幽霊の女の子の居場所を、彼女のお兄さんに伝えるというプロジェクトが、急に発足した。
 そして、今、晶哉は、洛世の自宅に居る。

「えっ! 洛ちゃんが、お友達を連れて来たのっ!」
「うん。親友の、晶哉。……晶哉と一緒に勉強しようと思って」
 洛世は、全く悪びれもせずに言う。家は、普通の戸建てだった。小さな庭のスペースには、車が二台。軽自動車と乗用車だった。
 洛世の母は、随分若く見えた。外で洛世と二人で歩いていたら、姉弟でも通じそうだ。

「急にお邪魔して済みません」
「いいのよ! この子、全く、勉強もしないし、お友達もいなかったから心配してたの。晶哉くん、これからよろしくね」
 手を取られて感激された晶哉は、なんとも、尻がむずむずするような心地だった。

「今から、勉強するから」
「うん。ごめんなさいね、全然、お菓子も用意してなくて」

「あ、大丈夫だよ、勉強前にお菓子を食べると、脳の働きが鈍くなるから」
 それは本当だろうか。よく解らないが、毎日、勉強前にお菓子を食べていた晶哉は、少し、どきっとした。

 そして、洛世の部屋に案内され、今は、二人で床に座って、一応、教科書を開いている。
 洛世の部屋は、シンプルだった。余計なものが一つもない。
 ベッドと、ローテーブル。小さなチェスト。その上に教科書が並ぶだけで、娯楽らしいものが一つなかった。
 気が詰まりそうだ、と晶哉は思う。

「名前も分からない女の子をどうやって調べるんだよ、洛世」
 そういえば、ちゃんと話すようになったのは、今日が初めてだったのに、気が付けば、かなり気楽に話していることに気が付いて、晶哉は驚く。

「そうだな……、まずは、身元が分かることが重要だろうな」
 洛世が、目を伏せて、天井を仰ぐ。
 考えるときの、クセなのだろう。

「身元は、どうやって分かるだろうな」
「それが解るなら、苦労はないだろって……あとは、ああいう霊って、その場所から離れられないんだとしたら、あそこで、事故ったってことだよね」

「事故なら良いが」
 洛世の不穏な言葉に、晶哉の心臓が、どくん、と跳ねる。

「じ、こじゃないって?」
「知らないが、事件の可能性もあると言うことだろう」
 たとえば、と聞くのを、晶哉は躊躇った。それは、高校生が、首を突っ込んで良い事件ではない気がする。
 考え込んでしまった晶哉を余所に、洛世がスマートフォンを操作しはじめる。

「どうしたの?」
「ちょっと気になったんだ」

「気になった……」
「女の子のランドセルの色って、何色が一番流行ってるんだろうって。俺は最近、女子が赤、男子が黒っていうランドセルを見てない気がする。アニメとかなら女の子は赤で描かれる気がするが」
 洛世の指摘に、晶哉も「たしかに」と同意した。