勉強会は、彼らが遊園地に行った翌日に開催された。学校は秋休み中なので、場所は我が家のリビング。しかも、勝手に参加者が増やされていた。
「2人教えるのも5人教えるのも一緒でしょ」
と例の如く咲月が勝手なことを言って、無理やり僕に事後承諾させたのだ。
咲月と桐生君以外の参加者は、男子一人女子二人の計三人。男子はラグビー部で、身長は桐生君くらいで横幅は僕の2倍はある、これまた高1とは思えない体格の人だった。名前は駒田壮介。彼のことはみんな、「熊さん」とか「熊」と呼んでいるらしい。顔も、丸顔につぶらな瞳をしていて、熊っぽい。
女子の一人は追試のとき、女装した僕に話しかけてきたギャル系女子の夏目美羽。普段の僕は黒縁眼鏡をかけて前髪も長めのせいか、僕が咲月の双子の兄だと自己紹介しても、追試を受けていたのが僕だとは全く気付いていなさそうだった。
もう一人の女子は久世伊緒莉。彼女は追試組ではないが、理数系が苦手らしい。現国が得意で、逆に僕は現国が一番苦手で咲月もそれを知っているので、現国の助っ人として彼女に声をかけたようだ。
熊さんだけ午前中はラグビー部の練習があったため、14時頃に遅れてやってきたが、他の人たちは昼食持参で午前中のうちに集まった。
意外なほどにみんなちゃんと真面目に勉強していたし、僕も現国の解き方のポイントを久世さんに教えてもらったりしたから、それなりに有意義な時間だったと思う。
夕方になり勉強会は終了し、女子達が女子会と称して2階の咲月の部屋に行ったので、必然的に僕達はリビングで男子会をすることになった。
「なぁ、熊。お前の知り合いに、誰か代わりに合コンに行ってくれる奴いねえ?今週の土曜だけど」
女子二人が差し入れに持ってきてくれたドーナツを食べながら、桐生君が熊さんにそんなことを訊ねている。僕はおやつを食べると夕食を食べられなくなるので、隣で紅茶を飲んでいた。
「何で合コン行かないことにしたんだ?追試の日に彼女と別れるって言ってなかったか?もしかしてもう新しい彼女ができた?」
桐生君は、僕をチラリと一瞥した。
「彼女とは別れた。新しい彼女はいない。そういうのがちょっと面倒になっただけだ」
熊さんは口に運ぼうとしていたドーナツを下ろし、つぶらな瞳を更に丸くする。
「急に勉強会するって言ったり、合コン行かないって言ったり、どうしたんだ?もしかして、次は女教師でも狙ってるのか?」
これには、僕まで、口に含んでいた紅茶を噴き出しそうになった。慌てて飲み込んだから、ゴホゴホと咳き込んでしまう。
「大丈夫か?」
隣にいた桐生君が背中をさすってくれる。
「お前が馬鹿なこと言うから橘平がむせただろ」
「ご、ごめん」
熊さんが神妙な面持ちになり、僕は「大丈夫だよ」と返した。そもそもは友達からそんなことを言われる桐生君の素行の悪さの所為だ。
熊さんは僕の咳き込みが落ち着いたことに安堵した様子で、再びドーナツを口へと運ぶ。
「お前が彼女と別れたって知られたら、告白する女子の行列ができるだろうなぁ」
「それはないけど。色々言われるのは面倒だから、別れたことはここだけの話にしておいてくれ」
「熊さんはそういうの行かないの?」
僕は初めて口を挟んだ。
熊さんに今彼女がいなくて出会いを求めているのなら、熊さんが代わりに行けばいいと思ったのだ。体格に似合わず愛嬌がある顔をしているので、それをいいと思う女子もいると思う。
熊さんと桐生君が顔を見合わせて、なんとなく微妙な空気になった。
熊さんは残りのドーナツを口の中に放り込むと、急にソファから降り、ラグの上に正座した。
「2人教えるのも5人教えるのも一緒でしょ」
と例の如く咲月が勝手なことを言って、無理やり僕に事後承諾させたのだ。
咲月と桐生君以外の参加者は、男子一人女子二人の計三人。男子はラグビー部で、身長は桐生君くらいで横幅は僕の2倍はある、これまた高1とは思えない体格の人だった。名前は駒田壮介。彼のことはみんな、「熊さん」とか「熊」と呼んでいるらしい。顔も、丸顔につぶらな瞳をしていて、熊っぽい。
女子の一人は追試のとき、女装した僕に話しかけてきたギャル系女子の夏目美羽。普段の僕は黒縁眼鏡をかけて前髪も長めのせいか、僕が咲月の双子の兄だと自己紹介しても、追試を受けていたのが僕だとは全く気付いていなさそうだった。
もう一人の女子は久世伊緒莉。彼女は追試組ではないが、理数系が苦手らしい。現国が得意で、逆に僕は現国が一番苦手で咲月もそれを知っているので、現国の助っ人として彼女に声をかけたようだ。
熊さんだけ午前中はラグビー部の練習があったため、14時頃に遅れてやってきたが、他の人たちは昼食持参で午前中のうちに集まった。
意外なほどにみんなちゃんと真面目に勉強していたし、僕も現国の解き方のポイントを久世さんに教えてもらったりしたから、それなりに有意義な時間だったと思う。
夕方になり勉強会は終了し、女子達が女子会と称して2階の咲月の部屋に行ったので、必然的に僕達はリビングで男子会をすることになった。
「なぁ、熊。お前の知り合いに、誰か代わりに合コンに行ってくれる奴いねえ?今週の土曜だけど」
女子二人が差し入れに持ってきてくれたドーナツを食べながら、桐生君が熊さんにそんなことを訊ねている。僕はおやつを食べると夕食を食べられなくなるので、隣で紅茶を飲んでいた。
「何で合コン行かないことにしたんだ?追試の日に彼女と別れるって言ってなかったか?もしかしてもう新しい彼女ができた?」
桐生君は、僕をチラリと一瞥した。
「彼女とは別れた。新しい彼女はいない。そういうのがちょっと面倒になっただけだ」
熊さんは口に運ぼうとしていたドーナツを下ろし、つぶらな瞳を更に丸くする。
「急に勉強会するって言ったり、合コン行かないって言ったり、どうしたんだ?もしかして、次は女教師でも狙ってるのか?」
これには、僕まで、口に含んでいた紅茶を噴き出しそうになった。慌てて飲み込んだから、ゴホゴホと咳き込んでしまう。
「大丈夫か?」
隣にいた桐生君が背中をさすってくれる。
「お前が馬鹿なこと言うから橘平がむせただろ」
「ご、ごめん」
熊さんが神妙な面持ちになり、僕は「大丈夫だよ」と返した。そもそもは友達からそんなことを言われる桐生君の素行の悪さの所為だ。
熊さんは僕の咳き込みが落ち着いたことに安堵した様子で、再びドーナツを口へと運ぶ。
「お前が彼女と別れたって知られたら、告白する女子の行列ができるだろうなぁ」
「それはないけど。色々言われるのは面倒だから、別れたことはここだけの話にしておいてくれ」
「熊さんはそういうの行かないの?」
僕は初めて口を挟んだ。
熊さんに今彼女がいなくて出会いを求めているのなら、熊さんが代わりに行けばいいと思ったのだ。体格に似合わず愛嬌がある顔をしているので、それをいいと思う女子もいると思う。
熊さんと桐生君が顔を見合わせて、なんとなく微妙な空気になった。
熊さんは残りのドーナツを口の中に放り込むと、急にソファから降り、ラグの上に正座した。