家に帰るなり自室へ向かった。ベッドに仰向けに横たわる。
 心臓がまだドキドキしていた。
 ふざけてなどいなかった。
 間違ったわけではない、遊びでもないと言うのなら、本気ということだ。
 何か言おうとしていた。
 あの流れでなら、どんな言葉が出てくるか、自惚れではなく想像がつく。

 口元を手で覆う。
 感触が残っている。
 嫌ではなかった。
 だってこれは、特別だという印だ。
 たくさんの人に囲まれて好かれている渉の、たった一人の特別なのだと。
 それが、嫌なわけがない。
 
 渉を好きかと聞かれれば、好きだと答えるだろう。
 ずっとそばにいてほしい。
 この感情がなんなのか、恋なのかどうかもわからない。
 目を閉じると、渉の笑顔が浮かんだ。
 あの笑顔をずっと見ていたい。自分だけ見てほしいくらいに。
 それが恋だというのなら、自分は渉に恋しているのだろうか。
 わからない。
 友情でも恋愛でもなんでもいい。
 誰よりも近くにいられるなら。
 曖昧で、まだ掴みきれない気持ちに無理に名前をつける必要はないはずだ。
 ゆっくりと考えればいい。
 この先も一緒なのだから。