翌日、放課後に図書館へ洛世と一緒に向かった晶哉は、図書館司書に出して貰った、新聞の縮小版を見て、呆然とした。
「あのさ、洛世」
「なんだ」
「これ、一月一冊……?」
「そんなもんだろう。地方新聞と、ブロック新聞、万が一の事を考えて、大手二社を出して貰った。今日は、2008年から行くぞ」
なんでもないことのように、洛世は言う。
「マジカヨ」
思わず呟いてしまった晶哉だったが、司書から「お静かに」と言われて、思わず口許を押さえた。
そこからは、ひたすら、紙面を追いかける作業が、閉館まで続いた。
その後、二人でファストフードの店に入って、飲み物とポテトだけ注文する。山盛りのポテトとカロリーゼロのコーラ。矛盾した注文だとは、理解している。
「2008年はなんとか終わったな」
「死ぬかと思ったよ」
と言いつつ、殆どを洛世が確認している。けれど、最も重要な、地方新聞を任されているので、見落とさないように気を付けていたら、時間が掛かった。
「しかし、手がかりがなかったな」
「そうだね」
「まずは、毎日一年分の確認を頑張ってみよう」
洛世が微笑む。なんとなく、その笑顔に、晶哉はドギマギしてしまって、少し動揺する。
「なあ洛世」
「なんだ?」
「夢は、見たのか? 悪夢を見てるって言ってたと思うけど」
「夢は見た。だが、少々、内容が違ったと思う。……前は『ここに女の子がいるから助けてあげて』だったけど、『はやく私達を見つけて』だった」
「ふうん……」
ポテトを摘まみながら、晶哉は、少し考える。
「なあ」
「ん?」
「……あのさ。新聞で、この人達って言うのが解ったとして……、あの子を『探す』っていうことに繋がるのかな」
洛世が目を見開く。
「たしかに」
「僕には、具体的な方法が解らないけど。物理的な話だったりするのかな、探して欲しいっていうのって」
なんとなく思いついた事を口にしただけの晶哉だったが、洛世は、雷にでも打たれたような衝撃を受けている様子だった。
「え、なに?」
「物理的な話を考えなかった」
「そういうもん?」
「彼らは、物理的に肉体を持っていないだろう? だから、物理的な話とは無縁だと思っていた」
洛世は心底不思議そうな顔をしていたが、すぐに、気持ちを切り替えたようだった。
「じゃあ、まず『物理』で行ってみるか?」
さらりと言われた言葉に、晶哉は息を飲んだ。
「つまり……?」
「あの山を……探す」
「不審に思われないかな」
「たしかに。警察の世話にはなりたくないな」
うーむ、と唸って、洛世は天井を仰ぎながら目を閉じる。
ファストフードの店内は、賑わっていて、塾前らしい小学生が、ハンバーガーのセットをトレイに乗せて席を目指しているのが見えた。
(ああいう子、だったんだろうな)
どこにでもいる、普通の子。きっと、兄を慕っていて出て来てしまったのだろうから、『お兄ちゃん』が好きだったのだろうと、晶哉は推測する。
小学生が二階席へと続く階段の前に差し掛かったとき、他校の男子高校生たちが話ながら降りてきた。彼らは、友達と話すのに夢中で、周りを見ていない。
(あっ)
晶哉が思った時には、遅かった。高校生たちと、小学生が衝突してしまい、小学生は床に転がる。トレイごと、注文した商品も転がっていった。
「はあっ? ちゃんと前を見て歩けよ!」
高校生達が謝るでも気遣うでもなく、罵声を浴びせて去って行こうとするのを、小綺麗な大学生らしい女性が「あんたら、謝りもしないのね。この子は前を向いてた。あんたらはよそ見してたでしょ。店内の防犯カメラの映像出して貰う?」と立ちはだかる。その友人らしい女性や男性が小学生を起こして、片付けを手伝っていた。
「怪我はしてない? 大丈夫?」
と聞くと、膝をすりむいたらしい。絆創膏を貰って、貼っていた。
男子高校生は、バツが悪そうな顔をしていたがそのまま、謝りもせず去って行く。
晶哉の足許にも、ペンケースが転がってきたことに気が付いて、「はい、こっちに転がってきてたよ」と拾って渡してやると、お礼を言われたので恐縮した。
(ホント、アイツら、クズだよな……)
ため息を吐いたとき、はた、と気が付いた。
(あれ……?)
