あなたの隣にいてもいいですか…〜最後まで幸せと笑顔をありがとう〜

二週間の術後入院が無事に終わり、退院し自宅へ帰ってきた真理だが…

術後の症状の一つ、痛みは流石に入院中に医師に相談し硬膜外麻酔を投与にて、痛みを軽減させてもらった。

出血は少量ではあるが相変わらず続いている。

疲労感に関しても回復には時間がかかるそうで、入院時よりはだいぶ動けるようにはなり軽減はしたが、今だに体の重みや辛さが続いている。

そんな真理が信也にお願い事をしてきた。

「あのさ…しん君にちょっと、お願いがあるんだけど…」

「ん?何?…そんなにかしこまっちゃって…」

なんだか遠慮がちにもじもじとしている真理の姿を見ながら、どうした?…というような顔で信也は聞いてきた。

「あのね…髪、切ろうかなぁて…でね、しん君にお願いしたいなぁ…て思って…」

「えっ!?そっかぁ…いいねぇ!イメチェン!」

真理からのお願いながらの提案に、信也は目を輝かせながら答えた。

「じゃぁさ、早速、明日にでもお店においでよ!
せっかくだから、お店で本格的にまーちゃんのイメチェンしちゃお!」

「えと…いいの?急に私なんかが行って…迷惑じゃない?」

思った以上な信也のノリノリの提案に、少し戸惑い気味に真理は言った。

「なんでだよぉ~?めっちゃ大歓迎!…いいじゃん?イメチェン!まーちゃんもさ、ちょっとした気分転換にもなるんじゃない?」

「そっか…確かにね、ここずっと髪に気を配ってなかったし、気分もねちょっと変えたかったんだ…ぅん…ありがと…んじゃ、お言葉に甘えて明日、行ってもいいかな?…」

「もっちろん!ん~~じゃぁ、明日、出勤してから一度、連絡するよ…だいたいの時間、伝えるから…」

「ぅん!わかった…私も準備しながら待ってる…」

「よし…ん…じゃぁ…明日は母さんに頼もう…」

そう独り言のように言うと信也は、「えっ?!ちょっと待って…」という真理の言葉も聞く耳持たず…と聞き流し、直ぐに輝美へ連絡した。

もちろん、輝美の返事は即OK…喜んで迎えに来るとのことだった。

「さっ…これで明日のお迎えはできた…と…」

そう言いながら清々しい表情の笑顔で、真理のほうを向いた。

「ほんっと二人とも、そんなとこ親子よねぇ…」

苦笑いしながら少し呆れ顔で真理は言った。
と…同時に、「ありがとう…」と呟いた。

…次の日、信也は朝お店に出勤しその日のお客の予約や状態を確認すると、スタッフ達に説明し約束どおり直ぐに真理へ連絡を入れた。

その日のスケジュール的には、午後からのほうが忙しくなりそうで…
真理には午前中に来てもらったほうが良さそうだ。

真理へ連絡するともうすでに輝美が来ており、すぐにでも真理を連れて行くということだった。

そしてその電話の約30分後、真理が輝美に連れられて来店してきた。

「おはよう…信也から聞いてると思うけど…
うちのお嫁さんの真理ちゃん…今日はよろしくね…」

受付けにいたスタッフに、輝美は簡単に挨拶をし真理の紹介をした。

「輝美さん、おはようございます…はい、店長から伺ってます…奥様が輝美さんと一緒にいらっしゃるって…」

新人美容師の桃華が、輝美の声かけに丁寧に答えてきた。
そのやり取りに気づき、信也が奥から出てきた。

「母さん、お疲れ…まーちゃんもいらっしゃい…
どうぞ、こちらに…」

輝美に軽く挨拶をすると信也は真理をカット専用の椅子へ誘導した。

「で…どんな感じにする?思いっきりバッサリいっちゃう?」

色々な髪型やアレンジの写真が載っている雑誌を真理に渡しながら、信也は訪ねるように聞いた。

腰ほどまである綺麗なロングの黒髪がそれなりに自慢だったが、今回は思いっきり変えてみたい…と、真理は思っていた。

雑誌を信也と一緒に見ながら、「これもいいね、こんな感じもいいな…」と、それだけでもなんだか楽しかった。

あーだこーだと二人で理論した約10分間…

その結果、ウルフカットにしてみることにした。

綺麗なロングの黒髪をバッサリと切り、ショートヘアとまではないが肩ほどまでの長さになった。

「ぅん…いいじゃない…真理ちゃん、すんごい似合ってる」

カット中、ずっと後ろから何故か心配そうに見守っていた輝美が、愛おしそうな表情で言った。

「そうですか?初めてここまで短くしたけど…この歳で初体験、て感じでなんだか少し恥ずかしいような、嬉しいような…変な感じです…」

鏡の中の自分を見ながら、真理は恥ずかしそうに笑いながら言った。

「初めての体験…素敵じゃない…初めてに年齢なんて関係ないわよ」

「そうだよ、まーちゃん…髪型変えるのもイメチェンも、年齢なんか関係ないよ…それに、ほんとに似合ってるよ…それにして正解だったね」

信也は床に散らばった髪をほうきではきながら、輝美の言葉に続くように言った。

二人からの褒め言葉に、真理はちょっと胸がむず痒くなりながらも、暖かい気持ちになっていた。

「ありがと…やっぱ、今日は思いきって良かったな…」

なんだか一皮むけたようなスッキリした表情で真理は笑顔で言った。

そうこうしていると少しずつお客さんが来店してきた。
それに乗じてお店のスタッフ達も慌ただしく忙しそうに動きだした。

「しん君、今日はありがと…忙しくなりそうだし私、帰るね…」

「あら…ほんとね…お客が入りだしたわね…それじゃ、私達はお昼ご飯でも食べて帰ろうかしら?ね?真理ちゃん…」

輝美の提案に真理は笑顔で、「そうですね…」と答えた。

「いいなぁ…二人で昼飯…」

ちょっといじけたように、羨ましそうに信也が言った。

「なに言ってるの…あんたには真理ちゃんの愛妻弁当があるでしょうが…」

「そうよぉ…久しぶりだったから、いつもよりちょっと張り切って作ったんだから…ちゃんと食べてよぉ」

二人からの反論に信也は少しタジタジになりながらも、なんだか嬉しそうにニマニマと笑いながら呟いた。

「愛妻弁当…いつもより張り切って…」

その姿を見ながら真理と輝美は、二人で顔を見合わせながら呆れるように笑った。

「あっ、そうだ…しん君、さっきちょっと思ったんだけど…もし良かったら、お店のスタッフの皆さん招いて、ホームパーティーとかどうかなぁ…なんて思ったんだけど…あっ…無理強いはしないんだけど…」

「あらっ!ホームパーティー、いいわね…それ、私もお邪魔していいのかしら?」

「もちろん!お義母さんも…あっ、それならうちの両親にも声かけて…」

「いいわねぇ…久しぶりに真理ちゃんのご両親と…」

二人で話がどんどん進みそうになり、流石に信也は割って入った。

「ちょ、ちょ、ちょ…ちょっと待って…その話はあとでお店の皆んなに聞いてみるから…だからとりあえず、お預けで…」

そう言うと信也は真理と輝美をお店の出入り口の方へ促すように誘導した。

二人は、「しょうがないか…」というような顔をしながらお店を出た。

ホームパーティー…さっきは今思いついたように言ったが、実は『やりたい事』の一つだったのだ。

真理は実現できることを楽しみに、ウキウキしながら輝美の車へ乗り込んだ。