「実は俺……、神楽さんのことが好きなんだ……。妹の好みのタイプって、橘平君、知ってる?」
「ええっ!?」
僕はバッと桐生君を見た。
昨日、桐生君が、遊園地に行くメンバーの中に咲月のことを気に入ってる人がいると言っていたのは、もしかして熊さんのことだったのか……。
しかし、家での傍若無人ぶりを見ている身としては、俄かには信じられなかった。
「咲月のどこがいいんだ?」
熊さんの顔が、みるみる赤くなっていく。きょろきょろと挙動不審に視線を泳がせて。
「一番いいと思うのは優しいところかな」
体格に似合わないか細い声で言った。
「どこが?あれのどこが優しいんだ?」
「前に俺が部活で右の手首を痛めたことがあって、左手で黒板を消してたら、神楽さんがすぐに気づいて、右手怪我したの?って言って黒板消しを変わってくれたんだ。あと、文字を書きにくいだろうからってノートのコピーもくれた。他の人に対しても、体調が悪そうなときとか、声かけてあげてるの見たことある」
まぁ、確かに、そういうことなら、納得のいく話ではある。
昔から、ちょっとしたことで僕が呼吸苦を起こしたり躓いて転んだりするせいで、小学生の頃はあいつが母親みたいに僕のことを気にかけていた。その延長で、今も他人の体調に意識が行くのだろう。
「告白はしないのか?多分あいつ今、彼氏いないぞ」
「女子が恋バナしてるとこ、たまたま聞いちゃって……。神楽さん、桐生君がフリーなら告白するのにって言ってたんだよね……」
急に気まずい空気になった。
好きな相手が桐生君と聞いても諦めないところは、恋愛ごとに無縁の僕としては、メンタルつえーなと秘かに尊敬する。
「桐生君は、咲月と付き合う気はないの?」
熊さんへの遠慮から、控えめに桐生君に訊ねる。
「顔は好みだけどな」
桐生君は、片頬だけを上げる意味深な笑みを浮かべてみせた。
「俺よりも熊のほうが彼女には合ってる」
昨日も、そんなことを言っていた。
僕も、ぶっちゃけ、桐生君よりは熊さんのほうが安心できるけど。咲月の気持ちもあるからなぁ。
しかし、畏まった熊さんから、餌をねだる犬のような期待の眼差しを向けられると、無碍にもできない。
「咲月の好みのタイプは僕も知らないけど……」
面食いなのは間違いないが、それについては伏せておく。
「自分のことを優先してくれる人が、あいつは好きだと思う」
よくわからない、といった感じで、熊さんがきょとんとした顔をする。
「僕が病気持ちだったから、うちではいつも僕のことが優先されていたんだ。小さい頃は、入院のたびに母親が付き添っていたから、その間、妹は祖母の家に預けられていた。外出の予定を立てても、僕が体調を崩して中止になることはしょっちゅうだったし……。だから咲月は、自分のことを甘やかして、一番大事にしてくれる人に弱いと思う」
「俺、神楽さんのこと、誰よりも大事にします!」
膝の上に置いていた両手を一回り以上大きな手に握られ、僕は思わず、体を引き気味にのけ反らせた。
「大事にする前に、まずは告白だろ」
熊さんの大きな手は、桐生君によってぺりっと引き剥される。
「神楽さんと二人きりになると、緊張して急に喋れなくなるんだよ……。そうだ!」
熊さんが、何かを閃いた顔をした。
「橘平君が練習相手になってくれない?眼鏡取ってカツラかぶったら、咲月ちゃんに見えるから、女装して、俺の話し相手になって!」
再び手を握ってきそうな勢いの熊さんを、桐生君が今度は肩のあたりを足蹴にする。
「そんなしょうもないこと頼むな」
女装した僕に彼女の替え玉をさせたのはどこのどいつだ!と全力で言ってやりたかった。
廊下のほうから足音と声が近付いてくる。どうやら女子会が終わったようだ。それに合わせて男子会も終了し、客人の4人は帰って行った。
