結局。僕が桐生君と付き合う覚悟を決めたのは、告白から2カ月近くが経ってからのことだ。
 桐生君がサッカー部に入ってからは滅多に会えなくなってしまったけど。たまに会う時はハグをされたり頭を撫でられたりしていたから、今の関係のままでもいいのかと思っていた。
 久々に告白のことを思い出したのは、咲月に、「いつまでも桐生君の告白保留にして、そのうち誰かに取られても知らないからね」と言われたからだ。
 咲月はクリスマスを前に桐生君に告白し、フラれて、そのときに、桐生君が僕に告白し返事待ちであることを聞いたらしい。「2か月も返事なしで放置とか、信じらんない!」としばらくは怒りが冷めやらぬ様子だったが、その後すぐに熊さんに告白されて付き合うことにしたらしく、機嫌は治っていた。
 クリスマスの日。僕は桐生君から「花火を見に行かないか?」と誘われた。クリスマスに横浜港で花火が上がるらしい。
 横浜駅はすごい人で、気を抜くと細身の僕は人の波に飲まれてしまう。そのため、桐生君に手を取られて、彼のコートのポケットに誘導された。
 全ての指を絡めるいわゆる恋人繋ぎにしたのは、僕のほうからだ。告白の返事のつもりだった。
 一瞬驚いた顔が満足そうに破顔し、キュッと握り返してくる。
 大桟橋もかなりの人混みだったが、どうにか空いている場所を見つけて座ることができた。
 やがて遠くの闇にひゅるひゅると光の筋が上がり、夜空に大輪の花が咲く。近くで歓声が上がり、遅れて、どん、という音が聞こえてきた。赤に紫に緑にピンク。星の少ない都会の空を、いくつもの華が彩る。
 いつか、病院で見た花火を思い出した。
 あのとき一緒に見た子達も、天国に行ったあの子も、今頃どこかであの花火を見ているだろうか。あの頃は、将来、自分が好きな人と一緒に花火を見る日が来るなんて、想像もできなかった。
 ふと、桐生君がこちらに顔を向けた。その顔が、上から覗き込むように近づいて来る。
 視界の隅で花火が上がる。やがて人影がそれを覆い尽くし……、唇に柔らかいものが触れた。
 一瞬押し付けられただけで、すぐにそれは離れていく。
 続きは人がいないところでな――。耳元で囁くと、揶揄うように片頬を上げ、桐生君は視線を空へと戻した。
 痛いくらいに鼓動が速くなった胸に手を当て、僕も顔を上げる。
 その日、僕は冬の花火に誓いを立てた。
 来年の夏休みに心臓の手術を受けよう。
 君の隣にいたら、僕の心臓はこれ以上もちそうにないから。