仕方なく洛世のベッドに上がり込んで、横になる。
 なんとなく、洛世の匂いがあちこちからしているようで、気持ちが落ち着かない。

「そんなに端に寄らなくても良いのに」
「いや、その……あんまり近くでも」

「まあ、とりあえず、眠れば良いだろう」
 寝られそうにないから困っているんだよ、とは晶哉は言わなかった。




 隣からは、洛世の穏やかな寝息が聞こえている。
 熟睡しているらしい。晶哉も気にせずに眠れば良いのだが、なんとなく、そういう気分にはならなかった。

(なんか、僕だけ意識してるみたいでバカみたいなんだけどさ……)

 けれど、いつまでもこのままで居ても仕方がない。
 少なくとも、目を閉じていることにしよう。
 それに、よく考えてみたら、とわの件は、『事件』だ。それに巻き込まれているということだ。死体、があそこにあるのだろう。

 そう思うと、少し怖い。
 とわは、幽霊だし、あそこにいた女性もそうだ。

(あれ、とわは良いけど、あの女の人は……?)
 あの女の人は誰なんだろう。そう思うと、背筋が寒くなる。

 悪い人ではなさそうだが、とわは、あの女の人と知り合いなのだろうか? そして、なぜ、あの時、あそこに立っていたのか……。しかも、洛世の夢に出てきたという。

 洛世には背中を向けていた晶哉だったが、気になって、洛世の顔を覗き込んでみる。
 いつもどおりの、綺麗な顔だった。
 特に悪夢にうなされていると言うこともなさそうで、ホッとした。が、その時。

「わっ!」
 と思わず晶哉は声を上げてしまった。

 洛世の腕が急に伸びてきて、抱きつかれたからだった。

「ちょっ、洛世っ!」
 抵抗するが、洛世は寝ぼけているらしく、ものすごい力で巻き付いてくる。
 抵抗を止めたら、少し力が弱まったのは良かったが。

(え、僕……この状態で……一晩過ごすの……?)
 存外、しっかりした腕の感触だな、などと暢気なことを考えて居ると、先ほどの浴室の裸体を思い出してしまった。

「!!!!」
 一人であたふたしているのも馬鹿馬鹿しいが、落ち着いて寝ることなど到底出来そうにもない。そのまま、目を閉じていることしか出来なかった。


 翌朝、目覚めた時、まだ、洛世の腕の中だった。
 少しでも眠れたことに感謝しながらゆっくりと目を開けると、目の前に、洛世の顔があった。

 洛世は、すでに起きていたが、晶哉を起こしはしなかった。ただ、じっと、晶哉の顔を見ていたようだった。
「ああ、起きたか、おはよう」

「えっ、あ、うん、おはよう……」
「……晶哉は、小さいから抱き心地が良かった。抱き枕みたいで心地が良かったな、俺は、中々安眠出来ない質で眠りが浅いが、おかけでぐっすり眠れた」
 などといいながら洛世が、晴れ晴れとした顔をしていることに、晶哉は、心の底から、イラっとした。

「おまえ……」
「まあ、良いじゃないか。晶哉がイヤなら済まなかったが、俺は、晶哉を抱いて寝るのは悪くなかった」

 なんとも誤解を招きそうな表現だったので、晶哉は、「僕も別に良いけど……外で誰かに言われると困るよ」とだけ、釘を刺しておいた。

 洛世が、ぽかん、と口を開けて理由を聞きたがっていたのを見て、晶哉は、釘を刺して正解だった、と胸をなで下ろした。