西島から、『敵を討ってくれてありがとう』というメールが届いたのは、市議会議員のドラ息子の事故から、一月半ほど経ったころだった。
 小室右京は、『幽霊が化けて出た』と周りにわめき散らして、西島永遠と篠宮里奈の件を自白したらしい。

 もしかしたら、篠宮里奈が、夢に出たのかもしれない。

 それは晶哉には解らないが、ようやく、日々の落ち着きを取り戻したのは、クリスマス前だった。高校も、そろそろ冬休みに入る。
 教室でも『ボランティア同好会の二人』ということで認識され、二人が一緒に居ることには違和感はない状態だ。
 勉強も一緒にしているし、最近では、あちこちに一緒に出掛けたりしている。

 さすがに、クリスマスを過ごす約束まではしていないが、どこかに遊びに行けたら良いなと思いつつ、晶哉は、誘うかどうか迷う。
 断られたら、少しショックだからだ。
 毎日、ゴミ拾いをしてから、一緒に手を繋いで下校して、あの場所で「またな永遠、それじゃあ、里奈さん」と声を掛けるのが日課だった。

 そして、洛世は、もうそこに永遠が居ないのに、毎日、律儀に手を繋いで帰る。
 もはや、習慣化されているのだろう。

 そして、登下校路は、かなり綺麗になったとは思うが、それでも毎日ポイ捨てが耐えない。
「そろそろ、ポイ捨てされない工夫が必要かもね」
 晶哉が言うと、「そうだな」と洛世は素っ気ない。こういうとき、洛世は、何か考えごとがあるのだ。それは、最近気が付いた。
 なので、とくにそれ以上話をしないでいると、洛世がふいに立ち止まった。

「どうしたの?」
「……以前、俺の家で聞いたことがあった。お前の答えを聞いていない」
 洛世は、真剣な眼差しをして居るようだった。暗くて、表情まで、よく見えなかった。

「答え?」
「プライベートゾーン。俺は、触られても構わない。なんなら触って欲しい。……お前がどうか、聞いてない」
 急に、心拍数が跳ね上がる。

 逃げ出したくても、手は、掴まれている。
 まっすぐ。洛世は、晶哉を見ている。それが解る。

「ぼ、僕は」
 声が、上擦った。情けないと思っていると、ぎゅっと握られた手に、力が込められた。
 逃がさないというよりは、応援されているようだった。

「あの」
「うん」

「僕も……触られても良いし、触っても、良いよ……?」
 ホッとし小さく洛世が安堵の吐息を漏らす。

「良かった。あと……それって、俺のことが好きって事で良い、よな?」
「うん。……僕は、好きだけど……」

「俺はずっと、お前が小動物みたいで可愛いって言ってただろ。好きな相手以外に、そんなことを言うわけがない。……それに」
 と、洛世が少し口ごもる。見上げた洛世は、恥ずかしそうな顔をしていたが、やはり、晶哉には、キラキラして見える。

「え?」
「……どうせなら、クリスマスも一緒に過ごしたいと言おうと思っていたから……」
「洛世でも、そう言うこと、思うんだ」

「……当たり前だろう」
 思わず笑うと、洛世も吊られて、笑う。
 そうして、晶哉たちは、手を繋いだまま、家へ帰っていく。

 クリスマスが、待ち遠しかった。


 了