「ええっ!?」
僕はバッと桐生君を見た。
昨日、桐生君が、遊園地に行くメンバーの中に咲月のことを気に入ってる人がいると言っていたのは、もしかして熊さんのことだったのか……。
しかし、家での傍若無人ぶりを見ている身としては、俄かには信じられなかった。
「咲月のどこがいいんだ?」
熊さんの顔が、みるみる赤くなっていく。きょろきょろと挙動不審に視線を泳がせて。
「一番いいと思うのは優しいところかな」
体格に似合わないか細い声で言った。
「どこが?あれのどこが優しいんだ?」
「前に俺が部活で右の手首を痛めたことがあって、左手で黒板を消してたら、神楽さんがすぐに気づいて、右手怪我したの?って言って黒板消しを変わってくれたんだ。あと、文字を書きにくいだろうからってノートのコピーもくれた。他の人に対しても、体調が悪そうなときとか、声かけてあげてるの見たことある」
まぁ、確かに、そういうことなら、納得のいく話ではある。
昔から、ちょっとしたことで僕が呼吸苦を起こしたり躓いて転んだりするせいで、小学生の頃はあいつが母親みたいに僕のことを気にかけていた。その延長で、今も他人の体調に意識が行くのだろう。
「告白はしないのか?多分あいつ今、彼氏いないぞ」
「女子が恋バナしてるとこ、たまたま聞いちゃって……。神楽さん、桐生君がフリーなら告白するのにって言ってたんだよね……」
急に気まずい空気になった。
好きな相手が桐生君と聞いても諦めないところは、恋愛ごとに無縁の僕としては、メンタルつえーなと秘かに尊敬する。
「桐生君は、咲月と付き合う気はないの?」
熊さんへの遠慮から、控えめに桐生君に訊ねる。
「顔は好みだけどな」
桐生君は、片頬だけを上げる意味深な笑みを浮かべてみせた。
「俺よりも熊のほうが彼女には合ってる」
昨日も、そんなことを言っていた。
僕も、ぶっちゃけ、桐生君よりは熊さんのほうが安心できるけど。咲月の気持ちもあるからなぁ。
しかし、畏まった熊さんから、餌をねだる犬のような期待の眼差しを向けられると、無碍にもできない。
「咲月の好みのタイプは僕も知らないけど……」
面食いなのは間違いないが、それについては伏せておく。
「自分のことを優先してくれる人が、あいつは好きだと思う」
よくわからない、といった感じで、熊さんがきょとんとした顔をする。
「僕が病気持ちだったから、うちではいつも僕のことが優先されていたんだ。小さい頃は、入院のたびに母親が付き添っていたから、その間、妹は祖母の家に預けられていた。外出の予定を立てても、僕が体調を崩して中止になることはしょっちゅうだったし……。だから咲月は、自分のことを甘やかして、一番大事にしてくれる人に弱いと思う」
「俺、神楽さんのこと、誰よりも大事にします!」
膝の上に置いていた両手を一回り以上大きな手に握られ、僕は思わず、体を引き気味にのけ反らせた。
「大事にする前に、まずは告白だろ」
熊さんの大きな手は、桐生君によってぺりっと引き剥される。
「神楽さんと二人きりになると、緊張して急に喋れなくなるんだよ……。そうだ!」
熊さんが、何かを閃いた顔をした。
「橘平君が練習相手になってくれない?眼鏡取ってカツラかぶったら、咲月ちゃんに見えるから、女装して、俺の話し相手になって!」
再び手を握ってきそうな勢いの熊さんを、桐生君が今度は肩のあたりを足蹴にする。
「そんなしょうもないこと頼むな」
女装した僕に彼女の替え玉をさせたのはどこのどいつだ!と全力で言ってやりたかった。
廊下のほうから足音と声が近付いてくる。どうやら女子会が終わったようだ。それに合わせて男子会も終了し、客人の4人は帰って行った。