「じゃ、またな。合宿前に一回会おうぜ」

「ああ。また連絡するから」

 別れの言葉はやはりごく普通だった。

 瑞希はアパートの下から、玲望がカンカン、と音を立てて外階段をのぼるのを見守った。

 玲望はすぐに自分の部屋の前にたどり着いて、鍵を差し込む。

 ドアを開けた。

 中に入る前。

 瑞希のほうを見て、ちょっとだけ顔を緩めた。

 微笑を浮かべてくれる。

 それにつられるように、瑞希も笑みを浮かべて、手をあげた。

 今度は玲望がそれに応えてひらっと手を振って、そしてドアの中へ消えていった。

 瑞希は数秒だけその場に佇んだけれど、すぐに歩き出した。

 今度は一人の夜の帰り道。

 そう遠くはないのだ。

 十分もすれば着いてしまう。

 なんだか軽快に感じた。

 足取りも、気持ちも。

 おかしなものだ、ただファミレスから玲望の家まで一緒に帰っただけだというのに。

 そんな短い時間が、これほど明るい気持ちをくれる。

 来週は合宿だ。

 瑞希は不意に違うほうへ思考を向けた。

 今日のバザーが終わったのだから、気持ちを次へと切り替えなくてはいけない。

 それはボラ研の部長として大切なことだ。

 合宿の計画は完璧なのだから、あとはそれに沿って実行するのみ。

 部長として気を引き締めるけれど、でも、自分も楽しもう。

 そういう前向きな気持ちが生まれていた。

 玲望としっかり繋いだ、あたたかな手。

 その手が瑞希を、玲望が居ない時間も元気でいさせてくれる、そんな気がして。