スマートフォンで検索を掛けた結果、最近ではラベンダー色が流行らしい、ということだけは解った。

「赤いランドセルって、大分昔だと思う」
「十年とかかな」

「俺らが子供の頃って、赤いランドセルなんか使ってた女子っていたか?」
 洛世が首を捻る。たしかに、言われて見ればそうかもしれない、と晶哉は思う。

「そうかもしれない。……僕たちが、小学校に入学したのって、いまから十年くらい前だよね?」
「ああ。2014年だな」
 その頃。たしかに、晶哉自身も黒いランドセルではなかった。

「洛世のランドセルは何色だった?」
「俺は……青だったな。空色みたいな色」

「意外に明るい色なんだね」
「なんだそれは。そういうお前は?」
「ピンク。サーモンピンクの薄いヤツ」

「小動物みたいなお前なら、さぞかし似合っただろう」
「なにそれ!」

「それはさておき……ということは、あの子は、最近あそこで亡くなった子ではないと言うこと。そして、赤いランドセルを使うくらいの年代の女の子ってことだな」
 スマートフォンで調べると、最初に大手スーパーがカラフルなランドセルを販売したのが2002年ということだった。

 その翌年からいきなり多様なカラーリングにはならないだろう。
 だが、少なくとも、それより以前は、カラフルなランドセルは存在しなかったということだ。

「カラフルなランドセルが当たり前になったのは、そこから十年くらいかかったとして……2012年までは赤いランドセルを使うのが一般的だったと仮定してみる」
 まるで数学の証明問題のような口調だと、晶哉は思いながら、洛世の言葉を聞いた。

「あの子の姿は、どんな感じだった? 俺は、少し、ぼやけて見えていたから、よく解らなくて」
「そうか、僕を通して見てるだけだもんね……たしかね、黄色い帽子と、赤いランドセル。それに、スカートだった。スパッツっていうのかな、タイツみたいで丈が短いやつを穿いてた」

「ランドセルに何かついていなかったか?」
「ランドセル……」
 反射材の付いたキーホルダー、それと、小さな人形のようなものが付いていた。ウサギのかぶり物をした、中年のおじさんが日本酒を片手に持っているという、女子児童がもつには、シュールなキャラクターだ。

「ウサギのかぶり物をした、中年のおじさんのキーホルダー?」
「……ウサギの……」
 洛世はすぐに、スマートフォンで何かを検索しはじめた。

「これじゃないか?」
 洛世がスマートフォンの画面を見せてくる。そこには、ランドセルに付いていたキャラクターがあった。

「オジサンウサギの健次郎というキャラクターらしい」
「なんだそりゃ」

 公式サイトらしく、健次郎のをプロフィールが書かれている。52歳独身。会社はリーマンショックで倒産。今は、貯金を切り崩しながら一日中、四畳半一間のアパートで、「幸せになりてぇよぉ」と嘆きながら、日本酒を飲んでいるという、魂が凍り付きそうな寂しいプロフィールが書かれている。

「2008年のリーマンショック以後の世界でなければ、この設定を書く事は出来ない。少なくとも、2008年から2012年くらいの4年間に絞ることが出来たと考えていいだろう」
「はあ」
 こんな訳の分からないオジサンキャラクターが、推理の糸口になるとは思わなかった。

「2008年から2012年くらいまでのここでの事故情報を探すぞ」
「えっ? あ、うん。でも、どうやって?」

「地方新聞。図書館に行けば、縮小版というのがある。そこに、事故情報が掲載されるだろう」
「え、ネットで検索できないの?」

「ネットに全部の情報が掲載されるとは限らないが、死人が出るほどの事故ならば、新聞には載るだろう。しかも、小学生が亡くなっているなら」

 確かにその通りかも知れなかったが、5年分の新聞をすべて確認するというのは、あまりにもしんどくて、「はあ」と思わず、声が出てしまった。