拾ってやった。あたりに散乱した、食事。今はもう、食べられなくなって、ゴミになってしまった食事。
ゴミ。
「洛世。良い方法があるよ!」
「あのさ、洛世」
「なんだ」
「これ、一月一冊……?」
「そんなもんだろう。地方新聞と、ブロック新聞、万が一の事を考えて、大手二社を出して貰った。今日は、2008年から行くぞ」
なんでもないことのように、洛世は言う。
「マジカヨ」
思わず呟いてしまった晶哉だったが、司書から「お静かに」と言われて、思わず口許を押さえた。
そこからは、ひたすら、紙面を追いかける作業が、閉館まで続いた。
その後、二人でファストフードの店に入って、飲み物とポテトだけ注文する。山盛りのポテトとカロリーゼロのコーラ。矛盾した注文だとは、理解している。
「2008年はなんとか終わったな」
「死ぬかと思ったよ」
と言いつつ、殆どを洛世が確認している。けれど、最も重要な、地方新聞を任されているので、見落とさないように気を付けていたら、時間が掛かった。
「しかし、手がかりがなかったな」
「そうだね」
「まずは、毎日一年分の確認を頑張ってみよう」
洛世が微笑む。なんとなく、その笑顔に、晶哉はドギマギしてしまって、少し動揺する。
「なあ洛世」
「なんだ?」
「夢は、見たのか? 悪夢を見てるって言ってたと思うけど」
「夢は見た。だが、少々、内容が違ったと思う。……前は『ここに女の子がいるから助けてあげて』だったけど、『はやく私達を見つけて』だった」
「ふうん……」
ポテトを摘まみながら、晶哉は、少し考える。
「なあ」
「ん?」
「……あのさ。新聞で、この人達って言うのが解ったとして……、あの子を『探す』っていうことに繋がるのかな」
洛世が目を見開く。
「たしかに」
「僕には、具体的な方法が解らないけど。物理的な話だったりするのかな、探して欲しいっていうのって」
なんとなく思いついた事を口にしただけの晶哉だったが、洛世は、雷にでも打たれたような衝撃を受けている様子だった。
「え、なに?」
「物理的な話を考えなかった」
「そういうもん?」
「彼らは、物理的に肉体を持っていないだろう? だから、物理的な話とは無縁だと思っていた」
洛世は心底不思議そうな顔をしていたが、すぐに、気持ちを切り替えたようだった。
「じゃあ、まず『物理』で行ってみるか?」
さらりと言われた言葉に、晶哉は息を飲んだ。
「つまり……?」
「あの山を……探す」
「不審に思われないかな」
「たしかに。警察の世話にはなりたくないな」
うーむ、と唸って、洛世は天井を仰ぎながら目を閉じる。
ファストフードの店内は、賑わっていて、塾前らしい小学生が、ハンバーガーのセットをトレイに乗せて席を目指しているのが見えた。
(ああいう子、だったんだろうな)
どこにでもいる、普通の子。きっと、兄を慕っていて出て来てしまったのだろうから、『お兄ちゃん』が好きだったのだろうと、晶哉は推測する。
小学生が二階席へと続く階段の前に差し掛かったとき、他校の男子高校生たちが話ながら降りてきた。彼らは、友達と話すのに夢中で、周りを見ていない。
(あっ)
晶哉が思った時には、遅かった。高校生たちと、小学生が衝突してしまい、小学生は床に転がる。トレイごと、注文した商品も転がっていった。
「はあっ? ちゃんと前を見て歩けよ!」
高校生達が謝るでも気遣うでもなく、罵声を浴びせて去って行こうとするのを、小綺麗な大学生らしい女性が「あんたら、謝りもしないのね。この子は前を向いてた。あんたらはよそ見してたでしょ。店内の防犯カメラの映像出して貰う?」と立ちはだかる。その友人らしい女性や男性が小学生を起こして、片付けを手伝っていた。
「怪我はしてない? 大丈夫?」
と聞くと、膝をすりむいたらしい。絆創膏を貰って、貼っていた。
男子高校生は、バツが悪そうな顔をしていたがそのまま、謝りもせず去って行く。
晶哉の足許にも、ペンケースが転がってきたことに気が付いて、「はい、こっちに転がってきてたよ」と拾って渡してやると、お礼を言われたので恐縮した。
(ホント、アイツら、クズだよな……)
ため息を吐いたとき、はた、と気が付いた。
(あれ……?)
拾ってやった。あたりに散乱した、食事。今はもう、食べられなくなって、ゴミになってしまった食事。
ゴミ。
「洛世。良い方法があるよ!」