(触りたいか。触られたいか……)
 晶哉は、背筋を冷や汗が流れて行くのを感じていた。

 洛世のことは、気になる。手を繋ぐと、ドキドキするし、洛世だけキラキラして見える。一緒に居たい。

 おそらく、『好き』なのだろうと思う。
 けれど、洛世のほうは、そういう、恋愛感情的な意味なのか、計りかねたし、晶哉自身も、まだ、自信がない。

 これは、恋なのか、と言われると、非常に、迷う。

「晶哉」
 促されて、晶哉は、顔を上げる。洛世が、やや緊張したような面持ちで居るのが、印象的だった。
 なぜ、そんな表情なのか、全く、理解は出来なかったが……。

「あの、僕は……」
 洛世の無言の圧力に耐えかねて、口を開いたとき、洛世のスマートフォンが、着信を告げた。

「晶哉、西島さんだ。とわの、お兄さん」
 洛世はスピーカーモードにして、通話に出た。

「もしもし?」

『夜分に済みません。いま、メールを頂いた、西島です。あの、送っていただいた写真、あれは、妹の、永遠のものだと思います。あの、それで……明日にでも、そちらへ伺いたいのですが……』
「解りました。ただ、俺たちも学校があるので、放課後でよろしいですか?」

『あ、そう……ですよね』
「……もし、本当に、とわちゃんのものならば、地元で捜索している警察のほうに連絡をして頂いて、こちらの地元の警察に連絡を入れて頂ければ、もしかしたら、警察の方も、同行して貰えるのではないでしょうか?」

『たしかに、そうですね! ありがとうございます。最近の高校生は、しっかりしてるんですね……』
「僕たちも、かなりびっくりしてます」

『……見つけて頂いたのは、この二点だけですよね?』
 西島の言いたいことは理解出来た。とわ、がそこに居ないか知りたかったのだろう。

「このあたり、不法投棄が酷くて……、僕たちもゴミ拾いを始めてまだ一月にはならないんですけど、ゴミは、50袋以上になりました。本当に、酷いんです……でも、もし、ここに、とわちゃんがいるなら……、はやく、助けてあげたいです」
 電話先で、息を飲むのが解った。

 晶哉は、今の言葉を後悔した。まるで、死んでいることが前提という言い方になってしまったからだ。生存している家族を捜索している人に対して、無神経だった。

『……そう、ですよね……』

「それは最悪の可能性ですが、もし、なにか遺留品が見つかれば、どうして、遠く離れた隣県に彼女がいたか、手がかりがあるかも知れません。だから、一つでも多くの手がかりを探しましょう」
 洛世の現実的な言葉が、晶哉にはありがたかった。それは、西島も同じだったらしい。

『ありがとうございます。そうですね……本当に、どうして、隣県で……』
「では、俺たちの連絡先は、この番号で。俺たちは、15時45分には授業が終わりますので」

『そうだね。僕も、こっちの警察に行ってから、そちらに向かいます。うちから、車で二時間くらいなので……』
「わかりました。安全運転でおいで下さい。それでは失礼します」
 洛世の丁寧な挨拶と共に、通話は切れる。

「……お兄さん、あした来てくれるんだな」
「とわに、教えてやりたいな」

「たしかに。今からは、さすがに行けないし……」
「明日の朝、ゴミ拾いをしてから行くか」

 一瞬、そう来たか、とは思った晶哉だったが、いきなり来訪を告げるよりは良いだろうとも考えたので「解った」と、返答した。
 かくて、明日の朝は、6時集合で、ゴミ拾いに精を出すことになったのだった。