「おい、そんなところで何してるんだ?」

 学校からの帰り道。
 夕方五時を回ると日はとっぷりと暮れて、登下校に使っている市道は、真っ暗になる。学校の近くだというのに電灯もまばらで、真っ黒な学生服で歩いていたら、車に轢かれそうだ。

 呼びかけられた斎木晶哉は、ぎこちなく振り返り、声の主の顔を確認した。

「二ノ宮くん」
 二ノ宮洛世。晶哉のクラスメイトだ。晶哉は、帰宅途中の道の端に立って、進まないでいる。

(進めないんだよ……)
 足がすくんで動けない。晶哉の目の前には、長い髪をした女の人が、恨めしそうにこちらを見ているからだった。
 女の人の霊だ。

(この時間は、こっちは通らないようにしてたのに……)
 晶哉は、霊感が強く、良く、その辺で霊を見かける。通学路として使っている市道は、地元では有名な心霊スポットで、普段ならば帰り道は、別な道を行くが、今日はうっかり、こちらへ来てしまった。

「そんなところでぼんやりしてると、轢かれる」

「ちょっと、怖くて動けなくなるなっちゃって」

 情けないと思いつつ、はは、と笑うと、洛世が小さく意外な言葉を口にした。

「俺と一緒なら歩けるか?」

「えっ!?」
「どうせ町まで降りるだけだろ? 一緒に行けば良いならそれで」
 洛世は、特に何も聞かず、晶哉と一緒に町まで降りてくれた。

 闇の中で洛世はキラキラして見えた。
 黄金色のキラキラ。暖かで居心地の良い空気が流れている。洛世の使っているシャンプーの匂いがわかるほど近くに寄ると、気分が良くなっているのがわかった。空気が清々しいのだ。

 晶哉が霊を見ることが出来るように、洛世もきっと、なにか特殊な体質なのだろう。
 それが、この黄金のキラキラなのだろうと晶哉は思った。