手を繋ぐ。
この、綺麗な手を。
あの時―――帰り道では、まるで気にしていなかったが、気にするべきだった。
あの時は、優しい手だと思ったが、手の形状などは、全く気にしている余地がなかったのだった。
「手を、繋ぐよ」
洛世はそう言って、晶哉の手を取った。洛世の手は、温かくて、すべすべしていた。
「……あの、二ノ宮くん?」
問いかけてみたが、洛世は、何も言わずに、ただ一度目を閉じた。長い睫だった。なんとなく、青白い顔色で、長い睫。少し、病的な感じがするが、整った顔だちなので、人形のように美しい。
「やはり、そうだ」
チラリとカウンターの方を見やった洛世は、納得したようすだったが、晶哉は、全く、訳が分からない。
「えっ? なに?」
聞き返すと、今度は返答があった。
「晶哉と手を繋いで居ると、幽霊が見えるようになる。この間も、女の人の幽霊が見えるようになって、驚いたんだ。ここにも居るだろう?」
「えっ、この間、見えてたのに、驚かなかったの?」
一週間前、洛世は、あまりにも平然としていたように見えたが……。
晶哉が疑いの眼差しをしていると、洛世は、小さくため息を吐いた。
「あの時は、半信半疑だった。それに、晶哉が怖がっているのに、俺まで怖がっていたら、それこそ、どうしようもないだろう。俺も驚いたよ」
淡々と、洛世は言う。
「それで、確かめたかったの?」
「それもある。それに、ある程度の確信が持てなかったら、クラスメイトとは言え、手を繋ぎたいと申し出ても、変人だと思われるだけだろう」
という洛世の気遣いは解ったが、思わず、晶哉は呟いてしまう。
「違うベクトルには、完全に変人だと思うけど」
けれど、この言葉は、洛世には意外だったらしい。
「俺のどこが、変人だと?」
「授業中、微動だにせず授業を聞いてたり、教科書を開かなかったり、ノートを取らなかったり……周りの人と全然違うことをしてるから」
この晶哉の言葉に、洛世は、目を大きく見開いていた。
「俺は、変人という扱いだったのか?」
「うん」
晶哉は、深々と肯く。『なんとかと天才は紙一重』というが、とりあえず、『なんとか』のほうでなくて良かったと胸をなで下ろす程度の変人―――という、晶哉の認識は、伝えないでおくことにした。
本人は、至極真面目に『自分は普通』と思っていたらしいからだ。
「晶哉は、最近、俺のことを見ていたから、手を繋ぐと見えるというメカニズムについて、何か知っていることがあるのかと思っていた」
「ご期待に添えずにごめんね。ただ、あんまり絡んだことがなかったのに、親切にしてくれて、お礼を言わなきゃならないと思ってて、何か、会話のきっかけが欲しいなと思っていたんだよ。それに、二ノ宮くんが、存外、いい人だって知らなかったから」
「そういうことだったのか……ああ、俺のことは、二ノ宮くんではなく、洛世で良い。クラスメイトなのだから、名前で呼んで良いだろう。俺も、勝手に、晶哉と呼んでいることだし」
「ちょっと照れるね。でも、ありがとう、洛世。あと、先週は助かりました。おかげで、無事に帰宅出来ました」
「なにか役に立つことが出来たのならば、幸いだ……しかし、晶哉は、いつも、あの道を帰らないのか? また、会えるかと思ってあそこで待ち伏せしていたら、何人かの生徒に泣かれたんだ」
確かに、有名な心霊スポットで、黒学ラン、黒髪の高身長の男がぼんやり立っていたら、さぞかし怖いだろう。
「それは、怖いだろうよ……」
「そうだったのか、それは、申し訳ないことをした」
洛世は、心から、悪かったと思っているようだった。やはり、ちょっと、変な人だと、晶哉は思った。
この、綺麗な手を。
あの時―――帰り道では、まるで気にしていなかったが、気にするべきだった。
あの時は、優しい手だと思ったが、手の形状などは、全く気にしている余地がなかったのだった。
「手を、繋ぐよ」
洛世はそう言って、晶哉の手を取った。洛世の手は、温かくて、すべすべしていた。
「……あの、二ノ宮くん?」
問いかけてみたが、洛世は、何も言わずに、ただ一度目を閉じた。長い睫だった。なんとなく、青白い顔色で、長い睫。少し、病的な感じがするが、整った顔だちなので、人形のように美しい。
「やはり、そうだ」
チラリとカウンターの方を見やった洛世は、納得したようすだったが、晶哉は、全く、訳が分からない。
「えっ? なに?」
聞き返すと、今度は返答があった。
「晶哉と手を繋いで居ると、幽霊が見えるようになる。この間も、女の人の幽霊が見えるようになって、驚いたんだ。ここにも居るだろう?」
「えっ、この間、見えてたのに、驚かなかったの?」
一週間前、洛世は、あまりにも平然としていたように見えたが……。
晶哉が疑いの眼差しをしていると、洛世は、小さくため息を吐いた。
「あの時は、半信半疑だった。それに、晶哉が怖がっているのに、俺まで怖がっていたら、それこそ、どうしようもないだろう。俺も驚いたよ」
淡々と、洛世は言う。
「それで、確かめたかったの?」
「それもある。それに、ある程度の確信が持てなかったら、クラスメイトとは言え、手を繋ぎたいと申し出ても、変人だと思われるだけだろう」
という洛世の気遣いは解ったが、思わず、晶哉は呟いてしまう。
「違うベクトルには、完全に変人だと思うけど」
けれど、この言葉は、洛世には意外だったらしい。
「俺のどこが、変人だと?」
「授業中、微動だにせず授業を聞いてたり、教科書を開かなかったり、ノートを取らなかったり……周りの人と全然違うことをしてるから」
この晶哉の言葉に、洛世は、目を大きく見開いていた。
「俺は、変人という扱いだったのか?」
「うん」
晶哉は、深々と肯く。『なんとかと天才は紙一重』というが、とりあえず、『なんとか』のほうでなくて良かったと胸をなで下ろす程度の変人―――という、晶哉の認識は、伝えないでおくことにした。
本人は、至極真面目に『自分は普通』と思っていたらしいからだ。
「晶哉は、最近、俺のことを見ていたから、手を繋ぐと見えるというメカニズムについて、何か知っていることがあるのかと思っていた」
「ご期待に添えずにごめんね。ただ、あんまり絡んだことがなかったのに、親切にしてくれて、お礼を言わなきゃならないと思ってて、何か、会話のきっかけが欲しいなと思っていたんだよ。それに、二ノ宮くんが、存外、いい人だって知らなかったから」
「そういうことだったのか……ああ、俺のことは、二ノ宮くんではなく、洛世で良い。クラスメイトなのだから、名前で呼んで良いだろう。俺も、勝手に、晶哉と呼んでいることだし」
「ちょっと照れるね。でも、ありがとう、洛世。あと、先週は助かりました。おかげで、無事に帰宅出来ました」
「なにか役に立つことが出来たのならば、幸いだ……しかし、晶哉は、いつも、あの道を帰らないのか? また、会えるかと思ってあそこで待ち伏せしていたら、何人かの生徒に泣かれたんだ」
確かに、有名な心霊スポットで、黒学ラン、黒髪の高身長の男がぼんやり立っていたら、さぞかし怖いだろう。
「それは、怖いだろうよ……」
「そうだったのか、それは、申し訳ないことをした」
洛世は、心から、悪かったと思っているようだった。やはり、ちょっと、変な人だと、晶哉は思った。