場も、真司と弥生の夫婦漫才のような会話でたいぶ和み、柔らかくなったようであった。