朝5時に起き、とわの所に行った。
 洛世はまだ寝ているらしい。鬼電を入れたが、出る気配がなかったので、とりあえずゴミ拾いだけ始めることにした。

 ギリギリまでは待つつもりだが、ある程度になったら、とわに告げてしまおうと思っている。
 そうして、一時間くらいすると次第に、生徒が増えていく。
 そろそろ潮時かと思って、晶哉は「とわ」と呼びかけた。

『おはよう、おにいちゃん……今日は早いね』
「うん。……とわに会いたくてね。洛世も来る予定だったんだけど、寝坊してるみたいだ。……あのね、今日、洛世のお兄さん。黎人さん、連れてくるね」

『れいと。れいとお兄ちゃんっ! 本当に!』
「うん。夕方に来てくれる事になったよ。じゃあ、僕は、一旦、学校に行くね」

『ありがとう、お兄ちゃん!』
 今までになく、とわは嬉しそうな顔をしていた。そんなとわを、あの女性の幽霊が、目を細めて見ていた。




 洛世は、西島に会う前に、経緯を纏めた資料を作っていたらしい。
 ボランティア同好会としての活動報告書の体で、『こんなにゴミがありました!』という内容がメインだがそれとは別途、あのオジサンウサギの健次郎のキーホルダーと、給食袋の発見現場を正確に記していた。恐ろしいことに、GPSで位置を保存していたらしい。

 西島と合流した時、警察は同行してくれなかったらしい。
 だが、西島は「絶対に何か探します」と力強く、言ってくれたのが心強かった。
 現場に連れて行くと、すぐに、とわが出てきた。

『お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃんっ!』
 西島に縋り付いて泣き叫ぶとわの姿を見て、胸がぎゅっと痛んだ。

 この姿を、西島さんにも見て欲しいのに、西島さんは気付いていない。

「晶哉」
「え」

「西島さんに手を繋いで貰え」
 洛世に言われて、ハッとした。戸惑う西島に「済みません。手を繋いで良いですか?」と問いかける。

「いい、ですけど……」
 西島の戸惑いは当然だろう。西島の手は、洛世の手より、もっと大きくて力強かった。手を取ったとき、洛世が、顔を激しく歪めていた。

(とわちゃんの姿が……見えますように……)
 祈りながら西島の手を握る。

「え、なんだ……女の子の泣き声……、もしかして、これ、……悪戯じゃないですよね……」
「違います。西島さん、腰のあたり、見て貰えますか」

「腰? ……えっ? ……永遠? 永遠なのか?」
 西島が驚いた顔をしている。

「晶哉は、霊感が強くて、手を握れば、普段、幽霊が見えない俺でも幽霊を認識出来るみたいです。さすがに、この話は、お伝えしたら悪戯だと思われると思って……」

「じゃあ、君らは、永遠の幽霊を見て、なんとか探そうとしてくれてたのか……」
「済みません」
 西島の頬を、涙が伝っていく。

「ごめんな、とわ。探すのが遅くなって……。こんなところで、怖かっただろ」
『お姉さんが一緒に居てくれたから、大丈夫だよ。お兄ちゃん、会いたかった』

「でも、永遠、なんで、こんな所に? おうちからは、遠いだろ……?」
『あのね、わたし、おうちの近くで車に轢かれたの。それで、ここまで、連れてこられて、捨てられたの。それを見てたお姉さんも、轢かれて……』
 おぞましい話に、ぞっとした。

「永遠……どんな、車……?」
『白くてカッコイイ車だった……お姉さんが、何か持ってるって言ってた。だから、お姉さんも助けてあげて』

「わかった。絶対に、そうする」
 西島は、手を振りほどくと山の中に入って行った。

「どの辺に給食袋があったんですか? 永遠は、自分の場所を教えてくれたんですか?」
「場所は、教えられないみたいです。名前も、教えて貰えなかったので、僕らは給食袋を探すまで、身元が分からなかったんです……」



 西島の執念は、天に届いたらしい。
 そこで、白骨化した、人間の骨が見つかった。