「じゃあそう言わなきゃだろ。ほら」

 玲望は冷たい口調で言った。

 瑞希が志摩にいい返事をする、つまり自分と別れて乗り換えるなどとは思っていないかもしれない。

 信頼関係は二年間で築かれてきていたし、ここでそんなことを疑うほど玲望は愚かではないはずだ。

 けれど気持ちは別だ。

 不快だと感じた気持ちは別だ。

 瑞希はその気持ちを与えてしまったのだ。

 そして玲望の言うことは正論。

 すぐに適切な返事が浮かばない。

「はっきりさせないヤツと居たいもんか。……帰る」

 もう一度、ぎゅっと瑞希を睨みつけて、玲望はまたもまっとうなことを言った。

 瑞希は今度こそ衝撃で口が止まってしまった。

 その間に玲望は今度こそしっかり靴を履き替えて、さっさと行ってしまった。

 瑞希は立ち尽くすしかない。

 一体、なにが起こったというのか。

 言葉にしてみれば単純なことだ。

 自分が女子後輩に優しくしていた。

 玲望はそれに不快になった。

 おまけに告白まがいのことを言われた。

 すぐになにも言えなかった。

 玲望はそれを見た。

 それでもっと不快になった。

 それだけ。

 けれど怒涛のような展開に、瑞希もついていけなくて。

 ただぐしゃっと髪を搔き乱した。

 これではいけない、と思う。

 今、玲望を追いかけてもう一度捕まえたところで、今やり取りできることはないだろう。

 「ごめん」「はっきり話したよ」「断ったよ」

 そして「お前の気持ちを考えなくて悪かった」。

 それら、言うべき言葉は今、言えない。

 情けない。

 瑞希の顔が歪む。

 楽しい時間になるはずだった。

 けれど、玲望に、そしてもうひとついうなら志摩にも嫌な思いをさせてしまった。

 馬鹿か、俺は。

 今の瑞希はそう自嘲するしかなかったのである。