二人で入っても、脱衣所は広かった。
 替えの下着や、パジャマを置くスペースも十分にあったし、身体が当たるようなこともなかった。

 風呂も広々とした洗い場、浴槽。シャワーは、頭上から来るものと手持ちの二つ付いていて、思わずためいきが出る。
「なんか、どこもかしこも凄いな……」

「快適ではあるから、そこは恵まれているとは思っている」
 端的に洛世が言うのを聞いて、少しだけホッとした。これを当たり前だと思う人だと、友達をやるには少し辛い。

(うちに来たら卒倒しそう)
 身体を洗って、二人で向き合って浴槽に入った。
 できるだけ、晶哉のほうは洛世の身体を視界に入れないようにして居たのに、洛世は、

「晶哉は、やっぱり身体付きから、小動物みたいだな」
 という謎の意見を言う。どうにも洛世の中で、晶哉のイメージは『小動物』で固定されているらしい。

「なにそれ」
「まあ、可愛いって言う意味で」

「はあ……?」
 少なくとも、このシチュエーションで言うことじゃないな、と思いつつ、晶哉はなんとか聞き流す。

「僕から見たら、洛世は背も高くて、身体も引き締まっててカッコイイと思うけど……」
「なんか、照れるな」
 洛世が笑う。

「なんか、そういえば、良い匂いがするなと思ったんだけど、このシャワージェルの香りじゃなさそうだね」
「良い匂い?」

「うん……最初に手を繋いで帰って貰ったときから、ずっと、近くにすると、そういう匂いがしてる気がして……そう言うことを言ったら、ヘンタイっぽいから言わなかったんだけど」
「俺は、晶哉は、甘い感じの匂いだなって思ってたけどな」

「えっ? ちょっと……なにそれ」
 思わず、晶哉は叫んでいた。
 いつも平然と手を繋いで居る洛世が、何かを考えて居るなど、考えても居なかったのだった。

「俺の匂いを感じるなら、お前だって、お互い様だろう?」
「それは、そうなんだけど……なんか、恥ずかしい」
 変な匂いだったらイヤだな、と晶哉は考え始める。ただ、甘い感じの匂いと言って貰ったからには、そこは問題ないだろうが……。

「……幽霊は、面倒だなとは思ったが、晶哉と仲良くなれたのは良かった」
 臆面もなく言われて、晶哉の心臓が騒ぎ出す。

「そ、そんなの、僕だって、一緒だよ……」
「そうか?」
「うん」

「なら良かった」
 晴れ晴れとした顔をして笑う洛世をみて、胸の鼓動が止まらなかった。

(どうしよう、こんなに心臓がバクバク言ってたら、手を繋いだときにバレちゃうし……)
 バレたら、いけないような気がする。

「晶哉、顔が赤い。のぼせたんじゃないか? うちは少し風呂は熱めなんだ」
「あ、うん……多分、のぼせ、た」
 じゃあ、上がった方が良いと言われるままに、浴槽から出ることにした。