二ノ宮洛世は、クラスの中で別な空気を身に纏っているような人だった。
教室の中で、洛世が笑ったところを見たことはない。誰かと会話をして居るのを見たこともない。
話しかければ、応答はあるらしいのだが、自発的に誰から話しかけると言うところを見たことはない。
そして、異様なのは、授業中の様子だった。
机の上に教科書を置く。そして、じっと、背筋を正して授業を聞いている。
教科書を開いたところを見たことはない。
ノートも取らない。
それで、彼は、どのテストも満点を取る。
一度、クラスメイトが、
「ねぇ、二ノ宮くんは、なんで勉強しないの?」
と聞いたことがある。その時、ざわざわしていた教室は、一瞬で、しん、と静まりかえった。それほど、皆、洛世の答えに興味があったのだった。
「勉強?」
洛世は、非常に不思議そうな顔をして首をかしげる。「しているだろう。勉強なら。授業で講義を聴いている」
「えっ? 教科書も見ないで?」
「年初に購入したときに一読している」
「……ノートも取らないで?」
「どうせ見返さないメモならば、わざわざ書く必要はない」
洛世は、至極不思議そうな顔をしていた。
「そう……なんだ?」
「ああ。俺には、皆が、一心不乱にノートを取っている方が解らない」
洛世の答えを聞いたクラスメイトたちは、納得した。
次元が違う人というのがたまに居るらしいが、コイツは、そういう人物なのだ、と。
教科書は一読すれば理解し、内容を完全に覚え、その補足説明として講義を聴く。そして、ノートを取る必要もない。覚えているならば、確かに、ノートをとる必要はないだろう。
(洛世くん……なのに、よく、僕に声を掛けてくれたな)
晶哉は、先日の帰り道のことを思い出していた。あれから、一週間経ったが、特に、晶哉と洛世の間に、やりとりはない。
たしかに、山道で立ち往生していた晶哉だったが、洛世から声を掛けてくれたのだった。
そして、女の人の幽霊の横を通り過ぎるとき、震えていた晶哉に手を差し出してくれた。
「えっ?」
とまどう晶哉に、「手を繋いで居れば、怖くないだろう」と言って、手を繋いでくれた。
温かくて、安心した。
すこし、その時、変な顔をしたのが気に掛かったが、あの時は、それどころではなかった。
あれから一週間、晶哉は、洛世のことを視線で追っていたが、洛世は、いつも通り、平然としている。
(そういえば、お礼も言えてないんだよなあ……)
あの時のお礼、くらいは言っても良いような気がする。
ただ、どう話しかけて良いか解らなくて、逡巡してしまう。
クラスで声をかけたら、きっと、注目を集めるだろう。
さて、どうしたものか―――と思っていたら、不意に、洛世と視線が絡んだ。
(えっ!?)
授業中に洛世が振り返ったことなど、今まで一度もなかっただろう。
どういう事なのか、と戸惑っていると、洛世の口が、もごもごと動いている。何かを告げているようだった。
(僕?)
と、晶哉は自分を指さしてみると、洛世は、こくん、と肯いてから、教室の時計を指さして、そのあと、廊下のほうを指さした。
(時間になったら、廊下に出ろということかな?)
一応、そう理解したので、晶哉は、ゆっくり肯く。すると、洛世は満足そうに笑ってから、また、まっすぐと前を見やった。
周りの人たちは、今のやりとりを見ているだろうかと思っていると、大体、皆、机に突っ伏して寝ているようだった。
それを知っていて、洛世は、晶哉に指示したのだろう。
(洛世くんが……何の用事だろう……)
心当たりは全くなかったが、晶哉は、休み時間が待ち遠しくなった。
教室の中で、洛世が笑ったところを見たことはない。誰かと会話をして居るのを見たこともない。
話しかければ、応答はあるらしいのだが、自発的に誰から話しかけると言うところを見たことはない。
そして、異様なのは、授業中の様子だった。
机の上に教科書を置く。そして、じっと、背筋を正して授業を聞いている。
教科書を開いたところを見たことはない。
ノートも取らない。
それで、彼は、どのテストも満点を取る。
一度、クラスメイトが、
「ねぇ、二ノ宮くんは、なんで勉強しないの?」
と聞いたことがある。その時、ざわざわしていた教室は、一瞬で、しん、と静まりかえった。それほど、皆、洛世の答えに興味があったのだった。
「勉強?」
洛世は、非常に不思議そうな顔をして首をかしげる。「しているだろう。勉強なら。授業で講義を聴いている」
「えっ? 教科書も見ないで?」
「年初に購入したときに一読している」
「……ノートも取らないで?」
「どうせ見返さないメモならば、わざわざ書く必要はない」
洛世は、至極不思議そうな顔をしていた。
「そう……なんだ?」
「ああ。俺には、皆が、一心不乱にノートを取っている方が解らない」
洛世の答えを聞いたクラスメイトたちは、納得した。
次元が違う人というのがたまに居るらしいが、コイツは、そういう人物なのだ、と。
教科書は一読すれば理解し、内容を完全に覚え、その補足説明として講義を聴く。そして、ノートを取る必要もない。覚えているならば、確かに、ノートをとる必要はないだろう。
(洛世くん……なのに、よく、僕に声を掛けてくれたな)
晶哉は、先日の帰り道のことを思い出していた。あれから、一週間経ったが、特に、晶哉と洛世の間に、やりとりはない。
たしかに、山道で立ち往生していた晶哉だったが、洛世から声を掛けてくれたのだった。
そして、女の人の幽霊の横を通り過ぎるとき、震えていた晶哉に手を差し出してくれた。
「えっ?」
とまどう晶哉に、「手を繋いで居れば、怖くないだろう」と言って、手を繋いでくれた。
温かくて、安心した。
すこし、その時、変な顔をしたのが気に掛かったが、あの時は、それどころではなかった。
あれから一週間、晶哉は、洛世のことを視線で追っていたが、洛世は、いつも通り、平然としている。
(そういえば、お礼も言えてないんだよなあ……)
あの時のお礼、くらいは言っても良いような気がする。
ただ、どう話しかけて良いか解らなくて、逡巡してしまう。
クラスで声をかけたら、きっと、注目を集めるだろう。
さて、どうしたものか―――と思っていたら、不意に、洛世と視線が絡んだ。
(えっ!?)
授業中に洛世が振り返ったことなど、今まで一度もなかっただろう。
どういう事なのか、と戸惑っていると、洛世の口が、もごもごと動いている。何かを告げているようだった。
(僕?)
と、晶哉は自分を指さしてみると、洛世は、こくん、と肯いてから、教室の時計を指さして、そのあと、廊下のほうを指さした。
(時間になったら、廊下に出ろということかな?)
一応、そう理解したので、晶哉は、ゆっくり肯く。すると、洛世は満足そうに笑ってから、また、まっすぐと前を見やった。
周りの人たちは、今のやりとりを見ているだろうかと思っていると、大体、皆、机に突っ伏して寝ているようだった。
それを知っていて、洛世は、晶哉に指示したのだろう。
(洛世くんが……何の用事だろう……)
心当たりは全くなかったが、晶哉は、休み時間が待ち遠しくなった。